第118話 転移門

ライブが開始され、俺の仮想ウィンドウにもその撮影画面とコメント欄などが流れ出す。

なんかその場のノリで協力することになったヨグに準備が整った合図を送り、配信を初めてもらう。


『ついこの間ぶりだなプレイヤー諸君。ダンジョン『増蝕の迷宮エクステラビリンス』の主プレジャだ』


『今日は他でもない、本日俺のダンジョンの新階層に初入場したパーティーがついに現れてな。これを機に話したいことあるんだ』


『まず本題の前にこの映像を見てくれ』


ライブの画面が切り替わり、『陽火団』クラリス率いるパーティーが11階層に着き攻略していく様子が流れる。


そう、これが今回の配信の主な目的。こいつらだけチュートリアルを受けてもあんま意味ないからな。他のプレイヤーへの宣伝ついでに利用させてもらった。


ああ、無論プライベート設定で彼女らの顔などは認識出来ないよう自動で加工されているからそこは安心だ。

ただ、若干1名その設定を怠った見覚えのある風属性の魔法使いが居たものだから余計な手間は掛かっているが。


動画編集も実はヘンダーが暇な時にボイスチャット越しに教えてもらってたから、不要な部分はちゃんと切り取ったり隠せたりは出来るようになったのだ。『魔王』時代に動画も出してただけあってそこそこ詳しく、良いVR用の撮影ソフトや編集ソフトなんかを紹介してもらったりもした。


何でここまでするのかと聞くと、ヘンダーが曰く俺のそこら辺の技術があんまりだったので見てられなかったそうだ。仮にも自分の後を継ぐ形なんだからこういうのは出来るだけ手抜かりないように、とも言われたな。


兎にも角にも、彼女らの攻略の要所々々がライブに流れ、最後にあのギミックにより死に戻った場面を機に画面がまた切り替わる。

それはこのライブを流したもうひとつの目的を達成するため。


『見てもらった通り、これが新階層の序盤。11階層の各要素だ』


『少し補足を入れると攻略の要になる星魔石は11階層以降の全階層で取れる』


『それとだが、1回でも11階層に到達したものには転移門を設置しそれを利用する許可を与えよう』


『不正に関しては安心しろ、ホーム機能からの訪問者の記録データを管理し、それをリアルタイムで公表するので誤魔化しは効かないと思っていい。このことはちゃんと契約の決め事にも追加しよう』


―― ショートカットの転移門の設置。

これを言い出した瞬間、コメント欄が激しく流れ出す。


まぁ、そうだろうな。11階層では今は人気の上昇中の光属性と重力を操れるらしき星属性の魔石が取れる。

どっちもゲーマーとしてロマンを感じる代物を手軽に取りにいけるようになるかも知れないのだ。これは攻略意欲にいい感じで火が着いたことだろう。


ダンジョン防衛の観点からしたらあまりやりたくない手だが、人を集めてナンボなのがこの商売なのだから仕方がない。


それに……道が長くなるのに転移手段がないダンジョンほどクソつまんねーものはないってのはゲーマーの共通認識だと思います。俺は自分のダンジョンをそんなクソダンジョンしたくねー。


『それでは皆の挑戦を心から待っている、今日はこれにてさらばだ!』


カメラを切られたのを確認して安堵の息を吐いて、近くのソファーに座り込む。


「ふぅ……やっぱりあのロールは疲れる」

「きゅ~」

「ならしなきゃいいだろに。どうせ素は見られてんだろ?」

「そうなんだけどさ……折角ならそれっぽいことやりたいから。リアルの方じゃこんなノリ、恥ずかしくて絶対に無理なわけだし。それに……見てる側もこっちの方が盛り上がるだろ?」

「がはははー! そりゃ確かに! ぶっ倒す悪役には演じ切って貰わねーと下がるってもんだ!」


そう、正にその通り。

俺の立ち位置は言わばラスボスを倒したあとに出て来る、黒幕に近いと思っている。

そんなやつが普段の俺みたくあんな余裕のない態度では話にならない。


「そういう意味じゃ前レースの時は振る舞いは及第点以下だった……。だから今回は挽回出来るよう、圧倒的な敵対者としてプレイヤーの前に立ちはだかりたい。そして、そのためにはそれ相応の力も当然要る」

「ああ、だからまた俺にも手伝えてんだろ? ったく、てめぇも人使いが荒いぜ」

「それ言うなら、今も何やら変な機械で囲んでるその石ころ解放してから言え」

「――!」


ちなみにこうして俺たちが話してる間にもヨグは天眼魔石アストロ・アゲートに正体不明の観測機器たちを試していた。


謎のアンテナを周りに設置ししてるのもいれば、今も手に持って近付けたり離したりもしてるのもいる。何をしてるのか説明を聞いてもさっぱり分かんなかったのでそれに関してはもう気にしないことにしている。


それにどうせ何かされんのはあの石ころだし、なら同情の必要もねー。

なんか声なき声でこちらに訴えかけている気もするが、それも無視だ無視。


「やってる俺が言うのもなんだが、てめぇも大概鬼畜だよな……」

「いや、そいつにはマジで同情の余地は皆無なんで……んなことよりも、先の話だ。これ、ヨグの手借りれば俺も改造出来るって本当か?」

「ああ、本当だぜ」


手に持っている増職の星杖……職業装備ジョブウェポンを出しながらいう。

ヨグの言うには彼が改造系スキルの補助すれば、俺の『魔刻』を武器や防具、アクセに刻むのだって可能だとのこと。


俺単体だとそれ用のスキルがないから無理なんだよな。無理にやっても間違いなく無駄に耐久値を削るだけ。不壊属性の杖に関しちゃ石に灸も同然だ。


ある程度、捨て装備で練習は必要らしいが……今すぐは行きたいクエストもなし、暫くはダンジョンに籠もりながら励むつもりだ。


「つーか俺が『戯人衆ロキ』に入れられた理由の大半はその辺が原因なんだよ」

「そうなのか?」

「おう、何でもこんなレア装備、ロストの事考えずバラせんのは俺しかいねぇんだとよ。けっ、他の職人連中が腰抜けじゃなきゃ、アレに目付けられることも無かったってわけだ」

「へー…………え、ばらす?」


何か随分と物騒な単語聞こえたんだが、気のせいかな? ははは……。


「文字通り改造スキルでバラすんだよ。装備人つって装備の枠を増やす変わったジョブがいてな。改造系はそういうのに合わせてカスタマイズもいけんだな、これが」


より詳しく聞くと装備人は例えば上衣の枠を分割して上着と手袋みたいな感じで装備枠を増やすジョブらしい。転職方法も特殊でただギルドに行って規定のゴールドを払えば謎の儀式をされるだけでいいとか。


ただ、本来貴重なジョブ枠を消費してまで取るものではないという。


まず2次転職はなく、ランクを上げないとジョブの強化が出来ない。★1で1枠、★2で2枠の装備枠を割れる。すでに割って出た枠は割れない。

あと分けても合計での補正値はそんな変わらない、何なら装備を割る時下手打つとロストの危険もあるとなればその扱いも当然だろ。


「唯一の利点は効果が減じようもねぇ特殊能力は倍に出来るつぅことだ」

「あ、だから職業装備ジョブウェポンを」

「そうだ、割れば恐らくジョブ枠も増える。最高ランクに到達すりゃ最大10枠分は確保出来るってこった……まぁとにかくだ」


計測機器を置き、徐に立ち上がったヨグは自信満々な顔でドンと胸を叩きながら言った。


「てめぇらを強くすんのが俺の役割つぅことだ。任せとけ、新入り」

「あ、ああ。頼りにしてる」

「あ? どうした、んな腑抜けた声出して」

「いや、な。兄とか居たことないけど。ヨグって何か兄貴って感じだなーって」

「がははは! そうかそうか。てめぇには俺がそんな頼もしく見えんのか、見る目があんじゃねーか」

「最初会った時はとんだ不良サイコ野郎だと思ってたけどね」

「んだとコラッ!」


そうやって暫くヨグとじゃれ合いながら。また色々と予定が詰まってきたな思った。


職業装備ジョブウェポンの改造。


そのための魔法陣の構想。


それと……今まで後回しになっていたファストの進化も。


現在の新階層のストックは実験用のボスを置いた15階層のボス部屋まで。

どうにかそこが突破される前にこれらの用事を済ませたい。


さて、どこまでいけるかな。


そう思いながらも俺は、心中でいつの間にか不敵に笑う自分を感じていた。

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