第130話 14階層ー3

―― カベウラたち、『陽火団』たち一行が14階層から撤退してから約1週間後。


「ようやくマップ埋まってきたー……面倒くさ過ぎでしょう、あの階層ー……」

「それは同意だけど……俺を支えに休もうとすんじゃない。歩くのに邪魔だ」

「えー。そんな言わずにー……私、今回は頑張ったじゃん」

「はぁ……ちょっとだけだからな」

「うーい」


あのまま14階層を攻略するのは難しいと判断した一行はマシュロが死に戻ったことをきっかけに一旦街に帰還しこれからの攻略方針について話し合った。


まず情報がないと話にならないということで、それからも何度か14階層にアタックを掛けたが普通のパーティー……大体の場合5、6人ほどの集団じゃあ進むのが困難という結論に達した。


とういうか14階層の広さ、道の煩雑さ、モンスターの密度と一クラン+パーティーではどうしようもない。

仕方なく上位クランたる『陽火団』のコネで現在の探索階層が違い何パーティーにあの12階層のマップを提供し、その代わりに14階層に到着するとお互いのマップ、攻略の情報を共有する『契約』を交わした。


その兼ね合いで、カベウラたちにも攻略のノルマのようなものが発生することになったのだ。

もちろん、カベウラたち3人が学生ということもあり、彼らのノルマは『陽火団』との合算ってことで無理のない範囲で出来ればと話にはなったが……それで手を抜き過ぎるのも『陽火団』の人達に面目が立たない。


と、そんなこんなでこの1週間ほどはゲーム内でそこそこ忙しく、ぐったりしてるのがいるというわけだ。


「イチャイチャするのはいいけど、気を緩み過ぎないでね~。まあ、今日の本攻略に差し障らない程度ならいいけどね♪」

「「違うわ!」」


クラリスに茶化され、ぱっと同時に離れては息ピッタリに否定するふたり。それ自体がもうそういうお約束にしかなっていないが……本人たちがそれに気付く素振りはないのであった。


そんなふたりを微笑ましく見ながら、気を引き締め直し14階層を進み出す一行。


「結局、バリアイワシの対処は遮光から窒息上等で前衛を突っ込ませる短気決戦か、珍しい状態異常付与装備で連携を乱すか……の2択しかない感じ?」

「正面切ってだと未だにバリア割れてないらしいからな……」

「『共鳴』のせい、でしたっけ? 高レベルの群集型モンスターが偶に持ってる」

「ええ、『共鳴』を持った味方内で同じスキルを同時に発動すると、合体して効果が上乗せされるスキルね。出力はそれ説明付くとして……それでもあの性質のバリエーションは説明が付かないけど、どういう原理かしらね?」

「ああ、もうー! そうじゃなくてもここは面倒なの多いってのに……!」


マシュロの憤怒の叫び声の通り……。


他にも道の配置が悪いと気付かぬうちに甲冑魚……集鏡魚レンズヘットに壁越しに撃たれる、ローパー……反星触手岩アンチアストロ頻繁に道を塞いでウザったい、間が悪いと満腹の暴食魚ブルーイーターが角待ちされる等。


14階層はとにかく通路ひとつ進むにも億劫なぐらい面倒な様相を呈している。


「状態異常を掛ける専門ジョブがあればイワシは楽出来そうなにな~」

「いるには居るけど……そういうのって大半が犯罪者系のジョブだから、成り手が少ないのよね~」

「だからこうしてモンスターを極力避けて、マップ見ながら階層奥に近道してるんだ。ちょっとは我慢しろ」

「分かってますよーだ」


犯罪系のジョブは持ってるのがバレるだけでNPCの好感度が下がる。

そうなると一部の好感度が条件のクエストが受けられなくなったり、街での施設利用料が増したりもする。

それ故、余程気合の入ったヒールプレイヤー以外が犯罪系のジョブに手を出すことは極めて稀だった。


「おっと、止まって。先は暗室トラップよ」 

「げっ、また」


そして14階層から中々えげつないトラップも増えつつある。

例えば今クラリスが注意した暗室。

遠目からは他と同じ透ける光の壁で出来ただけの小部屋なのだが、不思議とその中に入ると真っ暗になる。

外見だけ見れば普通の部屋と同じでガラスっぽい壁だけで日光を遮るものはないのに何故かは真っ暗なのだ。


「あいつお得意の幻影で覆って部屋を偽装、中は光属性で遮光して暗室にする。他だとそうでもないが、ここだとおっかないな」

「しかも入ったら隠れてたモンスターが道を塞いで窒息嵌め。いちいちやり方が陰湿よね……」


よく観察して見れば違和感には気付けるし、感知にも魔法の反応が引っ掛かるが……神経を削ってミスを誘いやすい設計である14階層では、それなりキル数を稼いでいる凶悪な罠だ。


それに前のマシュロたちみたいにうっかり反星触手岩アンチアストロのカウンターを喰らって吹っ飛ばされたらここだった……という事例もある。


「星属性とか魔法への抵抗力を上げてもなんでか貫通してくるから、カウンターされるの辛いのよねー」

「中にはわざと星属性のカウンターを喰らい、その状態で戦うツワモノもいるというがな」

「よくあんな状態で戦えますよね、その人達……」

「しかももう怖いものはないとか言って、星属性もばんばん飛ばして結局ローパーも浮かせてたしね~」


その時の映像はネットにも上げられていて水中で昂ぶるポーズを取ってるプレイヤーとタコで泳ぎ襲いかかるローパーの謎の戦いが見れるとかなんとか……。

何だかんだ雑談を交わしながら、ダンジョンの光の壁と重力場で入り組んだ通路を通り、時に逃げ、偶にやむなく戦い、そしてよく不幸風魔法使いが罠に掛かたりして……。ついに一行の14階層探索も終盤に差し掛かる。


「マップからしてここから先に15への階段がありそうなんだけど……。これまた盛大な歓迎ね~」


そう言ったクラリスの視線先には目を覆いたくなるほどに通路いっぱいに犇めくイワシの群れとそれを盾に後ろにある遠距離攻撃可能なモンスターたち。

そいつらが敵意を剥き出しで一行を睨んでは道を阻んでいた。


「あれは……素通り出来そうにないな。迂回路も無いみたいだし、突破しかなさそうだ」

「そうね。恐らく、あの向こうが私の目的地。なら……もう出し惜しみいらないわね。暴れるわよ、皆!」

「よーし、やっとなのね! 丁度退屈してたところよ!」

「僕も頑張ります!」

「ああ、気張らずにいつも通りにな」


ここが正念場……そう気付いた一行は覚悟を決めた表情でモンスターの集団に躍りかかった。

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