第131話 14階層-4

14階層、終段での戦いが始まる。


「ではいつも通り俺から先陣を切る、しくじるなよ相棒」

「はっ、当然よ」


そう言った瞬間マシュロから黒い風……遮光魔法が流れ出し、先のモンスターたちを覆う。あとは前回のように外側に障壁を張ったりさせないため、攻撃魔法などの牽制が飛ぶ。


その只中にカベウラが迷わず突っ込み抜き身のまま剣を構える。

口には光を発する猿轡のようなものを噛んでおり、それから息を供給していることが分かる。ここの攻略のために『陽火団』が特注した品である。


「はぁっ!」


敵と味方の攻撃を掻い潜り、十分に敵陣に食い込んだと判断したら剣……ストスがいつも使っている火炎剣を振り回し水蒸気爆発を引き起こす。そこらの群れなら、すでに壊滅的な被害が出る威力。


たが、今回は群れの規模が規模なのでそれだけではまだ氷山の一角を削ったに過ぎない。


「ぐっ!」


そして、攻撃が終わって隙きを晒した敵を見逃すほどここのモンスターたちは甘くない。ここぞとばかりに襲かかり、押しつぶしそうとする。


モンスター側の構成は人ふたり分ほどのイワシ群れのベイトボールが3組、それに盾に付随したカジキと甲冑魚のキメラたちが数十。そのさらに奥に行く先に通路を防ぐローパー(ヒールスラッグ付き)が並んで数体。


小さい障壁を纏ったイワシの突撃、カジキの角の連射、甲冑魚たちの集光の熱線。それらの集中砲火と窒息の苦しみに耐えながら、すでに剣を盾に持ち替えたカベウラが後退しながら捌く。


アバターの耐久的にこれが出来るのがカベウラしかなかったからこそ、わざわざストスの剣を借りてまでカベウラが敵陣に突っ込んだと言える。


「……今だ、ブチかませ!」

「了解!」

「はぁっ!」

「行くわよ~」


そのまま調子でモンスターたちの猛攻から生還したカベウラが号令を掛ける。

待ってましたと後方で待機していた彼の仲間たちは、彼がこじ開けたイワシをこっそり減った障壁が張れない隙間に各々の攻撃を割り込ませた。


爆発、渦巻、光線……と、本当に様々な攻勢が展開されモンスターが数を一気に半減する。


「ふぅ……。やっぱりこの作戦は生きた心地がしないな」

「しょうがないじゃない、他にいい方法がないんだから」

「お前、楽しいそうだな……」

「えーそう? ま、突っ立って魔法ブッパすればいいのは確かに楽で気持ちいいけどね!」

「こいつ……!」


いつものコントを披露しているカベウラコンビを他所にストスとクラリスの険しい顔をする。


「もっと小規模だったらここで強行突破……なんですけどね」

「もう、隊列直したわ。……随分と優秀な指揮官があるようね」

「暫く俺が回復するまで防御体勢で、終わったらまたさっきの繰り返すで数を削る。いいな」

「「了解!」」


カベウラの確認の声に全員が了承の返答を返す。

ちなみにこの中で『陽火団』マスターのクラリスを差し置いてカベウラが指揮を執っているのはこの作戦が彼のコンディションに左右される故、実行タイミングを自分でコントロールしてもらうためである。


そしてその戦法を繰り返し、モンスターの数はどんどん減っていったのだが……。


「やっぱりローパーが厄介だな。真面目に相手してるとすぐに別の群れが迫ってくる」

「もうどっからこんなに湧いてくるのよ!」


最後にネックになってきたのは道を塞いでるローパー部隊。

ローパーたちは自分からは絶対攻めてこず、その場で防御を固めて道を譲らない構えだ。これを相手していると、どこともなくモンスターがこの場に集ってくる。


……それと彼らは気付いていないが、14階層は階段に近付かば近付くほど小型モンスターだけが通れる細道があっちこっちに空いている。つまりはモンスター側だけが一方的にアクセスいい道を通って指示された場所に集まれるのだ。


「『陽水』をフルパワーでぶつければ仕留められそうだけど、多分この先はボス戦よね~」

「まぁ、今までの傾向からして恐らくは。あいつがわざとずらさない限り……ですけど」


一旦もう一度モンスターを適当に間引いてからそう呟く。

流石は上位クランと言うべきか、全力ならこの状況ぐらいどうとでもなるらしい。

ただ、『陽水』の特性もあってか、ボス戦に備えてエネルギーを温存しておきたいようだ。


「なら仕方ないわ……これ高いのだけれど、ここが使い時ね。預けるわ、合図したらローパーに使って」


そう言っていつもの『陽火団』所属の斥候プレイヤーに薬瓶を取り出し、手渡すクラリス。受け取ったそのプレイヤー頷くだけですぐに隠密系のスキルで身を隠し、どこかに消えた。


「マシュロちゃんも手伝ってくれる?」

「クラリスさん頼みなら、もちろん!」

「なら、私の攻撃に合わせ星属性の魔法をローパーに、カウンターは気にしないで」

「えっ!? でも……」

「大丈夫、私を信じて。考えがあるから」

「わ、分かりしました!」


この前、散々な目にあったマシュロが無謀とも取れるクラリスの提案に躊躇うも、次の一言ですぐに気を引き締める。

私には分からないけど、自分よりずっと頭がいいクラリスさんが言うなら何か策があるはず……と、自分を納得させて魔法にだけ気を回す。


マシュロはどんな魔法にしようかと考え……あの時は失敗した軽量化の魔法に決めた。

このローパー相手ならとやっぱりそれが向いているし、何よりクラリスの策が効くともしかすると意趣返し出来るかもと思ったから。


そうやってマシュロは星、クラリスは光とふたりともローパーがカウンター出来る属性での魔法を飛ばす。

それらがローパーに届き、この前にも見たようにオーラに包まれ――


「今よ!」


――したその時、隠れいた斥候の人が薬瓶を投げつけローパーに中身をぶっかける。

途端に、ローパーの触手の動きが怪しくなる。今まである程度整然に動いていたそれが無茶苦茶な軌道を描きだして……近くの別のローパーを襲いかかる!


「同士討ち! 混乱とかの状態異常デバフか」

「そうよ。そしてこれで……」


本来ならこっちに真っ直ぐ返されるはずのローパーのカウンターが、味方に向く。

カウンターされ威力の増したクラリスの光線が敵陣内で暴れ回り、マシュロの掛けた軽量化は……。


「よっし、後ろのに刺さった!」

「どうやらカウンターのカウンターは出来ないようね~。これは新情報だわ」


反射の無限ループ防止などのシステムの都合上、カウンターをカウンターすることは出来ずに後ろに居たローパーに強化された軽量化の魔法が掛かり、その重たい身体から重量を消し飛ばす。


混乱したローパーも事前に指示が無視してその場から離れてしまっていた。行動の強制する状態異常はすでに何か掛けられている状態で、後に別のに掛けれるとそれに上書きされる仕様でせいである。


「これで残り障害は1匹だけだ! こじ開けに行くぞ、ストス!」

「はい!」


カベウラが借りた火炎剣と、ストスが先日急遽作ったスペアの火炎剣の水蒸気爆発が最後のローパーを押しのけ道を開ける。

その隙間でローパーの後ろを抜け……彼らはボス部屋へと駒を進めるのに成功したのだった。

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