第129話 14階層-2
『
今そこでは、カベウラたち、『陽火団』一行とモンスターとの壮絶な鬩ぎ合い起きていた。
「あーもう、ウザったわねあのバリア!」
「攻撃の種類ごとに、性質を変えてくるみたいだな」
物理にはただ堅牢な壁を、光線には透過した光を拡散させる壁をと使い分けイワシ型のキメラ……
それが出来る秘訣は群れに1匹1匹に刻まれている『魔刻』の種類の多さにある。
上の階にあった
そこでいっそのこと個人で使える仕組みを端からは放棄し、群れ同士が己の持つ『魔刻』の効果を流動的に組み合わせ、魔術を状況ごとに切り替える仕様に変更したのだ。
無論、キメラに魔術を使わせる命令を組むとそれだけで精一杯になるので、細かい状況判断や作戦行動などは指揮官たる
意外と知られていない仕様だが、従魔などのモンスターにはプレイヤーが任意にその手のUIを見せることも出来るのだ。
そうやって
「うひゃ!? あのカジキまた撃ってきた」
「皆、俺の後ろ隠れろ!」
球体の障壁の中でイワシを喰っていたカジキ――
この14階層の
それは喰ったモノを己が肉に変え、分離、射出可能な鼻の角を連射出来るというもの。100匹ほどのイワシでおおよそ数百発の角を生成出来、水中にも関わらずライフルに迫る速度でこれらを撃ち出す。
『魅歌』の指示ですでに障壁が瞬時になくなっており、撃ち出された角が味方のイワシ諸共一行に殺到する。
「きゃっ、痛ったー! 腕に刺さった!」
「ちぃ! いくらなんでも弾速が速すぎる!」
躱し損ねたマシュロが悲鳴を上げ、大半を角の群れを受け止めているカベウラが愚痴を零す。
この通り攻撃をなどで体勢が整わないところでこれなのだから、どれだけ早くカバーに入っても水中で身動きが阻害される一行側には1、2名必ず被害が出ている。
この中で唯一の壁役であるカベウラからしたら堪ったものではない。
「にゃろー! 今ぶっ飛ばじて……って、またバリアに引きこもってる!」
「面倒ですね、本当に……!」
そして反撃に出ようとしたら一時的に消えていた障壁が張り直され、
相手するプレイヤーには相当にストレスの溜まる戦術なことだろう。
―― このように14階層は完成度の高かったモンスターをさらにバージョンアップしたものたちを配置し、徹底的に連携を組ませたモンスター群が登場する。
とは言え対処法がないわけではない。障壁の源泉である陽光を光属性の魔法を使って遮断すれば、鉄壁の防御を崩し畳み掛けることも出来る。もし魔法系のスキルで直接光を生成してもそういうのはMPがすぐ尽きるものなので同じこと。
ただ、この方法は彼らの首を締める諸刃の剣でもある。それはイワシたちの群れが常に一行の誰かと密着する位置取りをやめないからだ。
「うーん……せめてもう少し離れてくれれば雑にカーテン張るんだけどね~」
ここいらの階層は光を呼吸出来るようにするという、彼ら彼女らからしたら摩訶不思議な現象が支配している空間。
この場での遮光は気を付けなければ自分や味方を巻き込み事故や自爆に繋がる。
モンスター側もそれを分かってるから防御に自信のあるイワシたちを常に誰かに至近距離で貼り付けては忍耐を押し付ける姿勢で神経を削る……
「ええい、もう焦れったい! ちょっと息が苦しいぐらいなんぼのもんよ、私はいく!」
「あ、おい!?」
……と、往々にして堪え性のないのが出しゃばるものだ。
そしてそれこそ最大の狙い。
進展のない戦況に我慢が効かなくなったマシュロが、遮光の魔法を使いながらイワシの群れの中に突っ込む。
「これで息が切れ前に吹き、飛ばす……!」
周りに十分な数のイワシが纏わりついて居るのを確認し、マシュロが自分を中心に魔法を放つ。
生成された風が水と混ざり渦巻を生み、行使者諸共に傷付けながら敵を葬っていく。辺りに多量の死亡エフェクトが舞い散る。
「よし! どうにか息が切れ前に行けた。これで……あ、あれ?」
ウザったい敵を倒したと喜ぼうとした瞬間、マシュロは自分の置かれた状況に気付く。
水流に乗って流れる粒子、まだ遠くに残っている敵の影……そして、その向こうに輝く自分を隙間なく囲む光の障壁。
「やばっ、閉じ込められ……かふっ!?」
逃げ場がないことに慌ててもう一度遮光で障壁を消そうしたマシュロだったが……その隙きを狙っていた内側のモンスターたちがそれを許すはずもなく。
マシュロは逃げ場もなく、助けも来れないままモンスターに嬲られて死に戻っていった。
「ほんと、あのアホは!」
あいつは1回は罠に掛からないといけない病気なのかと、頭を抱えたくなったカベウラの心中はみんなお察しといったところだろう。
本当にご愁傷様である。
「あはは……これは撤退かな? どの道に今回は様子見のつもりだったし。早くマシュロちゃん迎えに行きましょう~」
「そうして助かります……」
こうしてカベウラら、『陽火団』の共同攻略パーティーは初ダンジョンアタックは虚しくも締まらない撤退で幕を閉じた。
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