第54話 7階層-6

3人称視点です。

――――――――――――――――――

増蝕の迷宮エクステラビリンス』7階層。

今そこではプレイヤーたちの阿鼻叫喚の叫びが木霊していた。


「うわあああ……ぶへッ!?」

「くそ、後続がまたあの変な兎どもに飲まれちまった!」

「何なんだよ塊◯モドキはよ!」

「知るか! とにかく走れ!」


このようなプレイヤーが現在7階層には溢れており、攻略中の大半の人数がこの兎の塊に追われている。それもそのはず、塊自体が『繁殖』の条件を満たしている状態であるため階層を進みながら増えているのだ。


最初は上と同じ連結兎ラインラビットならまた同様に倒せばいいと買って出たものたちもいたが、表面を何重にも重なって守り、耐えてる間に内側にて『繁殖』で個体数を回復して再生するということが判明し、割合ダメージのアイテムが足りなく逃げるしかなくなった。

割合ダメージをスキルなどで出せるプレイヤー自体が極めて希少で大体クールタイムが長いのでこれはどうしようもなかった。


増えるのに討伐出来ない。多分そのうちこの階層を埋め尽くす数になるのではと思って恐れ慄くプレイヤーもいた。


……ただもしそうなっても7階層がパンクする前に解体して上層の『波』や6階層に放す予定になっていることを彼らは知らない。


「どうにかしないと」

「どうやってだよ」

「助けて~!」

「邪魔だ、あっち行け!」

「いたっ、誰だ!」

「落ちつ……」「もういやぁぁ!!」


それ故に追われ、追い立てられたプレイヤーたちは逃亡しながら混雑しパニックの様相を醸し出す。このままだと1回プレイヤーが階層からほぼ消えるまで混乱が続くだろう。


そう思われていた中、彼らは颯爽とよく響く声と共に現れた。


「聞け! 者どもーッ!!」

「ッ!?」「え、この声」

「まさか」


「俺たちの後ろまで走り抜けろ! 援護はする、死ぬ気で走れー!」


現れた者たち……メルシアと他の協力者たちは大きく声を張り上げプレイヤーたちを誘導する。普通ならゲームでこんなことをしても真っ先に疑われるのがオチだが。そこは『Seeker's』という大看板の知名度だ。普段から清いプレイ精神で売っていた彼女らのイメージと極限状況も手伝ってプレイヤーたちは素直に誘導に従うものが大半を占めていた。


「よし、こっちのはこれでほぼ全部だな。メキラそっちはどうだ」

『こっちもOKよ』

『右におっなじく!』

『……ボクのとこも、バッチリ』


クラン用のボイスチャットにて他で指揮を執っている他のメインメンバーが答える。このボイスチャットはクランを組むと享受出来る特権のひとつ。他にもクランに入ると様々な特権が付与される故、クランに所属したい人は多い。

ただクランは創設条件も厳しく、1クランの参加人数も制限されているため大半がパーティー規模に甘んじているのが現状だった。


閑話休題


「お前たち、ここからが作戦本番だ。気合い入れいけ」

「「おう!」」


メルシアの活に答えるのはメイン以外の『Seeker's』のメンバーたち。当たり前だがクランを組んでいる以上、メインの4人以外にもメンバーはいる。前の『ノースライン』の時はメルシアが突発的に始めたものであるがため置いていってしまったが事前計画がある今回はその時と違って沢山クランメンバーが帯同していた。


と言っても有名動画投稿者でもある『Seeker's』だ。迂闊にゲーム内で募集したわけではなくリアルの……会社の方のサポート人員が大半を占めている。一部の厳正な審査の元に募集したものもいるがそれは極少数である。


だが、どうであろと『Seeker's』は精鋭揃い。その方針は決して揺るがない。募集であれなんであれ彼ら皆が一端の実力者であった。


「右に!」

「は!」


メルシアの指示に瞬時に答え隊列が組まれる。己の間合いを意識し最適の立ち位置に一瞬で動くさまはまるで軍隊のそれ。そのあと兎の塊が接近し隊列からノックバック効果が強い攻撃が次々と飛ぶ。

そのまま抵抗出来ずに右側の通路に追いやられる兎の塊。今度はそれを逆に追い立てるようにしてメルシア先頭で追撃していく。行く道にも他のプレイヤーたちが追っている兎の塊も同様に押し出して同じ道筋にて転がす。

その目まぐるしい場面転換にも他のメンバーたちは逐一対応し一切の乱れがない。


他のメンバーが指揮する場所でも同時に同じ光景が繰り広げられており、それはやがて一点に集束する


「◯魂モドキはこれで全部集まったな!」

『ええ、集まったはずよ』

『こっちも任務完了! でも◯魂モドキって。あははは! 懐かしい過ぎていくウケるんだけど~』

『こっちも、完了。VR版の塊◯、やってると楽しいよ?……爽快』

『え、マジ、そんなのあったの!?』


雑談をしながらも彼女ら4人の指揮の手が止まることはない。兎の塊を一箇所に集めた今が作戦の大詰め。それで手を抜くはずもない。


「よーし全員のチャットを確認しろ……こっちは通信状態良好!」

『こちらも同じくオールグリン!』

『バッチコイです!』

『問題、なし』

「カウントダウン入るぞ。10、9、8……」


メルシアのカウントダウンがチャット越しに鳴り響く。それを合図に『Seeker's』の全メンバーがインベントリから薬瓶を実体化して手に握る。


「……2、1。ゼロ!」

「投げ込め!」

「くらえや!」


そしてカウントの終わりに一斉に薬瓶が兎の塊を一箇所に集めた場所に飛来し中身をぶちまける。

そこから起きたのは口にするにも悍ましい光景。今まで一心同体が如く玉の形態を維持してラインラビットたちが瓦解し壮絶な殺し合いが発生する。お互いを踏み、蹴り、噛み、千切る。まるで正気をうしなったかのようにダメージエフェクトの噴水を上げてパニックホラーじみた現場を生み出す。


「今だ、斉射しろ!」

『『了解!』』


チャットを通して全体に到達された指示に『Seeker's』の包囲斉射が炸裂する。バラバラになり無敵性を欠いたラインラビットたちはあっさりと倒されていき……やがて殲滅された。


「ふぅー、作戦成功!」

「いやーめっちゃ効いたね、この混乱薬! 前の階層でも使えばよかったのに」

「それは前にも言ったでしょうが。あんな開けた場所でそんなことしたらラインラビットが周囲に散らばって無差別に起爆するって」

「うん、迷惑行為だめ……絶対」

「もう冗談言っただけじゃん。お硬いなふたりとも~」

「く、こいつは……!」


そんないつものじゃれ合いを披露している『Seeker's』の4人に今回の作戦に(流れで)参加していた重戦士と魔法使いのコンビが近付く。その表情は明るく、明らかに朗報があるとありありと見て取れた。


「お姉ちゃん、8階層への階段が見つかったんだって!」

「あら、本当に! 思ったより随分と早いわね」

「それが姉さんが予測が当たったみたいで、例の幻影とやらで入口が隠してあったらしいです」

「そう、ふふ解除用のアイテムを大量に仕入れた甲斐があったわね。でも出費も酷いしやっぱりひとりぐらい優秀な錬金術師をクランメンバーにスカウトしないとだめね」


ここで兎の塊を引き付け比較的に安全になった階層を探索していた別働隊からマップを埋め尽くしても見つからなかった8階層入口の発見報告が入った。それをд゜)カベウラたちがわざわざ伝達しに来たのには理由がある。


クランメンバーは兎の塊を抑えるのに注力させたかったので探索隊は救助したプレイヤーたちの有志を募って構成したからだ。だからボイスチャットは出来ず護衛をしていたд゜)カベウラたちふたりが先行してここに伝達を道案内兼ねてしに来ることになったのだ。まぁ知り合いあるのにメールで済ますってのも味気ないというのも理由の一端ではあるが。


「探索隊の人たちはその後どうしたの?」

「転移アイテムで先に帰りましたよ。仲間が死に戻った斥候の人たちが殆どでしたから」

「お、そうか。ならすぐ出発だな! 目指すは8階層の初踏破だ!」

「普段なら反対だけど……今回は情報収集がてらだし悪くないわね」

「キラっち珍しく乗り気だ! よーし気が変わる目にガンガン行っちゃお!」

「おー……明日の天気、槍?」

「いやいや、流れ星だろ。目星メキラだけにな! 」

「きゃはは、それ久しぶり聞いたよ! キラっち昔からネーミングセンスないよねー」

「あんたらね……調子に乗るなって言ってるでしょうがぁぁー!」


ゲーム内最高位鑑定士の叫びが木霊したあと……彼女ら『Seeker's』及び一部のプレイヤーたちは『増蝕の迷宮エクステラビリンス』8階層へと歩を進めた。




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