第55話 8階層-1
3人称視点です。
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「なんつーか。全体が白っぽいな」
「そだね。でも色がちょっと汚い感じ?」
「寂れた廃病棟っぽい……」
「やめてカグシちゃん私そういう系苦手なの」
『
そこに踏み入れたものは例外なく今までとは違う趣のダンジョンの様相に面食らう羽目になった。
形が洞窟なのは上層(1~4階層)までと同じだが色が異質過ぎた。硬さは感じるが材質不明でなんの岩石かもしれない白い岩肌。だからって6階層の肉壁のような生気はなく冷たい空気だけが漂っているのが何とも不気味な雰囲気を形作っていた。
「まーた兎だとかのオチじゃないでしょうね」
「それはないんじゃないか。斥候の人たちもそれらしい反応はないと言ってたし」
「まぁそうよね」
『Seeker's』に同行した
『Seeker's』の4人はそれを見て目配せしてからやっと出発だ。普通なら先頭をセンサー代わりにするような行為に顰蹙を買いそうだが、そこは救助の対価にということで途中話がついていた。
そのまま8階層を進んで十数分。
「何もないね~」
「たまに鼠モンスターが湧くぐらいか」
「兎の次は齧歯類縛りでも始めたのかな?」
「なら……ハムスターを、所望する」
「そっちは遠慮したいわ。ハムスターまでキメラになってそうでゾッとしないから」
「あははキラっちはほんと可愛いの好きだにゃ~」
「は? 当たり前でしょ」
「いや、なんでそこでキレれるの……」
相変わらずてんやわんやとしがらも油断なく進む『Seeker's』のメインメンバーの4人。
すでに他のプレイヤーとは分けれており、他のクランメンバーもマッピング範囲を広げるため分散していた。
クラン間の連絡機能やフレンドからのメールでその階層情報をやり取りしつつ探索するが代わり映えしない景色と鼠型のモンスターがうろちょろしてる以外に何も進展がない……と思って気が緩みかけいた時だった。
「こほっ……こほッ」
「カグシちゃん!?」
「まさか……やっぱり感染の状態異常!」
「くっ、やられたか! でもどこで……あの鼠か?」
カグシが咳払いをしはじめ体をふらつかせる。慌ててバッキュンがそれを支えメキラが『鑑定』で感染を確認して叫ぶ。そんな中メルシアは口に出し冷静に原因を探る出すも何かしっくりこない。
普通に考えてここであったモンスターは鼠たちしかいない。ならそれが原因のはずだが彼の勘がそれを否定する。
「メキラ一応聞くけど鼠モンスターの鑑定結果?」
「『鑑定』結果は出たけど多分偽装よ。忌々しいことにね……」
それだと今は分かりようがないと一旦思考を締めくくることにしたメルシア。メキラの言葉の偽装が間違いだと端っから思わない。それはここにいるメキラ本人以外の全員の総意だった。
『映身』のせいで鑑定士としての力を削がれたメキラは結構プライドを傷つけていた。ゲームの仕様上の問題なのだからそんな必要はどこにもないのだが、この大雑把で凄い同僚たちを陰ながら支えになっているという自負が彼女にはあったのだ。
だからこのままじゃ引き下がれない、他にも『鑑定』が役に立つ方法はあるとメキラは片っ端から手段を探った。その中のひとつが素材から情報の逆算であり、『鑑定』で出たテキストの癖や書法などから偽装かどうか見抜ける技術に繋がったのだ。
もはやメキラは文章の癖だけで何に影響されたのか、どんな人が書いたのかをある程度推測出来る域まで達していた。それを身につけるために忙しい中、寝る時間も割きながら努力してまで。
それをここに居るものに限らず『Seeker's』の全メンバーは知っている。だからこその信頼だった。
他のメンバーの派手な活躍に埋もれがちだがはやり彼女も『Seeker's』のメインメンバーに立つだけのことはあるのだ。
「そんなことより、回復! 今回対策持ってるんでしょう」
「ええ、これで治るはずよ」
錬金術師から製作依頼を出してもらった感染除去薬を取り出す。
感染で痛い目にあった『Seeker's』は当然その対抗策も探っていた。その時に例の混乱薬や割合ダメージ素材を作った錬金術師にも感染の特性を聞かせたところ、前にホムンクルス作成の際に起きた事故を折に作った薬のレシピが役に立つかもと実験協力の提案があったのだ。当然『Seeker's』は一も二もなくそれに飛びついた。
そのあと色んな検証のあと感染の出本と対抗策の薬が出来上がり感染除去薬に行き着く。
薬とあるがその原理はかなり原始的というか暴力的だ。何せホムンクルスの微生物に他の微生物に殺させ治すと言うものなのだから。ホムンクルス作成の応用で人体に必要ないものを学習させ攻撃対象を限定することで安全性もバッチリの品だ。
微生物が残留している間は効果が続くので予防にもなるといたれりつくせりである。
ちなみにその錬金術師曰く感染はホムンクルス作成の失敗時のリスクであり新たなジョブルートへのヒントでもあるのでは言っていた。
「全員飲んだな。カグシももう平気か?」
「ん、大丈夫。表示は消えた」
「なら再出発だ。次の目標はメインが変わらず階段の発見とここの鼠の生け捕りだ」
「調査のためとは言え鼠の生け捕りとかいやだなー」
「私だって嫌よ。でも攻略のためなんだからそんぐらい我慢しなさい」
「は~い」
今までより注意深く、それこそ文字通り鼠1匹逃さないと目を光らせダンジョンを進む。8階層も相当広いようで人海戦術ででも未だにマップが埋まる気配はなく目当ての鼠も中々見つからない。
「あ、あそこ! 鼠いたよ!」
「よっし、カグシ捕まえるぞ!」
「ん!」
そんな中通路の遠く先、ようやく見付けた鼠に最速のふたりが飛びだす。瞬く間もなく捕まった鼠は藻掻いかと思えば……
「どわ!?」
「ッ!」
……そのままダメージエフェクトを撒き散らし爆散した。
そして置き土産ばかり感染の状態がふたりに襲いかかる。幸い感染除去薬の効果ですぐに消えたがおっかないと言った風にその場を離れる。
それからも何度か鼠を捕まえようとするも見事に失敗。すべて捕まった瞬間自爆してしまった。
「だめだ、ありゃ。自爆までの判定基準が広いし早すぎる」
「うん、1秒も……なかった」
「それだと幻影を剥がして『鑑定』またも無理ってことね。はいはい分かってましたよ」
「はははドンマイドンマイ! そのうちキラっちいいことあるよ……多分?」
「そこは言い切りなさいよ」
喧騒だけを残して『Seeker's』の4人は去っていった。鼠が自爆したその場に僅かなながら積もった白い小粒をあとにして……。
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