第53話 7階層ー5
3人称視点です。
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兎の塊から逃れてしばらく。
重戦士と魔法使いの二人組みは7階層に出来た『Seeker's』の隠れ拠点に来ていた。ここは彼らが7階層のトラップを利用して作った、あの兎の塊はもちろん吐栗鼠が来れる穴もない擬似的な安全地帯である。ここにはふたり以外に何人かのプレイヤーが避難しており各々グループで集めて情報共有などを行っていた。
そんな中に屯していた『Seeker's』と救出されたふたりの和気藹々な声が響く。
「間に合ってよかった~」
「いやー、間一髪だったねキラっち。それに妹ちゃんと彼氏くん」
「うん、相変わらず……なかよし」
「んにゃ!? そそそ、そんなじゃないって前から言ってるしょうが!」
「そうですよバッキュンさん。こんな難物と付き合えるやつなんて居ませんって」
「あ"?」
ガンを飛ばす自分の相棒をいつもの事と流してから重戦士の彼はここのリーダー……メルシアに話しかける。
「お、君は……メキラの妹の友達だっけ? 前にゲーム内であったよな。名前は確か……」
「え、ええ。
「ああ、そうそう。顔文字の……くくっ、まだそれで当て字ネーム作ってるやついるなって驚いたんだった」
「前に言いましたけど、これ俺の趣味とかじゃなくてあいつが勝手にですね……いや、まあいいですけども」
何度か変えようとしたが楽しそうに笑って名付けていた相棒兼幼馴染の顔がチラついて手が止まったから。最後にはこれも後になるといい思い出だろうと特に変えずおくことに決めたのだ。
「それで何なんですかこの状況は? 見た感じここは『Seeker's』の関係者だけってわけでもなさそうですが」
「あーそれな。話せば少し長くなるんだけど――」
『Seeker's』や他のプレイヤーたちが7階層に入った当初。
その時はまだふたりが探索してた時と同じで変わったことはなく穴から吐栗鼠が奇襲を仕掛けて来てるだけだったらしい。
たが時間に経つに連れこの階層の異常性が見られるようになった。まず主にレアで強力な装備を持つものが次々と集団から消える現象が起きた。そして合流する頃には既に死に戻っていてピンポイントでレア装備だけ死亡ペナルティーで盗られていた。
話を聞くと本人もいつの間にか仲間と逸れてて、栗鼠の群れにボコられたり、何もしてないのにトラップが発動したり、何かに押し潰れて視界が回ったかと思ったら死んでたりしたとのことだ。どうやって孤立させられたのかは全員分からなかったと証言していたそうだ。
そこに関してはメルシアがプレジャはメキラでさえ見抜けない隠蔽系のスキルを有して幻影を生み出すスキルまで持ってるのでそれを使われたんじゃないかと推測を交えて語った。
露骨なまでにプレジャが関わっていそうな事件に『Seeker's』はすぐに調査に動いた。有名税を利用し、幾人にも聞き込みを行い孤立させる条件を割り出す。それから囮を募集し実際に7階層で掛かるの待つことになった。
「いや、しれっと言ってましたけど囮って……よく引き受けるひといましたね」
「そこは俺たち『Seeker's』が全力でサポートするのともしもの場合に被害を補填する確約をしてたからな」
「あー有名実況者の全力サポートとかファンの人が飛びつきそうですね」
「もちろん! 寧ろ選定に困ってたくらいだ、ははは!」
その言葉に反応して離れていたプレイヤー……多分さっき言った囮役の人が満面の笑みでサムズアップしていた。実際、彼はそのことを寧ろ誇りに思っている節がありこの探索が終わったら
と、ここまではよかったのだが途中すれ違ったプレイヤーがあの兎の塊のトラップを踏んだらしく『Seeker's』ご一行も逃げるようにここを作ったのがこれまでの経緯のようだ。
「にしてもよくこんな場所作れましたね。うちの相棒もやられた罠を使ったて聞いてますが大変だったしょ」
「うん? 別にそんなことないぞ。メキラが予測した通りの場所に魔法撃って適当に避ければいいだけだったからな」
「いや、そんな生易しいスピードの仕掛けじゃなかった気がしますが……それ言っても無駄ですね」
やっぱ規格外だな、と思いながらもカベウラに別の疑問が生じる。それはこれほどの実力者たちだから生まれた疑問。失礼だと思いながらも好奇心が抑えられず結局は口をついて出てしまった。
「えっと、メルシアさんたちでもあの兎の塊は無理だったんですか?」
「あれか……うーん、正直いうと多分出し惜しみなしだとどうとでもなるな」
「え、それじゃ何で」
こんなところに籠もって立ち往生しているのか。という次の問いはメルシアが被せるように言った発言で止めれた。
「だがそれはだめだ。多分やつは今も俺たちを見張ってる」
「やつって……プレジャのことですか。そんなまさか」
「俺の勘がそう言ってるんだよ。そしてその勘が手札を見せ過ぎるのは危ないって警告してる」
「もしかして、ここがプレジャのダンジョンという話あなたも信じているんですか?」
「そこはほぼ間違いないと思ってる。カラクリは不明だがな」
今も一部のプレイヤーたちからデマぐらいにしか思われていない風聞。理論上まったく筋が通らないからこそありえないと切り捨てられた可能性を他でもない《イデアールタレント》トッププレイヤーとしてだけでなくプロ並みの実力を持つゲーム実況者としても名高いこの人が認めた。
多分この事実だけでも掲示板がお祭り騒ぎになること間違いなしだろう爆弾発言だった。ただその割にはカベウラは然程驚いては居なかった。その可能性、朧気ながら途中の頭に過ぎったものだったからかもしれない。
じゃあ今この時もやつ俺たちを見ているってことか。そこまで思い至った瞬間得も言えない寒気が彼を襲った。だからか、つい弱音が口から漏れたのだろう。
「それじゃこれからどうするんですか。出し惜しみしてここを突破出来ないからってまかさ帰る……とか?」
「まさか。なんの意味もなくここに留まって救助活動してるとでも思ったのか? 大丈夫だ―― 俺たちにいい考えるがある」
そういったメルシアの顔は実に楽しいそうに……まるで獲物を前にした肉食獣のように歪んでいた。
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