第52話 7階層ー4(別視点)
Side とある重戦士
俺たちが探し回っているPK……その眷属と思われる兎にやられた次の日。やっとの思いで7階層に戻ってきた俺たちはようやく一息つくことが出来た。
「はぁ……昨日は酷い目にあったな」
「ほんとそれよ。しかもよりによってあのクソPKの眷属にやられるなんてッ!」
今回の件で2回に渡り金とアイテムを盗られた相棒は相当ご立腹の様子だ。
俺も折角のレア装備を盗られ内心穏やかではないがここで俺まで腹を立てると収拾がつかない。経験上この相棒兼幼馴染を宥めようとしても無駄なので俺がいつも通り冷静にしっかりないといけない。
損な役回りだと思うがだからって危うい友達をほっとける性分でもないので仕方ないと今は諦めている。
「こいつには俺がついてないと、だからな」
「何もたもたしてるの! 早く先に行くわよ」
「あ、あのバカいつの間に! おい、止まれ後衛が先行するしてどーする!」
てんやわんやしながらも探索再開だ。
とは言っても7階層の様子は特に変わりなく昨日と大差なく、道なりに進むと穴の中から吐栗鼠が現れては襲撃しては撃退する。そしてまた進むのエンドレス。
ここまで同じことの繰り返しだと慣れのせいで緊張が解けそうになるが昨日のことがあるから気が抜くわけにもいかない。それに結構な距離を歩いて気になることがもう1つ。
「なんか坂道がやたら多くないか?」
「そうね、ゲームだから疲れはしないんだけどこうも坂ばっかりだと気が滅入るわ」
「……嫌な予感がする」
「あははは、あんたいつも考えすぎよ。坂道が多いからってなんだって言うの」
やめろ、お前がそう言うと益々フラグっぽくなるだろうが!
そんなことを思ったのがいけなかったのかそれとも本当に相棒の不幸がフラグを立てたのか。
「くだらないこと言ってないで行くわよ。今日はマップ埋め尽くして……(ポチッ)」
「「あ」」
何とも間抜けなボタン音が洞窟に響く。かと思えばゴゴゴゴッと遠くから地鳴りのような音が聞こえる。これってもしかしなくても。
「なぁ相棒今俺と同じこと考えてる」
「多分考えてる」
「「うん、逃げ……ッ!」」
俺たちが言いきる前にどんどん近づいていた地鳴りの音が正体を現す。それは想像していた大きな岩……とは少し違った。狭い洞窟の通路をぴっちり満たしそうなサイズがとっても重量感があって重たい音を鳴らしてはいるが……表面がこうモフモフだったのだ。それに所々ぴょっことはみ出ている……うさ耳。
「また兎かよ!」
「岩転がしならぬ兎転がしトラップね!」
「ぷふっ、やめろ一瞬かわいいとか思っちまったじゃないか!」
「重さは全然可愛くなさそうだけどね!!」
走りながらくだらないことを言い合う俺たちだがあまり余裕はない。モフモフの塊と聞こえは可愛い響きだが、ちらっと見えるその全容はまったく可愛くない。
「ん? おーいそこのお前ら止まれ。ここは俺らが……」
「そっちこそ逃げろ!」
「何言って、うわ!?」
「こっちは警告したからね! 恨まないでよ」
「だからおま――きゃぁあぁぁあばばばばッ!?」
前方に他のプレイヤーが見えたが呑気に話す時間はないので彼に一言注意だけして横を素通りする。だがいきなり過ぎて状況が掴めなかったのか棒立ちしてしまい、そのプレイヤーは塊の下敷きになり……張り付かれる。
まるでギャグ漫画のワンシーンの如く兎の塊にペタンって感じで体の背後全面が貼られているが……そこから行われていることは全然笑いごとではなかった。
普通に考えてみて欲しい。もしその状態で人間が一緒に転がるとどうなるか。塊の自重が合わさって強かに全身を打ち、地面がヤスリとなり体を削り取る。それだけの衝撃にも関わらず剥がれたりしないのは塊を構成する兎たちが全力でその見知らぬプレイヤーを掴んで離さないから。そして……そのままなんの抵抗も出来ずにそのプレイヤーは嬲られるがままに光の粒となり消えた。
ファンシーな見た目のなのにやってることは完全にホラー映画や拷問器具のそれだ。
「私あれだけには絶対捕まりたくないんだけど!?」
「こっちだって願い下げだ! くそ、こんな時に『猛盾ドラック』があれば」
もしやそこまで計算して昨日俺たちを狙ってきた?
いや流石に考えが飛躍し過ぎだ。それだとプレジャがダンジョン居る間こっちをずっと監視してるみたいじゃないか。そんなこと……。
「うわッあっぶね! 余計なこと考えてる場合じゃなかった!」
この状況でも容赦なく狙撃してくる吐栗鼠の投擲物を防ぎさっきまでの思考が霧散する。今は逃げるのが先決、考えるのはあとだ。
「っていうかあんたあれ防せげないの!」
「この質量差で無茶言うな! お前こそ魔法で倒せないのか」
「そんなのさっきからやってるけど効かないのよ! 手応えからして多分あれ
「マジか……こうなれば仕方ない」
「何か手があるのね!?」
「ああ、このまま……登り坂があるとこまで走る」
「結局そうなるの~~!!」
だって自力でどうしようもないならそれしかないじゃないか。俺だってもう少しマシな作戦が欲しかった。
でもある程度マッピングは出来てるんだ。これがもっとも確実で安全なのは間違いない。と、思って可能なだけプレイヤーを避けて知っている坂に逃げ込んだのだが。
「何で登って来れるんだよ!」
「ああもうー! わけ分かんなくて頭変になりそうよ」
なんと連中あろうことか坂を登ってきた。それも慣性でとかなく速度そのままに。実はエンジンでも積んでると言われた方がまだ納得がいくレベルの珍風景だ。
実際のとこ多分塊を形成しているラインラビットが足だけ出して坂を蹴り上げたりして登ってるみたいだがどっちにしろシュールだ。
「転移アイテムも栗鼠どもが絶妙に邪魔してくるから無理だし……はは、これもうダメかも知れない」
「ちょ、諦めないで! 私はあんたがそうなると本当にどうすればいいか分かんなくなるんだから~!」
そんな泣き言を言われても。俺もどうにかしたいが方法が何も思いつかない。その間にも兎の塊との距離は離れるどころか徐々に縮まっている始末。くそ、またこんなところで……と、ほぼ諦めかけていたその時。
「――ふたりともこっちに!」
その聞き慣れた声にハッとなって振り向く。そこにあったのはやはり見慣れた顔。
「姉さん!」
「お姉ちゃん!?」
「急いで!」
正直この追われている現状とか、姉さんが何故ここにといった疑問はあったが……ようやく見えた希望に俺たちは一も二もなく飛び込むしかなかった。
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