第51話 7階層ー3(別視点)
―― 栗鼠どもと戦闘なってから数分が経過した。
「ぐっ、そろそろ耐久がやばいな」
「あともう少しだから!」
その短い間にも関わらず俺たちは窮地に陥っていた。
原因は俺の装備の耐久値。
まだ処理能力に余裕があってもタンクは装備が壊れると性能が半減する。重装備は効果が高い分、失った時のマイナスも大きのだ。
特にこのような波状攻撃はさらに耐久をガリガリと削るから、可能な限り避けたいシチュのひとつである。しかもこのゲロ栗鼠ども、さっきからちょくちょくと装備耐久を削るためか酸性の革袋みたいなのも吐いてきやがる。あとの修理費で金銭的に痛いってにのまったく勘弁して欲しいものだ。
「よし、準備完了! 下がってて」
「おう」
と、今回の出費に頭を悩ませいていると待ち望んいた相棒からの報告がきた。俺は射線外……相棒のすぐ横にまで下がると邪魔ならない形で俺たちを盾で隠す。それが合図となり相棒がために溜めた魔法を開放。
複雑にうねる風の蛇が狭い洞窟を満たす。幾頭もの風の蛇が色付き緑に染まる。その風の蛇たちは個々に穴の栗鼠に襲い掛かり首を絞め、喉に噛みつき、へし折るなど色んな方法で鏖殺していく。この調子なら周りの地形には一切被害を与えず1分もしないうちにここの栗鼠は全滅した。
相棒のジョブ構成は
風の流れを読み、魔法で操り、その風に色を付けて見分け安くする。その工程を経ることによって便利であるが、他の魔法と違い直感的に使いづらい風魔法を簡単に制御出来るようにする定番のジョブ構成だ。そしてこれが出来ているってことは相棒が自身のランクを★2にしていることを意味する。
俺と相棒両方
「ふぅー、終わった! 今日はちょっとだけスッキリしたわ」
「相変わらず単純……」
「なにか言った?」
「何でもない。それより今度こそ帰るぞ。それと街に帰れば修理費も奢れ」
「えーいやよ、そうじゃなくてもさっきの死んで――がッ!?」
「っな!?」
いつものようにくだらない言い合いをしてもう帰ろうした矢先。またも遮るように、ただしあまりも強烈な光景が割り込む。
飛び散るダメージエフェクト、飛ぶ相棒の首から上。一瞬呆けそうになったが状況を把握し血が上った頭が今の光景を生み出した元凶を無意識に追う。
「お前はッ!」
「きゅ」
間違いない。プレジャにいつもべったりだったあの兎の従魔……いや眷属か。
奇襲に熱くなった頭と体が反射的に攻撃しそうなるのを抑え、努めて冷静さを取り戻す。
相手はあの『
それはあの小さな体からも漏れ出す圧倒的な威圧感からも明白。どうする、どう逃げればいい……!
―― 相手が待ってやったのはここまでだった。
「きゅう!」
「ぐっ、が」
目の前で兎の眷属がかき消え、俺の盾に蹴りを入れる。ジョブスキルにものを言わせ咄嗟に防御には成功したが威力が半端じゃない。盾越しでさえありえない量のHPが消し飛んだ。
たが、やつの攻撃がそこで終わらない。蹴ったまま盾にしがみつき大口を開けて謎の煙を俺に吐き出す。
「けほっ、けっほ! な、んだ……これは」
凄まじい数の状態異常が付与される。体がまともに動かない。視界も定まらない。自分が今立っているのか浮いているのか分からない変な感覚がぐるぐる体中を巡る。
このままではヤバいと『正常』のスキルで元に戻った、その瞬間……ぐるんと視界が回転し天地が逆転した。
「が、はあァ……ぁ」
そして俺はそのまま光の粒となって消えた。
こちらを見る禍々しいまでに赤い瞳を最後に目に収めつつ。
◇ ◆ ◇
一方その頃ダンジョンの奥とある一室。
「お、『猛盾ドラック』ゲット。いやー大魚大魚! これは入れ食いですわー」
流石ファストは本当に容赦ない。残酷な殺し方に躊躇がなさ過ぎる。出来るだけ即死させろと指示したのは俺だけど。
「6、7階層は俺の思った通りに機能してくれたな。お陰でレア装備がたんまりと手に入ったぜ、あははは! 笑いが止まらんな、これは!」
俺は何も硬いってだけで意味もなくあの兎の壁を作るなんて奇行に走ったわけではない。
きっかけは俺が新しく手に入れるしかなかったジョブ
これの追加スキルの『狙盗』をどうにかダンジョンで有効活用しようと思ったのだ。
『狙盗』で盗むものを指定するには当然だが実物を持っているか確認する必要がある。当てずっぽうで指定してもスキルは発動するが、もし対象が指定したものを持っていないとPK報酬がゼロになるだけの賭けになる。
そんなものに頼ったら赤字確定なのでどうにかしてダンジョンにプレイヤーが持つレアな武器やらを引き出さないといけなくなった。
ここでひとつの疑問が浮かぶ。果たしてゲームのプレイヤーが強力なレア装備などを使うのが一番多いシチュエーションはいつなのか?
強敵が現れた時? 俺なら逆に隠すな落としたくないし。
窮地に陥った時? 出すかもしれないが、後があるならむしろ温存するかもしれない。
あるいは、こんな時は……と、こんな風にぐるぐると考えた末に出た結論。
やっぱり一番は……安全にそれを試せる口実と
「基本自分から攻めては来ないクソ硬い壁ってのは試し打ちには丁度いいからな」
もし自分が必殺技じみた攻撃を持っていたとして、それを遠慮なくぶっ放せる機会はそうはない。しかも色々守るべきルールが多いMMORPGでならなおさら。誰しも大技を持ってるなら後先考えず使ってみたいと思うのは自然なのだ。
例えばの話……某クラフトゲームでワールドがクラッシュする爆弾データパックがあったとしよう。自分や友人が色んなものを建築したワールドなら当然そんなもの手を出したくない。だが、他の誰かが丹精込めた立派な建築物とか作った他人のワールドのデータを「これ好きに壊していいよ」と言われたら……お前ならどうする? って話だ。
人間は……その中でもゲーマーは特に自分の快楽に忠実な生き物だ。というかそうじゃないやつがこんなゲームそうそうやるか。
だから俺はそれを解消出来る場所を提供して、その対価にちょっことだけアイテムを頂いただけだ。なんて親切設計なんだろうなぁ!
実際に効くなら儲けもの感覚で6階層が開放された直後は色んな攻撃が飛び交ったものだ。7階層で奪う目ぼしいアイテムを俺ひとりでピックアップして纏めるのにかなり時間がかかったがそこはラインラビットを作る際にウザったいぐらいに遅延策を練り込んであったからどうにか間に合った。
ちなみに自爆の問題も最初から破るつもりがない連中からしたらただ派手な快感へのスパイスに過ぎない。何せ突破しないなら壁で何が飛んでこうよが逃げればいいだけなのだから。
「そしてここ7階層はそのデータを元にレアアイテムを刈り取るための収穫場……ふふ、これも上手いこと機能してくれている」
フィールドを狭い洞窟に変えたのはプレイヤーたちを分散しやすくするため、狙い撃ちしやすくするため……だけではない。
もちろんそれにも主眼を置いた設計にしてあるし、神出鬼没な吐栗鼠の群れもその一環ではある。でも本命はそれではない。
「ダンジョンの罠と言えばあれが欠かせられないからな」
狙っていたアイテムは大体回収できた。7階層の変わった環境に合わせて見せた新アイテムも含めて目標数は越えている。だが、それでもまだトップクラスのクランはしぶとく生き残っている。
だからこっからは情け容赦なしの7階層その本気を見せる時だ!
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