第50話 7階層-2(別視点)
Side とある重戦士
「まったく何をやってるんだお前は」
「あははは……ごめんって。そんな怒らないでよ、ね」
相棒がまた呆気なく死に戻りしたあのあと。
今回は他に仲間がいるでもなし仕方なく結構いい値段する転移アイテムを使ってこいつを迎えに行ってとんぼ返りしてくるはめになった。
俺は俺でなんでいつもこいつの面倒を見てるのかね。
「……まぁそこはそんだけ腐れ縁ってとこか」
「なにぶつぶつ言ってるの?」
「何でもない。ほら早くいくぞ。お前のせいで時間なくなったからキビキビ動け」
「わ、分かったよ」
本人も悪いとは思っているのか単にバツが悪いのか今はやけに素直だ。普段もこれぐらい言うこと聞いてくれるならいいんだけどな。
どうせこれも長続きはしない。こいつ都合の悪いことは明日には忘れるのでその時はしれっと元の態度戻っていることだろう。
ほんとに難儀な縁を持ってしまったものだ。
と、とりとめのないことを考えていると穴から小さな影がこちらを覗くのを発見した。それは頬袋を目一杯に膨らせた栗鼠。普通ならかわいいと和むところだが事情を知ってるこっちの身としてはゾッとしない眺めだ。
「やっと来たか」
「確か、吐栗鼠だっけ。ここの出現モンスターの」
俺たちが足踏みしてた間にも当然攻略は進んでいた。だから相棒を向かいにいく途中にも攻略中の知り合いのフレンドとかにメッセージを送ってもらって情報は入手していたのだ。
「口の中に色んな効果の投擲物を詰めてそれを吐き出して攻撃するらしい」
「きったないわね」
「それと小さいならモンスターでも飛ばせるみたいであの餓鬼兎も吐くみたいだぞ。だからいっぱい詰めてる個体の頬袋はもぞもぞするとかなんとか」
「うげぇ、なにそれキモ! こんな汚いモンスター早くやっちゃいましょう!」
俺が言った光景を想像してしまったのか露骨に嫌な顔をして殲滅に取り掛かる相棒。俺もその相棒に吐かれる様々な投擲物を盾で防ぎ守っていく。
はじめはそれで捌けていたが穴を通じてぽつり、ぽつりと数が増えていく。やがてその数が数十を越えると対応しづらくなる。
「もう、あの栗鼠わらわらと出てきてウザい! 巣穴に範囲魔法ぶちこみたくなるわ」
「さっき自分の身でどうなるか体験してよく言えるな!」
「だってこいつらキリがないしストレス溜まるんだもの」
それには同感するが勘弁して欲しい。あのトラップ発動者を狙い撃ちしないランダム攻撃タイプだから下手するとこっちがダメージを負う。流石にそれで総崩れにでもなったらマジでキレる自信がある。
「とにかく絶対にやるなよ、絶対だからな! フリじゃないぞ」
「分かってるわよ、そんな念押ししなくても!」
ここまで言うなら芸人でもなし自発的にはしないか。ただ俺の相棒はたまに信じられないレベルのポカと不運を同時にやらかすので油断ならない。そこはいつも通り俺がしっかりせねば。
「毒に麻痺、目眩、盲目……えげつないことに睡眠や昏倒、混乱まであるな」
「この間取った新ジョブなかったら危なかったわ」
「まったくだ」
現在俺のジョブ構成はランク:★2で
正常人はMPを消費して自分の状態を正常に変えるスキル『正常』を持つ。デバフもバフも問答無用で消すため少し使いづらいジョブだがその分効果は強い。
別に俺と相棒は普段からあまりバフを盛ったりしないのでこのジョブにお互いひと枠を埋めている。
「数が多くて面倒だがこいつらだけなら問題ない」
「ええ、問題なのは……」
相棒の声を遮るように白い弾丸が飛ぶ。
素早く割り込みカットしすかさず風の魔法が落ちた弾丸……餓鬼兎を切り刻む。
「こいつよね」
「油断すると一気に持っていかれるって話だからな」
餓鬼兎と吐栗鼠のコンビ。
固定ダメージを持つ俺みたいな防御力特化のプレイヤーの天敵。道が狭くあまり自由に隊列が組めないここだとなおのこと厄介度が跳ね上がる。
パーティー人数が多い人たちは特に苦労しそうだ。
「前の階層で団体戦を強要しといて、次にすぐ分散を強要するとは……性格の悪さが滲み出てるな」
「ほんとそれね!」
少なくともさっきの肉壁殲滅に加わったパーティーですぐにここを攻略というのは難しいだろう。団体戦を前提にしたパーティーが殆どだったからまだこの7階層に適応出来ない人のほうが多いはずだ。
ただここまで来るとプレジャが何を考えてるのか徐々に見えてくる。確実なキル数と……時間稼ぎだ。なら今の状況はまだ足りない。
「まだ何かあるか?」
栗鼠の投擲物とたまに吐かれる餓鬼兎に対応しながら周囲を見渡す。見た感じ先程とないも変わらない風景にみえる。ただの気のせいならいいんだが。
「警戒はしておくか」
「まーた何ぶつぶつとしてるの。そんなだからモテないのよ」
「大きなお世話だ。そんなことより、このままじゃ埒が明かない。いい加減先に進むぞ」
「どうやって、既に囲まれてわよ」
「仕方ないからこれで突っ切る、俺の背中にしがみつけ」
「それやるの! やった~」
そういうと同時にインベントリから装備を変更して牛の顔が彫刻された大盾を取り出す。
『猛盾ドラック』。フィールドボス(通常のエリアを闊歩して回る徘徊型ボス)が落とした言わば攻撃用の盾だ。猛進という特殊効果がありこれを持って先進する時にのみ移動速度を何倍にも出来、体当りすると大ダメージ与えられる。ただし……
「行くぞ!」
「きゃああああぁ~♪ きっもちいい! もっとはやくはやく!」
「人の背中ではしゃぐな、いいから魔法で舵を取れぶつかっちまう!」
……自分の意志では旋回も停止も出来ない。突破力だけは抜群でもうさっきの群れは置き去りしたがこのままだと壁に激突する。
だから相棒にハンドル代わりを頼んでいるのだが、こいつ絶叫系とか大好きだからすぐテンション上がって暴れるんだよな。踏ん張り強化する根気士と体幹をブレなくする
「右!」
「ほい」
「今度左から右!」
「ほいほーい」
とは言えなんだかんだと興が乗ってくると上手いことやるので責め難い。本当に難儀なやつだ。
その状態でダンジョンを爆走することしばらく。もうすぐにダンジョンが閉まって追い出されそうだって時間まで探索を続けたが一向に次階層の階段が見つからない。
「想像してたよりも広いな。ここまで走ったのにまだマップが半分も埋まっていない」
「ねぇ、そろそろ帰らない? 私の家もう夕飯時なんだけど」
「そうだな、今日はここら辺にして転移アイテムで……」
時間も遅くなったことで『猛盾ドラック』は仕舞い転移アイテムを使ってセーフティエリアに引き返そうとしたその時。このタイミングを狙っていたであろう吐栗鼠が穴から顔を出し投擲物で奇襲を仕掛ける。鎧に阻まれてダメージはなかったが転移アイテムのチャージタイムが発生してしまった。
「ただじゃ返さないってか」
「ほんとしつこいわね、このゲロ栗鼠!」
飯時の邪魔をされたのが癪に障ったのか気炎を上げ栗鼠を睨む相棒。
それに当てられたわけでもないが、いつの間にか大量に集まった栗鼠どもを殲滅しないと脱出は出来そうもない。
「あまり周辺被害を出さす殲滅出来るか相棒!」
「時間掛けて集中すれば1回ぐらいはね。だからちゃんと守ってなさい!」
「了解!」
それだけ聞ければ十分。普段抜けてるとこもあるが俺の相棒はやれば出来るやつだからな。そこは信じて待ってやるから早くなんとかしてくれよ……!
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