第49話 7階層(別視点)

「その、余計なお世話だったか?」


モルダードがが消えたあと。ホーム内の転移機能でファストがいる場所に飛んできてポーションで回復させた俺は恐る恐るそう尋ねる。


最後の手を貸してのは隠すまでも俺だ。もうほぼ決着は着いていたし、忙しい今ファストがデスペナを食らうと困るのでつい手を出してしまった。

いや、別に間違ったことはしていないんだけど。ここの仕掛けも温存出来たし。

ただ……お前に任せる!みたいなノリで送り出しといてこれちょっと気まずい。


「きゅ、きゅきゅうー」

「えっと、気にするな。ってことか?」

「きゅ!」


なにか伝えるように足にすりすりしてから俺を見上げるファスト。

実際に本当にそんな気持ちなのかまでは分からない。この子のAIがそこまで感情を有しているのかも定かではない。

ただ、まぁ……今のファストの目からは嫌なもの感じられないから。きっとそのぐらいでいいのだろ。俺たちは。


「帰るって休むか。それからファストの次の配置も決めないと」

「きゅう」


それだけ言いいながら俺はファストとダンジョンの奥に転移して行った。





◇ ◆ ◇




Side とある重戦士


ダンジョン『増蝕の迷宮エクステラビリンス』6階層。

今そこでは数多なプレイヤーを阻み威容を誇っていた白い壁が光の粒となって階層中を照らしていた。

その光景は神秘的で儚さを感じさせるがそれに反して邪魔な敵が消えたプレイヤーたちは歓喜に包まれていた。で、ここにもその中に混ざっている魔女風の女性プレイヤーがひとり……まぁ俺の相棒である。


「よっしゃーッ!! 兎の肉壁、撃破!」

「分かってはいたけど上手くいってよかったな」

「ええ、これでやっと7階層に進める。待ってなさいよあのクソPK野郎!」


ピシッと砦を指差して挑戦的な眼差しで睨むうちの相棒。

それを苦笑を浮かべて見守っているとその横に近寄る影が相棒をがしっと抱く。


「まーちゃんお疲れ!」

「お姉ちゃんゲームでまでくっつきに来ないでよ、恥ずかしい!」

「姉さ……じゃなくてメキラさんも解析の仕事お疲れです」

「あーそれ。もう本当に大変だったわ。あのプレジャってやつ色々と混ぜもんし過ぎよ。お陰でうちで攻略始まってもう1週間も過ぎちゃったわ」

「あの放送からはもう2週間ですね」

「そんなことはいいから、はーなーれーろ!」


喧しいながら仲良しなふたりを見ながらここまであったことを振り返る。

増蝕の迷宮エクステラビリンス』6階層が見つかったあと。そこに踏み入った多くのプレイヤーは手を拱いていた。

次階層に繋がると思わる場所を例の肉壁が覆い、誰もすぐに攻略法を見つけることが出来なかったからだ。


そのため準備で遅れて来た『Seeker's』のメキラを筆頭に鑑定系ジョブの人たちが肉壁の即興分析チームを作り、調査に取り掛かることになった。

伝え聞いた話だとそれは困難を極めたという。


まずこの肉壁の兎……あとになって連結兎ラインラビットと判明したこのキメラを仕留めるのが面倒くさ過ぎた。こいつらは連結している時には統合されたステータスの暴力であらゆる攻撃を耐え、それを利用しカウンター技で反撃までしてくる。それだけならまだいいんだが鑑定が何故か通らず、それが何かの付与効果だろうと予想して付与消しを試みるとその個体を強引に自爆させる。

壁の兎どもが自ら同士を討ち始め、そのダメージで付与消しされた個体を瞬時に自爆させるのだ。


ここまで調べるのにも結構時間がかかった。何せダンジョン入場は時間が限定されている。前からずっと基本朝数時間と夕方数時間で昼と夜はダンジョンが閉まり誰も入れない。


ちなみにその開放時間がよくある高校生の余暇時間と被る。だからプレジャは学生だからこう調整したんじゃないかと言われるている。それなら俺と相棒と同じぐらいの年齢代ということになるが……まぁこれはどうでもいいか、まさか同じ学校なわけもあるまいし。


とにかく限られた時間で分析チームはどうすればいいか考えた。ゾンビアタックという数の暴力で攻めるのに時間が足りない。ならおびき寄せて各個撃破するしかない。

でもラインラビットは挑発系スキルも効かない……というより意味がない。

あのうさ公どもはどうやら連結状態のだと動けないらしく、連結状態だと単体スキルでも強制的に全体に挑発が掛かるので1匹だけおびき寄せるという簡単なことすら出来ない。


これに悩みに悩んで分析チームが出した結論は……自爆を誘引してその個体を狩るだった。

ラインラビットはダメージが嵩むと1体にそれを押し付けて切り離し自爆させる。それを利用してやろうということだ。ただこれはこれで難易度が高かった。

押しつけから自爆までほぼタイムロスがなく、自爆前に仕留めるのはかなりタイミングがシビアだ。自爆させるとドロップはなしなのでプレイヤーたちは敢え無く早撃ちゲーをすることになった。


その時に一番活躍したのは名実ともにNo.1ガンナーの『Seeker's』のバッキュン。次点でメルシアと途中から参加した『快食屋』のモルダードだ。

この上位3名はほぼ百発百中だったが通常のプレイヤーは早撃ちに有利なジョブ持ちでさえ10匹に3、4匹狩ればいい程度の成績だったという。


そうやってドロップを集めて、キメラ作成の際にまぜこぜした情報を解析して、そこから有効打を血眼で探してと……そうして壁を崩せる頃にはあっという間に分析チーム結成から1週間が過ぎていた。


「でもまさか攻略の鍵があの餓鬼兎だったとはな」

「そうよね。やることが害悪過ぎて最初めっちゃ嫌わてたのに……」

「まさか固定ダメージありの素材を『錬金術』で混ぜるとたまに割合ダメージありの素材に変異するなんて初めて知ったわよ」

「それで作った武器やアイテムで人海戦術してようやく突破出来たんだからよかったじゃないですか……途中から1枚壁が小分けされてまた時間は掛かりましたけど」

「そんなこともあったわね。割合ダメージ攻撃なんてそう持ってるプレイヤーもないってのに……まったく意地が悪いたらないわ、もう」


生産には変異という現象がある。

生産者系ジョブの一種のやりこみ要素ともなってるこれはどの生産ジョブにも起きるもので例えば鍛冶で武器の作成や強化をすると思わぬ特殊効果が付いたりする。『錬金術』の素材合成ニコイチでもこの変異は起こるようで、素材ランクだけでなく素材そのものが別物に変わる場合がある。


今回は餓鬼兎の門歯が変異した素材が役に立った。この門歯そのままだと生産に使っても1の固定ダメージ効果しか付かないほぼゴミ素材だけど『錬金術』の素材合成で変異させると1割の割合ダメージ効果が付く素材に化ける。

確率はどこのSSRガチャかってぐらいに低いけど、肉壁に強引に入れば出る餓鬼兎は数だけはいる。そのために身銭を切るかインベントリ空でプレイヤーが餌になったりの地獄絵図が繰り広げられたが……なんだかんだみんなでワイワイとやってるのが楽しかったらしくノリのいい人が多かった。

最後には自分の体に料理アイテムを盛り付けて飛び込んだやつまでいたっけ……それもムキムキの男アバターでやってたからその絵面も地獄だったな。


「うぇ」

「いきなりなにえずいてんのよ」

「いや、餓鬼兎狩りのアレを思い出してしまってな」

「やめて、私やっと忘れたのに!!」

「あれは、酷かったわね」


相棒がトラウマに叫び、メキラさんが遠い目をする。

いかんな、これ以上この話題を広げたら被害が増える。


「もう、ここでだらだらしてても仕方ないからさっさと7階層に潜ろう!」

「そ、そうね。それがいいわ!」

「それなら私はメンバーのところに帰らなきゃ。気をつけるのよまーちゃん、ついでにあなたも」

「「はーい」」

「あなた達までそのノリになるのやめて、頼むから!」


自由奔放な同僚のことを俺らに重ねて頭を抱える姉さんを見送り相棒と砦内の階段を降りる。そこは人でごった返すにようになっていたが階段はまるで今の現状を見越していたかのように広々としていて通行に不便はない。

やがて数分しないうちに7階層に着くとそこにはいつもの洞窟がいた、が。


「今回は狭いな。俺だと油断すると頭をぶつけそうだ」

「私はまだ余裕あるけど、跳んだりはねたりは無理ね。ま、私魔法使いだから関係ないけど!」

「いや関係あるだろ、俺が前で射線通らないし」

「あんたごと撃つから問題なしよ!」

「大アリじゃい! 俺が死ぬだろうが!」

「あはは、冗談よ冗談! 私風属性主体なんだから体の隙間通して攻撃出来るしね」


といつもの軽口を叩きながら先にしばらく進む。

目に映る光景はずっと狭い洞窟の壁で代わり映えしない。ただ洞窟のいたる所にぽつぽつと小さな穴があるのが気なる。他のプレイヤーもその穴になにかあると思ったのか調べたり突っついたしているものがちらほらと見受けられた。


「今のところモンスターはないな」

「そうね。でもこう何もないと退屈~……そうだ」


何か閃いた!という風にそこらにある穴を睨む相棒。なんだろ嫌な予感する。


「おい、何する気だ」

「だってこれどう見ても怪しいでしょう?」

「そうだな」

「だから……こうして確かめるのよ!」

「ああー!?」


そう言うと同時に風属性の魔法を行使し、止める間もなく圧縮した空気の爆弾を穴にぶちこむうちの相棒アホ。愕然として横をぱっと見ると何故かドヤ顔を決めていた。素で顔がいいから普通に可愛いのがなおさらムカつく。


「おま、どんな罠があるか分からないのに!」

「だからこうしてかくに……」


何食わぬ顔で宣う相棒の声がザッシュと鋭利な音に遮れる。


「……がひゅ」


奇妙な息を漏らす相棒の胸元をよく見るといつの間にか床から土の槍が生えて背まで貫通していた。どうもあっちこっちに似たような感じで出鱈目に同じものが生えているのをみるに、攻撃者を狙い撃ちするタイプでもないっぽい。ということは……いつもの如く相棒の不運が遺憾無く発揮されただけのようだ。


「またかよ……言わんこっちゃねー」


俺はそれだけ吐き出すように漏らしてその場で額に手をやったのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る