第144話 前哨戦ー2
ここから暫く3人称視点です。
――――――――――――――――――
―― 『
今そこには10階層までを前日の1日で駆け抜けて、一気にここまでの階層まで到達したクラン……『Seeker's』の主力メンバー4人が勢揃いしていた。
「やっとこ、リベンジにこれたね! あの野郎、今度こそ蜂の巣にしてやる!」
「張り切るのはいいけど、まずここを抜けてからね」
「14階層、噂に違わない面倒くささだな」
上下左右、縦横無尽に曲がりくねった階層を偶に遭遇するモンスターを倒しながらすいすいと進む。
途中には暗室トラップや突然足場が消えて重力場が出現し分断を狙う罠なども度々登場して彼女らの行く手を阻もうとするが……。
それらすべてはメキラによってその尽くが見抜かれていた。
「正直、メキラのそれがなかったら私たちも何日もここを彷徨ってかも。最初その格好見た時は爆笑したけど、ははは!」
「うん……メキラ、かわいい」
「もう皆して……」
その言葉に前までのアバターにはなく、今は頭の上に乗っかっている猫耳をきゅっと抑えて隠すメキラ。
メキラが何故そのような姿を取っているのか。それは、目以外の感覚を使い鑑定出来ないか……そう考えたのが始まりだった。
前回の攻略レースの後。メキラはどこか責任を感じていた。それは自分だけ本来の役割を果たせなかったことへの悔恨からのものだ。
自分の本分……情報を読み取り、分析し、プレジャの意図を先に読めていれば、と。
最後のあの“嵌め殺し”だけはどうしようもなかっただろうが、それでももっと上手くやる方法が他にもあったはずという思いが消えない。
そういう思いから何故あそこでは鑑定が効かなかった調べ、プレジャが使っていた幻影が原因だと特定。そこから何故それで鑑定が防がれ、どうやれば突破出来るかを考えた。
出た結論は視覚以外での鑑定。
そんなこと出来るかは分かったなかったが、ものは試しと大胆にもキャラを作り直すことを決定する。ジョブ枠は貴重であるため、余人に検証を頼むこと出来なかった故の決断だった。
それから何十回ものトライ・アンド・エラーを繰り返す。これには《イデアールタレント》のキャラ再作成は育成がやり直しになる以外、デメリットはなく割と手軽に行るのが幸いした。
その末に出たひとつが鋭敏な感覚器官を増やせるファッションジョブを利用すること。この試みが幸いを実を結び、ある隠しジョブを見付けるまでに至った。
と言う訳で、今の猫耳美女の大変可愛らしい姿なのだが……。
もう20も半ばを過ぎる年齢だということを知る身内のものたちからすれば、その姿はやっぱり笑いのタネなのである。
「まあまあ、それで隠しジョブも見つかったんだからいいじゃねぇか。それより次はどっちに行く?」
「ちょっと待てて。『探知』……こっちね」
―― メキラが得た隠しジョブの名は探知士。
鑑定士の転職クエスト中にある感覚器官を増やす系のファッションジョブを持ってると発生するHiddenMissionをクリアし、獲得した隠しジョブだ。
それにより得たスキルは『探知』。その能力はあらゆる感覚からの欲しい形での情報を取得すること。
例えば聴覚で見ることも、視覚で嗅ぐことも出来る。判定としては別の感覚器官で得た情報の精度をシステムが査定して、欲しい感覚の情報に変換するスキルだ。
これにより視覚を遮って鑑定を誤魔化していた『映身』による偽装を突破し、鑑定が通るようになったことがもっとも大きな変化と言えよう。
それによって現在、ダンジョンの情報はメキラからほぼ丸裸になっていた。
モンスターの種類、スキル、魔法陣の効果、キメラ由来の特殊能力……数多な情報が。
そして……厄介と言われるモンスターの能力を見破り危険な罠は見抜く鑑定を、強化した聴覚が届く広範囲で行えたことが、凄まじい速度でダンジョンを攻略出来た最大の理由だった。
「まさか、ファッションジョブがHiddenMissionのキーになったのは予想外もいいとこだったな」
「それに戦士のHiddenMissionもねー……何よ、達成には戦士ジョブが初期のままじゃないと駄目って。そんなのメキラの『探知』がなかったら絶対にわからなかったじゃん!」
「神器本体がずっと密封されていて、『探知』がなかったら鑑定すら出来なかったものね」
「ん、運営……意地悪」
「神器は何の虚飾もない戦士の加護にのみ力を貸す。これを知らないとどうやっても神器を手にすることが出来ないからクエストボスが神器を奪う妨害も無理……なんて、普通は分かるわけないだろうに」
「明らかにもっと色んなジョブを手に取ってみ?って誘導してるのが、透けて見えるのも……気持ちは分かるけど、露骨でどうかなって思うな、あたしは」
がやがやと運営のクエスト設計に文句を言いながらも『Seeker's』の攻略は続き……つい先程15階層のボス
もし初見だったとしても、変わった挙動や変形能力に多少驚く程度と予想されるので、情報が割れている今はこれが妥当な結果だろう。
「で、15階層のボスは倒した訳だが……出て来ねーな」
「あ、奥の扉開いた。ちゃんと道もあるってことは……」
「もう先の階層が出来たってことね。まったく手の早いことだわ」
前はここが最下層という情報を聞いて、目的の人物を少し待っていた面々の元に届いたのは先への道が開いた音だけ。
それは、ここから先の階層があるという知らせに他ならない。
「つーことはあいつと再会するのはもっと先か。で、今日はどうする?」
「そうね。今日はもういい時間だわ。定期的なマップのシャッフルまでまだあるし、このまま帰ってもいいと思う……」
「えー、覗くだけ覗いていこうよ。どうなってるか気になるし!」
「ん、行く!」
「あー! カグシちゃん、勝手にひとりでいっちゃ駄目だって!」
好奇心のまま次階層に突撃するカグシに……
「しゃーないか、ないから……ちょっとだけ行ってみよ!」
「そりゃー! 突撃!」
「って。あんたらまで、ああもう!」
……釣られた他メンバーもノリノリ(約1名渋々)続く。
海のフィールドを楽々抜けて、15階層のボスも瞬殺する快進撃。
―― だからこそ彼らは油断していた。
扉の先は長い下り階段なっており、ボス部屋の扉はそれを半ば折りた時点で閉じていた。恐らくボスを再配置して設定を下に戻したのだろうと特に気にはせず先へと降る。その途中に異変は起こった。
「薄暗くなってきたな。水深が深くなったからか?」
「あ、水も入って来た。ここからまた水中なんだね」
「壁に穴、開いてる」
前の階層と比べて光量が少なくなって来たのか辺りは薄暗くなっており、いつの間にか光の壁に開いた穴から外の海水が侵入を開始している。
「ッ皆、あぶな……ぶふっ!?」
「ぐっ、がぁ!?」
それを見て、「あーフィールド属性ここで戻るんだな」とそれぐらいに思っていた面々に、罠に気付いたメキラが警告を飛ばそうしたが、一気に流れ込んだ水でそれは叶わず。
突然の高水圧に潰されるという形で、『Seeker's』の今日の探索は区切りをつけたのだった。
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