第143話 前哨戦ー1
その日、俺はダンジョンの隔離スペースで護身魔術『ブレード』の練習をしていた。
「ふっ、はっ!」
光が円錐状に細長く纏まった柱……ビームサーベルが俺の腕に追従する形で振り回される。魔術の起点はお試しように作った、手の甲に貼ってる魔法陣が描かれてるシールだ。
マイクロ文字を刻み技術で物凄くする精巧に描かれている魔法陣の真上に『ブレード』の本体が僅かに浮いていて、どんなに振り回しても常にその位置を保つようになっている。
腕が風を切る以外、音は特に鳴っていない。この『ブレード』の魔術は別に実体化はさせていないので当然だ。
ロボットアニメみたいにブゥンブゥンと派手に効果音が鳴らないのはちょっとだけ残念ではあるが、まあ仕方ない。そのためだけにギミックを仕込む余裕もなかったしな。
そして振り回したビームサーベルが通ったとこにあった鉄の棒が、溶け落ちてバラバラになる。
「威力は申し分ない。重くもないし、どの方向で振っても溶断出来るし、かなり直感的に使えて扱いやすい。いい感じだ……ただ、ちょっと悪目立ちし過ぎか?」
「きゅ」
『ブレード』の本体であるビームサーベルも派手でこれでは次見た時には一瞬で警戒、対応される。
初見殺しにはなるかもだが、この威力をそれだけで潰すのも勿体ない。
「あ、そうだ。別に可視光を含ませる必要ないじゃないか」
俺が『ブレード』を発動する時に使う魔法は光をかき集める、それだけ。それに不可視光を選別する過程を追加する。ま、ちょっと手間は増えるがこれで……。
「うむ、見えないビームサーベル完成」
これを咄嗟に出すには流石にまだ少し練習が必要そうだが……出来なくはない。
『ディテクト』の魔術と合わせればまるでノールックで後方に腕を薙ぎ、不可視の一撃の下に暗殺者を切り伏せる……なんてことも出来るかもしれない。
それを想像して見ると……なかなかどうして悪くない。
ピ――ッ! ピ――ッ!
「む、要注意警報か!」
『伝令』スキルを持つモンスターたちには結構前からある特殊な命令が仕込んである。
それは特定の外見のプレイヤーを見た際、俺に警告を飛ばせよというもの。特に危険度の高い人物、集団を選定して出来るだけ覚えさせている。
それでもAIレベル的に限度はあるが、こういう感じで地味に役立っていた。
「で、今回はいったい誰だ。こんな忙しい時に…………おいおい、よりにもよってこのタイミングでお前らかよ!」
監視映像の記録を見返して思わず悪態をつく。
「『Seeker's』と……時間を開けて『
動きから見て今回は別に共同攻略とかでは無いっぽいが……厄介な。
リアルタイムで攻略状況を追ってみると、両クランともに最短距離で次々と階層を抜けてくる動きだ。明らかに最下層を目指している。
「さて、これはどうしたもんか」
無論、来たからには迎え撃つがそう簡単にやられる連中ではない。手は尽くすが、そう遠くないうちに……早いと恐らく明日には今の最下層まではくるか。
16~20階層自体はついこの間完成しているが、それでもどこまで消耗させられるか……。
「でも、そうか……これは、さしずめ対抗戦の前哨戦と言ったところか?」
はっ、いいだろ。あちらさんからしたらそんな意識があるはずもないだろうが、そういうことなら気合も入るというものだ
それに相手も恐らく本調子ではないはず。
『快食屋』はあのレースで一度資金を多量に失って活動が大きく滞っている。モルダードが十分に力を出せるかわからない。
特に『Seeker's』は主力がキャラを作り直しているという噂もある。まだレベル上げとジョブ構成が十全じゃない可能性が高い。
「そこを突いて何とか追い返すしかない、か」
不安要素としてはメルシアが得たはずの隠しジョブだ。
俺の
「他でもなく、メルシアがそれを手に入れたのがヤバい……」
メルシアはPSでも間違いなくモルダードに並ぶトップ層のひとり。
そんなやつがあのとんでも隠しジョブを得たというのは、相対する俺の立場からすると悪夢でしかない。
「でもまあ、どの道いつかはやる合うことになるんだ。それが早いか遅いかだけ」
順当に追い返すシナリオとしては何度か死に戻りさせること。
こんなとこで大きく消耗してはイベント時に支障を来す。
『快食屋』は読めないが『Seeker's』は立場上、大掛かりなイベントには配信のためにも出るはずだから、そこに狙ってとにかく消耗戦を強いる。
なら勝負を掛けるのはやはり、新しく出来た階層たちしかいない。あそこのギミックはそういう意味ではもってこいではあるからな。
「楽しみにしておけよ、新しく階層……深海層区域の脅威をとことん味あわせてやる!」
「きゅう!」
こうして……俺のダンジョンと、両クランとの前哨戦が幕を開けた。
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