第173話 星空の獣


 「ふぅ……もう誰もいないか」


死亡エフェクトたる光の粒子を巻き上げて焦土と化した戦場で俺は確認するようにつぶやく。

一応今回の趣旨に合わせて大勢のプレイヤーの前でそれっぽいロールプレイして見たんだけど……ちょっとやり過ぎたかな?


「ファスト、大暴れしてるな」


遥か遠くから拠点を破壊し、プレイヤーを蹴散らして回っているファストを見ながらその暴れっぷりに感心する。


さて、ここでファストの戦い……というか蹂躙劇を眺めながら今のあの子の種族、夜光神兎ラートリーについて解説しよう。


現在のファストの怪獣じみたあの姿は『星獣化』が変化した新たなスキル―― 『神獣化』によるものだ。


兎を無理矢理に猛獣のように変えて巨大化させたという表現がぴったりな体型になったその膂力は他に類を見ないほどとなる。


でももっとも特徴的なのはその外皮で深い黒に点々と輝きが灯っては流れる、銀河のみたいな様相を呈していること。赤い目はその中で月が如く鎮座し……そのさらに奥にちっちゃくファストの本体がある。


そう、この『神獣化』というスキル身体を直接変化させるのではなく、銀河のベールとでも呼ぶべきものが獣の形でファストを覆っているのだ。


全体像を纏めるなら銀河で出来た獣の衣(今後は便宜上、夜光の衣とする)を被り、その奥でファストが一番星として輝いてる感じだろうか?


無論、変わったのは図体とバカ力だけではない。ファストの代名詞でもある蹴りには大きな変化があった。


「くっそ、何だか知らないがもう好きにがっ!?」


偶然ファストの近くにいたプレイヤーが、突然現れた怪物を見て苛立ちを露わにして飛び掛かる。


それを一瞥したファストの脚が一瞬ブレた。

その動作はダイレクトに夜光の衣へとトレースされ、巨体からの蹴りに変換されたそれを突っ込んできたプレイヤーに叩き込まれては吹き飛ばす。


それでもそのプレイヤーは辛うじて生き残っていたが、そんなのは始まりに過ぎなかった。


「ぐぉばばばば、ば、ば、ばば、ば、ば!?!」


だったの一回食らっただけ。

それなのにも関わらず、蹴られてプレイヤーは何度も何度も、見えない衝撃に押され続けて宙を舞う。


不可解な現象はそのプレイヤーが死ぬまで続き……最後は未だに残っている衝撃波につられ死亡エフェクトの尾を虚空に引きながら散っていった。


今のは『跳躍』『蹴撃』『蹴砕』と『滅刀・シヴァ』の力が統合されたスキル『滅脚』。脚を全体的に強化し、打撃属性のさらなる増加に加え、多段ヒットを発生させて一点に束ねて放つ強大な能力を持つ。


「う、迂闊に近寄るな!」

「やべー……なんだよあの蹴り」

「戦士ジョブを一撃でって……」


かなり後方で見てたものたちは、前衛を担当するものがあまりにもあっさりと粉砕されたことで腰が引けたものが続出してるようだが……そこも間合いだぞ?


遠くからビクビクと様子を見てるプレイヤーたちに向いたファストは、身体から魔力を噴出し地面へと流し込む。

次には地面が隆起し長大な土の槍となって安全圏にいるつもりだったものたちを襲う。


「うっそだろ、あのなりで魔法まで!?」

「ええい、怯むな! 言ってもただの土属性だ、風でえいげぇッ!?」


予想外の攻撃で混乱が拡大する中でも冷静に指示を出していた指揮官役のプレイヤーが光の線に眉間を撃ち抜かれて絶命する。


「複数属性まで!?」

「しかも光って……」「駄目だもう、にげ……が!?」

「なん、だ……これ。身体が、重い」


そこまで来るともう絶望感が広がり、逃亡者が出始めるが……今のファストはそう簡単には逃さない。


星属性で惑星に干渉し重力を操り、逃げ惑うプレイヤーたちの動きを縛りつけられるのだから。


ファストにこんなことが出来る原因はすべて新スキル――『才星』にある。


主人のジョブを共有しモンスターながらジョブをセット出来る、俺が知る限りトップクラスのぶっ壊れるスキル。


ファストは今そこに俺のメインジョブ星界術士アストロキャスターをセットしてるお陰で、3属性の魔法も操れるスピードアタッカーとかいうインチキ臭い性能になっている。


しかもこのスキル、今は初期枠でひとつまでしかセット出来ないが、所持者の成長に伴い強化される可能性ありということだ。


それは、ファストと俺は真の意味でずっと共に成長して行ける一心同体のパートナーとなったことを意味していた。


「こうなりゃ自棄だ! あのバケモンだけでも道連れに……」


と、まあここまでくれば絶対にこんなのがちらほらと湧く。

でも残念……お前たちが手こずってる間、ファストの準備は終わっている。


ファストが息を吸い込み、その動作に連動して夜光の衣も胸元が大きく膨らむ。


「おい、また何かする気みたいだぞ!」

「今度こそさせ――」


そして吐き出すと同時に、光の奔流が辺り一帯を支配した。


莫大な光エネルギーそのものを束ねて放ったレーザーブレス。それが近くに居たプレイヤーを平等に焼き尽くし灰燼と帰す。


遠くから見ると何か光ったかと思った瞬間にはそこのものがバッタバッタと切り刻まれてるようにしか見えない光景だったりする。


さっき敵の拠点を一刀両断したのもこれだ。


普通に光魔法を使っただけでは説明が付かないほどの圧倒的な光景。


そのカラクリは新スキル―― 『星肺』にあった。


『神獣化』同様に元あったスキルの『肺合』が変化して生まれたスキル『星肺』。

このスキルの効果は薬や毒などのような物質だけでなくエネルギー……魔力や場合によっては加護の力すら貯めること出来るというもの。

その上で貯めたものを貯めた時間に応じて強化も出来るようになったぶっ壊れスキルその2だ。


魔法とそれを扱うジョブの加護を溜めて強化し、一気に放つ。現在のファストの必殺技とも呼べる代物だ。


スキルの性質上、貯めるという時間がどうしても掛かるというのが唯一の弱点だったりするが、それを補って余りある性能を誇る。


他にも『不滅』と『終族』というスキルがあるがこれは戦い直接関与しないものなので省略するとして……。


「っていうか、見てる間に他のクランたちがほぼ全滅しかけてる……これはもう終わったか?」


と、俺が思いかけた時だった……。


「えっと……なんだあれ?」


……人なのに人とは似つかわしくないそんな影が近付いて来たのは。

――――――――――――――――――

・追記


・ファストの残りのスキル。


『不滅』

どのような状況でも完全なるロストをしない。

つまり眷属の契約を解除してロストさせる、という行為も不可能となる。


※眷属契約を解消するつもりが毛頭なかったため、主人公はこの仕様に気付いてすらいない。


『終族』

最終進化を迎えたものの証。

これから進化が出来なくなる代わりに、レベルアップ時の能力値上昇が増大する。その分、必要経験値も増大する。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る