第174話 『怪人の巣《ヴィランズ》』

他のクランがほぼ壊滅し、もう対戦が終わりかけたかと思った矢先。

遠くから少人数ながら人影?らしきものが近付いてきたいた。


「なんだあれ? 人、なのか?」


こう、なんて言えばいいのか……まるで蛙を無理に人型に押し込んだような姿をしているのとか、虎頭のデカい大男とか、果には辛うじて人型の丸っこい水風船みたいなのまでいる。


あんな連中見たこともないはずなんだが……なんだろ、妙な既視感が……。


「ああ、そうだ。特撮の怪人だ!」


と、暫く考えて気付く。

何かのモチーフを歪に人型へと昇華させたそれは、まさに特撮モノの怪人そのもの。

見た感じプレイヤーのらしいが……。


「ってことは、もしかしてこいつらが『怪人のヴィランズ』か」


確か本イベントの優勝候補と度々挙げられていた上位陣クランのひとつ。


最初はエンジョイ勢の、ファッションジョブで遊んでいた特撮好きたちが寄り集まって出来たクランがだったが……いつの間にかその趣味が高じて独特なバトルスタイルで上に上り詰めたものたちだと聞いた。


よく見ると、蠍型に蜻蛉型、果てにはどうやったのか蚯蚓型まで色んな怪人がぞろぞろと集まってきている。


噂では聞いたことがあったが、まさかここで会うとはな……。


「丁度いい。正直『怪人の巣ヴィランズ』の実力は気になっていたからな。ここいらでお手並み拝見と行こうか」


空中で不意打ちするのは一旦やめてまずは連中が魔陣兎ボードラビットをどう対処するかを見届けよう。もちろん、遠く離れては『映身』で身を隠した上でだ。


それで少し待つと、奴らは魔陣兎ボードラビットの肉壁に残り50メートルほどの距離に到着した辺りで攻撃を開始した。


先頭、蟻や蚯蚓……有り体いって虫っぽい怪人たちが口から黄色い液体が魔陣兎ボードラビットの障壁に吐きかける。


その液体からはじゅうじゅうという音と一緒に煙が上がったおり、遠くで分かりづらいがちょっと悪臭も漂っていた。


「あの液体、強酸とかか? 」


粘性が強い強酸を付着させて障壁に持続ダメージを与える……なるほど、いい作戦だ。

こんなもんどう用意したのかはともかく、これなら確かに光属性の魔術障壁ではあっという間に溶かされていただろう。


「まあ、この前までならな」


雨で『リジェクトシールド』が破れかけてた以来、当然俺は持続、断続ダメージの備えを考えてきた。


「『伝令』だ、障壁のパータンを流動型に変形しろ!」


『伝令』持ちのキメラを通して俺の命令が肉壁全体に通達。即座に壁を構成する魔陣兎ボードラビットたちが蠕き、魔法陣を組み替える。


それが完成すると同時に障壁の表面を流動し、張り付いていた強酸液を障壁の一部ごと流して切り捨てる。


「軽い攻撃なら受け流せばいい……という考えから発展して何かくっついてダメージが発生した時用に多重壁、切り離しまで完備だ」


ふはは、これでもう小細工は通じまい。


そんな俺の心の声が聞こえでもしたのか。

怪人の中でも明らかにパワータイプの、虎だとか像など大型怪人が前に出てくる。


その大型怪人たちが力を漲らせ、一心不乱に障壁を取り付き削り取っていく。


「あん野郎ども火力でゴリ押しするつもりか。ある意味一番厄介なことを……」


これがそんじょそこらのプレイヤーだった問題なかったが、トップクラスのプレイヤーが束になら話が違ってくる。

全員半端なランクしてはないだろうし、そういうのがパワー偏重して来られたら急造の魔陣兎ボードラビット程度のスペックじゃキツい。


結局最後には数値の暴力というのはどのゲームでも正義だからな。小細工が効かないならこうなるのも自然か。


「そうなったらこっちももう遠慮なしだ。まずお挨拶に一発!」


様子見とか言ってる場合じゃなくなったので、あわよくば壊滅させるつもりでの『スターリング』を放つ。


「おい、来たぜェ!」

「はっはー! やっとか。お前らどけどけ!」


なんかダボッとしてる……っていうかデブ体型のなんかさっき見た水風船っぽい怪人が他を押しのけては『スターリング』の隕石と相対する。

圧倒的な質量を宿した隕石はその怪人へと直撃し……身体の中に飲み込まれた。


「ぐっ、オゥオオオー……っ!?」


飲み込まれた隕石の質量は行き場を失い、その体内で暴れ狂う。

だが、それでもデブ怪人の身体が膨張するのみで、『スターリング』の隕石はそこを抜け出すことも、破壊することも叶わないず……やがて沈黙した。


飲まれる前の、飛来途中に発生した衝撃波も届いてはいるが、それもまた似た形の怪人たちが身体を平たく広げては矢面に立って防いでいた。


「なるほど……スライム型の怪人と言ったところか」


それに対して俺は驚くこともなく冷静に分析する。


魔法防御は装備品でどうにかしたとして、肉の質感それ自体を変えられるファッションジョブもあるとは聞いたが……それはあんなに極端なものではなかったはず。


酸を放つ怪人もそうだし、これが『怪人のヴィランズ』にあるという例のマッド・サイエンティストたちの技術力か?


もしそうならヨグあたり喜びそうだからちょっとゆっくり話したい気もするけど……残念ながらそんな暇はなさそうだ。下の怪人たち皆こっち見てやる気満々だからな。


……こりゃ思った以上に一筋縄じゃいかなそうだな。


「ファストはこれら以外の残党を狩ってる最中だし……しゃーない。ファストが来るまで俺で時間を稼いどきますか」


俺は迫りくる異形の集団を見据えながら、杖を構え直した。


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