第172話 築城

クラン対抗戦・対戦サーバー『草原型フィールド』。


「草原か……可も不可もなしって感じだな」


対戦フィールドに飛ばさて見えた場所はどこまで行っても草花が広がる大草原の丘陵地帯。

俺たちのクラン拠点はあまりにも不自然な佇まいでその中にドンと置かれていた。


「ま、どの地形でも大地さえあれば俺には関係ないけどな」


まずこのままだと防衛に不都合なので、地形を拠点の土台ごと思いっ切り盛り上げる。

丘陵から突然小山ぐらいになった地形の頂点に拠点を置く構えだ。


「次は錬金の簡易生産セットを広げて……」


持ち込んだ素材でキメラ作成を開始する。

対戦フィールドに連れて来れる使役モンスターは1プレイヤーに対して5体までと少な過ぎたからな。ただ素材の制限はそこまで酷くないというか……クラン単位で少ないを想定した枠数だったのでたんまりと持ち込めた。


「最初に作るのは連結兎ラインラビット収蔵兎ブロックラビット合わせてリニューアルしたこいつ!」


名を魔陣兎ボードラビット、身体にいくつもの『魔刻』を刻んでいる兎型のキメラだ。

こいつらを『魔刻』のバリエーションを増やす形で何種類か作成し、クイーンに近付ける。


「クイーンも新スキルのお披露目だ、遠慮なくやれ!」

「ぷきゅ!」


このイベントに備えて、ペストと同じ時期にクイーンも進化を済ませてある。


というのもまたセイレーンの素材、しかも今度は変異したものがクイーンの進化先を開けたのだ。


今の種族名は鬼子母兎改め―― 女帝総兎エンプレス・レギオン


「ぷきゅうー!!」


クイーンがスキル発動のエフェクトを滾らせて、雄叫びを上げる。


それに呼応して近くにいた魔陣兎ボードラビットが1、2……10、11……100、1000……ともはや何かの爆発みたいな勢いで増えていく。


もし飛ばずに地上に居たら、この誕生の波に飲まれて溺れいたかもしれない。


今クイーンが発動したのは女帝総兎エンプレス・レギオンになった時に得たスキル『大群誕レギオン』。


自分の『繁殖』によるモンスターポップ間隔を短時間だけゼロにするという中々デタラメな性能のスキルだ。


進化につれてクイーンの各スキルの性能も上がったことも相まって、この『大群誕レギオン』を発動さえすれば数匹からも一瞬で数千の軍勢を生み出せるようになった。


まあ、クールタイムは24時間と性能相応に長いが、こういう場面では大変助かるというものだ。


魔陣兎ボードラビットども、ここの周りに壁を築け!」


主たる俺の号令を受けてお互いをもみくちゃにしながらも散り散りとなり思い思いの場所で近くの同族と繋がり壁を築く。


「と、俺は見てないで『伝令』持ちのキメラも作らないとだ」


その際はクイーンからは少し離れて作成する。『伝令』持ちは多すぎても混乱するから数を調整する必要があるのだ。


……そして、暫く経ったあと。


「おー。これはまた壮観だなー」

「きゅー」

「ぷきゅきゅ」


いつの間にか完成した魔陣兎ボードラビットの壁は俺のダンジョン6階層にあるものと遜色ない……いや、寧ろそれすら超え立派なものになっていた。


何せ魔陣兎ボードラビットはその名の通り、お互い連携することで魔法陣を描き、例の防御魔術を張り巡らすことも出来るのだから。


しかもこの壁は徐々に増える魔陣兎ボードラビットに合わせて今も何枚も重ねるようにして、その枚数を増やしていっている。


それと変化したのは何も壁が出来たことだけではなかった。


「拠点も、これじゃもう砦と言うより城か」

「きゅう」

「チチッ!」


正直、今までの対戦を見て、どうにも信用ならない拠点の耐久力を補うために魔陣兎ボードラビットを張り付かせては魔術を発動し、輝く巨城のような佇まいを見せている。


これならもしリミットダメージクラスの攻撃が飛んできても暫くは持つだろ。


仕上げに厄病鼠を小型化したキメラを作っては増やして、肉壁の隙間に潜ませれば……防衛準備は完了したと言ってもいい。


まあ、正直やり過ぎた感は否めないが念の為と、戦略上今は目立っておきたいのでこれでいい。


「で、恐らくこの辺で……お、早速来た!」


自分で言うのもなんだが、今俺たち『戯人衆ロキ』というクランはかなり注目されてるというか……悪目立ちしている。


俺の先に暴れた先輩方がやらかしにやらかしたからそれも当然だろ。

そして往々にしてこのような競争に置いて、そんな明らかに出た釘に対しての風当たりは強い。


総合貢献度が添えられている対戦クランのリストを見てから、高い壁とか作って凄く目立つここを見ては「あのクランのやつじゃね?」と今も2、3クランぐらいがダッシュして来るぐらいには……。


「狙い通りだ。俺たちの出番だぞファスト」

「きゅう!」


見た感じ、かなりお互いに間隔を置いて多方向から押し寄せて来ている。ヘンダーのあの技を警戒してるのか、それとも肉壁を見て俺のことに勘付いたのか……まあ、どっちでもいい。


俺だって今日のためにずっと備えて来たんだ。『スターリング』の対策が取られるぐらい想定している。当然対策の対策も考えてきた。


「『スターリング』、開放……


俺が一気に解き放った『スターリング』の隕石が、綺麗に四方へと飛んでいく。


美しい草原の丘が弾け飛び、プレイヤーの悲鳴と死亡エフェクトを交えながら散っていく。


「きゃああ?!」

「ば、ありえ――ッ! 」

「嘘だろ、あんな飛ばせるとか聞いてねぇぞ!?」


この事態が予想外だったのかそんなことを宣うやつもいた。


恐らく、どこかで俺の過去のジョブ構成を予測して『スターリング』を分析したプレイヤーでも居たんだろ。


でもそんなもの、職業装備ジョブウェポンでブーストにブースト掛けた今の俺にはまったく当て嵌まらない。


『スターリング』だって素では2個ストックするのが限界だったのが、今では最大10個まで増やせるようになったのだ。


つまり連中がしてきた机上の空論など、今やほぼ無意味だ。


「これで、ご挨拶は済んだ。本格的に打って出るぞファスト!」

「きゅう!」


―― そして物語はやって冒頭へと繋がる。



――――――――――――――――――

・追記


次回、プロローグの続きからです。

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