第171話 出撃
視点戻ります。
ここからは恐らくもうこの章終わるまでは主人公視点です。
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「酷でぇー……」
「酷でぇな」
「ふふ、確かに酷いですわね」
「帰還早々、頑張ったクランマスターにみんなこそ酷くない?」
あまりにもあんまりなヘンダーの所業に珍しくクランメンバーの心がひとつになっていると、理不尽必殺技を5発しただけで戻って来た張本人にツッコまれた。
「きゅ!」
「へぷっ!?」
そしてそれを見た瞬間飛び出したファストがヘンダーの顔面を足蹴にし、ペストを咥えては連れ戻してくる。
どうやら目の前でかわいい後輩眷属を攫われたのが、余程腹に据えかねていたらしい。
「うぅ……またファストちゃんに蹴られた!」
「自業自得だっての」
「だははー! こりゃは傑作だな」
無論セーフティエリア内だからダメージはないヘンダーだったが、やっぱ小動物に嫌われるのが堪えていた。
アガフェルは微笑ましく眺めてるだけだが、ヨグはその光景になんかツボって爆笑している。
「ははー! あれの態度見てっとムカってするからな! 良くやった、うさ公!」
「きゅきゅう!」
「ちょ、なんでヨグくんにはそんな懐いてるの!?」
「あー、ヨグはちょくちょく
上機嫌に褒めるヨグとそれに戯れるファストを見て、ヘンダーが納得いかないとばかりに声を荒げる。
まあ、前時代のヤンキーっぽい格好の男より兎に好かれてないってのは……流石にショックだとは分かる。
「この話はやめよ、私にばかりダメージが来る!」
「じゃあ聞くけど、なんで他の拠点の場所がわかったんだ?」
「ああ、あれはね……」
細かいところが多いから省略するが、そこから出た説明を要約すると拠点生成の法則をある程度割り出すのに成功してたとのこと。
そのためにヘンダーはふたりの対戦を見てる間もこっそりと他のクランの戦いを盗み見ていたようだ。
拠点同士の間隔の最低値とか、置かれる地形の特徴とか。他にも色んな条件を事細かに記録して自分の拠点から計算すると他の拠点の位置も大まかに分かるにようにしてたそうだ。
「よくやるな、そんなこと……」
「私を誰だと思ってるの? ここの運営がやってそうなシステムルーチンなんて、私からしたらお見通しなんだよ、後輩くん」
ヘンダーはこの日のために戦力の強化だけでなく、運営開発が癖を見抜くのにも腐心していたらしい。
その情報収集及び検証をするためにもアガフェルとファンたちをしょっちゅう呼び招集していたとか。
正直、俺はそこまでするんだと思いちょっと顔を引きずっていた。
ヘンダーがジョブ削除の件で運営に恨み節があるのは知っていたが、これほどとは……。
「そんなことより、どうよあの新必殺技!」
「だからあれが酷でぇつってんでしょうに……!」
今思えば、ヘンダーがあんな縛りを言い出した理由も、あの技が決め手だったんだろ。よくよく考えてみるとこの人が自分が負けるかもと思う戦いをするわけがない。
試合方式と事前情報にもあった予想マップの規模からして、対抗戦はクラン同士がかなり離れた距離でスタートするのは分かりきっていた。
そこに防御困難の超遠距離かつ広範囲攻撃の雨だ。そんなもん初見で対処出来るわけがない。
仕組みが分かっていると煩雑な工程故に隙が大き過ぎて、こういう場面でもないと使い道がほぼ無いと分かるのだが……同クランの俺たちでさえ、知らされてなかったんだから他所が知る由もないというのが、なんとも酷い。
と、ヘンダーの対戦の感想を漏らしていると本日総4回目となるUI画面が立ち上がる。
「お、マッチング来た! 最後は後輩くんを残すのみだね」
「どうなるか、お手並み拝見と言ったところですわね」
「テメェ、絶対勝ってこい! そっちの戦力には俺も結構手を貸したんだからよ!」
「まあ、やるだけやって来る」
各々の言葉で見送るクランメンバーたちに照れくさそうにそれだけ言うと対戦の承認ボタンを押す……前に一旦地下のクイーンにところに迎えに行き俺と眷属で集まる。
「お前ら、やっと出撃の時間だ」
「きゅ!」
「チチッ!」
「ぷきゅー」
ファスト、クイーン、ペストの今の眷属3体を見回してから俺は士気を上げるように或いは己を鼓舞するように高らかに宣言する。
「俺たちはこの大舞台、必ず勝利し数多な敵を蹂躙せねばならない。『
別に俺は自分がクランの先輩方ほどの強さを持っていたり、あそこまで上手くやれるとは微塵も思っていない。
何度も言うが俺はただの凡人、当たり前のことを当たり前にやるぐらいしか出来ない。
だが、今になってそんなこと言い訳にもならない。今見た遥かに高みへ追い縋るためにも奮い立つ。そのための準備も今日までみっちり準備して来たつもりだ。
後は俺がやるかやらないか。それだけだ。
「今回、敵には欠片ほどの慈悲もいらない。立ちはだかるものすべてを薙ぎ払い、押し潰し、地獄へと叩き込んでやれ! さあ、行くぞお前ら!」
「「「――っ!!」」
眷属たちが一斉に上げた声にならない鳴き声に背を押されながら、俺たちは対戦用のフィールドに飛んでいった。
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