第170話 『魔王』ヘンダー・ケル
クラン対抗戦・対戦サーバー『山岳型フィールド』。
「山かー……まあ、そう悪くはないチョイスかな?」
木々が生い茂る、緑豊かな山の連なりが見渡せるとある山の高所。
今回の拠点はその場所にまるで埋まった古代遺跡ように山のくり抜いた地中に鎮座していた。
「防衛はしやすそうな地形だね。今回はあんま関係ないけど」
やっぱり私って余計なところで運使うなーとブツクサ言いながら、インベントリを開き普段は閉まっているそれを取り出す。
「っとと、やっぱりこの大剣バランス悪いな、もう……。そうじゃなくても私の性格に合わないってのにさ。干渉無効とか余計な能力もあるせいでヨグくんでも打ち直せないし」
ヘンダーは本来、β版では暗器と魔法で小細工して嵌めてくスタイルだった。
この大剣……
「どれどれ、この地形でなら…………あっちとこっち……それとあっちで……。うん、大まかにだけど特定完了」
ためつすがめつ、暫く周りの地形を事細か観測しだしたと思ったら、時にUIで何かに見たり、書き込んだりして……やがて特定5方向を指差しながら満足そうに頷く。
「次はペストちゃん、『厄再』を使って!」
「チチ」
魅了で一時的に言いなりとなったがペストが、命令通りに『厄再』を発動する。
このため、集合前に『
「お、おおう……。やっぱしこれ、凄いね……って言うか前より、強くなってない」
そう、実は結構前に進化可能になっていたペストも今度のイベントを合わせて進化していた。
「逆境鎧『リベンジ』、チャージ開始!」
ヘンダーが普段から愛用している黒い全身鎧……逆境鎧『リベンジ』。それはヨグが開発した鎧シリーズの中でも傑作の一品だった。
この鎧は
元々は機械化により殆ど状態異常が意味をなさないヨグが、ただ無効化するのも勿体ないと自分の装甲として使うために研究してた代物だ。
まあ、その研究は原材料のモンスターが希少過ぎた上に、ある事情で素材を複製も出来なかったが故によく身体を使い捨てるヨグのスタイルに合わず頓挫したが……副産物として出来上がった鎧をヘンダーが買い取ったというわけだ。
「……チャージ、満タン来たー!」
その肝心の逆境鎧『リベンジ』の特殊効果の名は『逆境超克』。
ダメージ吸収を状態異常吸収に改造した際についたこの『逆境超克』は受けた状態異常を時間を掛けて吸収し、その分だけ次の一撃を強化する力を持つ。
「ここに、消滅属性を添えまして……!」
ヘンダーがいつかのように消滅属性を生成しては手に持つ、
現在ヘンダーの
戦士系のサードジョブに該当にするこのジョブは『魔法剣』という魔法を武器限定で付与して物理・魔法攻撃力を合算する強力なスキルを持つ。
ヘンダーはこの『魔法剣』を用いて消滅属性を不壊である大剣へと付与し、逆境鎧『リベンジ』の特殊効果でブーストを掛けることで最大の技――
そこまでしてようやく、コントロールの難易度で扱いが困難な消滅属性をあれほど広範囲、高威力で放てるって寸法だ。
「で、ここに拡散士の『拡散』を付け足して、仕上げに遠投士の『遠投』をまぶして――!」
今回はそこでさらに
実のところ発動過程でもいくつもの補助系のスキルを絡めており、すでに大剣から溢れ出る赤と極彩色のエフェクトは以前のそれとは比べ物にもならない規模へと変貌していた。
「よーし、装填完了!」
それを認めたヘンダーは大剣を天に向けて構える。
「最初のターゲットは……こっち」
切っ先が向く、先程ヘンダーが指差した方向へと――
「――
――大剣を振り抜く!
放物線を描き、大剣から放たれた赤と極彩色の破滅が空を駆け登っていく。
それらは上昇するごとに細く、細く枝分かれしていき雲すらも突き抜けた後に、目標へ向かって落ちてゆく。
「なんだ、あれ」
「流れ星?」
「え、初っ端からなんかのギミックか」
その先にある者たち……ついさっき拠点へと飛ばされ防備を整えていたどこかのクランがそれを見てざわつく。
「なんか、どんどんこっちに来るぞ!」
「まさか攻撃! こんな早く!」
やがて雨粒が如く降り注いだそれらは破滅の雨となり……
「全員、防御た――っ!?」
……無慈悲にも、触れたもの皆を容赦なく消し去ってゆく。
「逃げ……っ!?
「なんで、防御――」
逃げ場はどこにもない。消滅属性は同じに消滅属性で相殺しない限り防げない。
「あ、ああ! コアが……!」
そしてそれは例え対クラン戦を想定して作られた拠点のコアであっても例外ではなかった。
拠点の防壁や外壁など無いものとして侵入して来た破滅の雨はコアを瞬く間に穴だらけし……だった一振りで、ひとつのクラン及びその構成メンバーが、なんの抵抗も許されないまま全滅した。
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・追記
要約
某・元魔王「コンボの詰み技で詰みゲー仕掛けるね!」
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