第169話 アガフェル戦・感想

視点戻ります。

――――――――――――――――――

アガフェルの対戦が終了し、この場に九尾の狐となった彼女が戻ってきた。


「お疲れフェルちゃん、ナイス演説!」 

「いえいえ、それほどでもありませんわ」

「まあ、それ以外にはまた男の子誑かしただけでなんもしてないけど!」

「あら、バレてしまいましたわね。ふふふ」


あの対戦の中身そんな楽しそうに話すもんだったかなー。ぶっちゃけ内ゲバと集団自爆と結構ショッキングな映像だった気がするけど。


と、ちょっと遠い目をした俺はさっきから疑問に思ったことを先に尋ねてみることにした。


「アガフェルもまた色々と衝撃的だったけど……。最後、なんで中継ライブの画角が分かったんだ。こっちでも見てたが、測ったみたいにびったりと画面正面に収まっててめちゃ驚いた」

「あれですの? ただの経験則……つまりは勘ですわよ。視線は常日頃意識するように心掛けてますので、その感覚を頼りに今ならここがもっとも目立つだろうと当たり付けたら……本当に当たったというわけです。ふふん、流石妾ですわ!」

「ええ……」


それで分かるものなのか? 正直、俺はちっとも理解が及ばない。


ヨグといい、アガフェルといいどっか常人とは感覚というか感性がズレてる気がするんだよな……。


「でもフェルちゃん、しれっと私たちのハードル上げるのは酷くない?」

「それぐらいヘンダーならどうとでもなると、妾信じておりますので」

「もう、こやつは! 可愛い事言っちゃって、そのもふもっふしてしてやろうか」

「ふふ、それはヘンダーがしたいだけでしょう?」


戯れてるふたり(片方見た目ハゲおっさん)


「そういや、アガフェルが言ってたあれ本当にやるのか。俺そこまで聞いてないけど」

「いえ、脅迫自体は口から出任せですわよ?」

「おい!?」


あんな意味深なこと言っておいて、と俺が驚いて声を荒げるとアガフェルは何でもないようにこう続けた。


「それによく誤解されますが、妾は別に同志たちを奴隷のように扱き使ってるわけではありませんわよ。だから無理矢理ポイントや景品の没収とか出来ませんわ」

「え、そうなの?」

「はい。あの方たちは全員、今回の件を聞き自ら名乗り出た有志の方々ですわ」


そう言って、参考までにアガフェルからその時のチャットログも見せて貰ったが……


『姫から連絡、今イベントで派手にやらかす予定らしい』『マ?』

『お、そうなん』『うち秘密通路作れるで』『いやいや暗躍なら自爆』

『よし、爆薬は任せろ!』『俺はクラマスに特攻掛けたる、気に入らんし』

『ちょっとクラン内での布教力入れます』『自爆から万歳はやっぱロマンだよなァ!?』『合図は指をパッチンって鳴らすあれでどうよ』『『『それ、採用!』』』


……って感じで、めちゃんこノリノリだったようだ。


アガフェルが言うに彼女が“同志”と呼ぶ彼らファンたちに頼みはしても命令したことは一度もないとか。


それに頼む時もちゃん例のお返し……という名のぶち宴会をアガフェルの全額費用負担でゲーム内で開くとか。


宴会の内容も要望が多かった格好をしたアガフェルが舞台に立ってサービス公演(演目アガフェルの気分よって変わる)をしたり、偶にファンの誰かが大きな功績を上げたらその人の趣味全開の用事を手伝いながら騒いだりと……思ったより楽しいくやってるそうだ。


「それにあの演説は、あなたがダンジョンで取っているのと似た戦略ですわ」

「ダンジョンの?」

「そうだよ、後輩くん。我々『戯人衆ロキ』はこの世界面白おかしく引っ掻き回す存在……言わば物語の悪役に近い存在になる。これは理解してるよね」

「うん。だからこそ闇クランなんて名乗ってるのも……」

「そして悪役にとって最もつらい状況は勝てないことでも、悪事を成せないことでもない―― 認識されないこと。ここまで言ったら……もう後輩くんなら分けるはずだよ」


そう言われてはたと気付く。


確かに俺も自分を悪役にするため真っ先にしたのは“悪名を広めること”。悪印象だろうがなんだろうが、人に認識されないことには意味がないとかなり目立つ悪質PKをしていたのだ。


そう考えるとこれから『戯人衆ロキ』が何を成すにせよ、悪役をするに当たって注目されているという一点は欠けてはならないピースだ。


つまり、あの演説はアガフェルなりの今後の活動への布石だったということだ。


「望む印象は残せた、あとはここからもっと強く誰が見ても闇クランと呼ぶ相応しいインパクトを与えるだけ……ってことか」

「そういうこと。それが畏怖の類ならなおよし。まあ、とは言っても本格的に仕掛けるのは本戦になってからだけど……っと、来たね」

「あ、マッチングもう決まったのか」


俺たちの前に突然、対抗戦のマッチングUI画面が立ち上がる。

ヘンダーたちとあれこれと話している間に対戦クランの検索が終わったらしい。


「ついに私の番だね! あ、後輩くん眷属みんな連れいてきた」

「?まあ、連れていける使役モンスターには限りがあるから、眷属は全部連れて来てるぞ。まあ、クイーンだけデカすぎて拡張して貰ったここの地下に……」

「やっぱりそうだと思った! じゃあ―― ちょっと借りるね。美神の歌ウェヌス・カント


そう言うが早いかヘンダーが前に一度だけ見た黄金の笛……美神のウェヌス・カントを取り出し奏でる。

実は明るいところが苦手でずっと俺のローブ中に居たペストがそれを聞いてふらふらとヘンダーに駆け寄る。


「あ、ペスト!」

「きゅ!」

「ん~、やっぱりファストちゃんにはこの程度はもう効かないか。ま、目的の子は掛かったからいいや。おいでー」

「チチッ」


ペストはそのままヘンダーは腕伝いに肩に乗り……止める暇もなく一緒に対戦フィールドに飛んでしまった。


「あー本当にペスト連れて行っちまった。つーか魅了で縛っても使役モンスターとみなされるとか、聞いてないよ……」

「ははは! してやられたな、お前」

「……ヨグ。いつの間に戻ってたの?」

「今だよ、丁度修復が終わったんだよ」


ヘンダーの唐突の蛮行に俺が呆気にとられるいると完全の元の姿を取り戻したヨグが帰ってきた。


「がははっ! テメェもまだあの妖怪ネナベババアの性根の悪さが分かってねぇな」

「えっと?」

「テメェ、あの騒動の時、なんであれが降参したか未だ納得出来なねーよな」

「それは、まあ……」


あの騒動……間違いなく俺が起こした攻略レースの時。

俺は完璧なタイミングで漁夫の利を取りに来たヘンダーと戦い、結果的に降参させた。


ただ、未だになんであの場面でヘンダーが降参したのかが分からないし、納得がいかない。

いくらヘンダーに負ける可能性があったからって、それは当時の彼我の戦力差を考えれば五分どころか1割もない。


「あのババアはな、最初からお前を殺すんじゃなくて拘束して脅迫する気だったんだよ。あとあんな下手な契約にサインなんじゃ絶対にしねぇよ」

「ですわね。そんなリスクをヘンダーが取るわけありませんわ。恐らく、ヘンダーのことですからその時は契約してるって感じに演技でもしたんでしょうけど」

「は、え? …………ま、まさか!」


ふたりの話を聞いて、今更になって気付く。

あの人は本当の意味でもっともうまい所を掻っ攫いにきていたのだ。


俺が元持ってるものだけでなく攻略レースで勝利が確定して、参加者のプレイヤーから巻き上げる予定の財産までそっくり頂くために。


が、俺はヘンダーの予想を超えて抵抗し、最後に死ぬか殺すかの状況にまで持ち込んだ。

その時点でヘンダーからしたら大損害だったわけだ。だからあんなにあっさり降参した……そうやって俺を味方に引き込んだほうがずっと美味しい思いが出来るから。


くそ、契約にサインしたプレイヤーのリストをもっとちゃんと確認しとくべきだった。多すぎて流し読みしてたからヘンダーの名前は普通に読み飛ばしたのかと……。


あと攻略レースのリザルト処理では誰のものを盗ったとかまでは流石に乗ってなかったからそれでも普通に気付かなかった。


……でもあのヘンダーならなんかその辺も計算に入れてそうだから、どの道騙されてたとは思うけども。


「ははは、結局あの時も俺はしてやれたってことか。今度は何をするやら……」

「何ってそりゃテメェ……」

「とびっきりに……」


今更に知った衝撃の真実に脱力しながらぽつりと呟いたそれに、珍しくヨグとアガフェルが揃って答える。


「卑怯な手以外ねぇだろ」

「卑怯な手以外ないですわ」

「…………だよねー」


うちのクランマスターはこのふたりにさえ意見を一致させるのかと、どこか呆れた気持ちを抱きながら……彼女の映る始めた中継画面を開いたのだった。


――――――――――――――――――

・追記


後日、ドヤっていたアガフェルは9本の尻尾がとてもよく揺れて、とってもモフモフだったと誰か言ってとか言ってなかったとか……。





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