第152話 昇星への試練・火
3rdステージのある場所の湖。
俺とファストは今、
「ようやく着いたな……うう、寒い。足の金属のつなぎ目が特に冷える……。それに『フライ』で飛ぶせいか冷気が体に染みる気がする」
「きゅうー」
「おっと、どうした飛び込んできて。……おお、ファスト抱っこしてる温かいな、もふもふで」
「きゅ~」
―― 3rdステージには広大ダンジョン『ノースライン』が行く先阻むを北側を除き、3つの属性のフィールドが広がっている。
マップ南の、山脈。
マップ西の、砂漠。
そして俺のダンジョンがある、海原。
その中の、寒い高山だけが集まる山脈エリアの奥の窪地に隠れている、綺麗に澄んだ色の湖。
そこが★3の
で、俺とファストは湖近くの高台の上で湖面を見下ろして訳だが……。
「ここに、飛び込めばいいんだよな……こんなクソ寒いとこでダイビングとか、クエストがなきゃ絶対にしたくねー」
さっきも言った通りにここは気温の低い高山地帯。そこの水もそれ相応に冷たいはずだ。
最初にこれを発見してプレイヤーも、戦闘中にモンスターに押されて転落し、偶然発見しただけらしい。
「ま、ぐちぐち言ってもやるしかないんだけどさ。ファストはそのまま捕まってろよ……!」
ファストを抱き抱えたまま、『フライ』の高度を思いっきり下げて湖に突入する。
肌をひりつかせる感触が全身を打ったのも束の間、なにもない空白の世界が広がる。
『
かと思えば、すぐに前の
「当然Yesだ」
クエストを受諾すると空白だった世界が一瞬で色づく。
地面が生まれ、空が生まれ、生き物が生まれて――
「始まるぞ、ファスト」
「きゅ!」
――世界が、業火に満ちた。
「熱っ!? 火山を引いたか、ハズレだな!」
「きゅう!!」
気づけば、何もなかった世界は火山が噴火し、マグマが至るところで川みたく流れる灼熱地獄に成り代わっていた。
そう、言葉にすれば簡単に聞こえる。だが、やはりというか決してそんなことはない。大前提として――
生まれたすべてのモンスターが、認識距離もヘイトもへったくれもなく一斉に俺たちに襲いかかってきた。
火で出来た鳥、赤熱した溶岩の人型、マグマを泳ぐ巨大な蛙……それら様々な環境に適応してるモンスターが空を飛ぶ俺を叩き落とそうと弾幕を形成する。
「くぅっ……! 溶岩、火球にどいつもこいつも攻撃が熱ちぃな、もう! 避ける間をくらい、取らせろ!」
モンスターの猛攻を避け、偶然近くよった火山が丁度良く噴火した。
火山口から噴出される飛散物が、雨あられと上空にいるこちらに迫る
「ちっ! 忙しいってのに面倒な」
堪らず高速でその場を離脱したところ、近くの地中から図ったようにガスが漏れて、俺たちの真横に火柱を立ち上らせた。
「おう!?」
改良して纏わせていた『リジェクトシールド』が発動し、火柱を弾き返して被害はゼロだったが今のは流石に肝が冷えた。
『リジェクトシールド』をちゃんと俺を重心に置いて追従するように改良してなかったら大ダメージを負っていたことだろう。
―― 変遷した世界のものはすべてが敵となる。
この臨時サーバーで生成されたものはモンスターだけでなく、攻撃的な自然現象までもが乱数が調整されて、挑戦者に襲いかかるように設定されていた。
どの環境が出るかの規則性はなく完全にランダム。
正攻法としては金と時間を掛けて幅広く環境への対策を取るか、一点に狙いを絞って望んだ組み合わせが来るまでひたすらに挑戦を続けるか。
俺の場合は金と時間はダンジョンに注ぎ込みたいし、運任せも出来る限り避けたかったので今まで後回しにしてきたのだが……。
それも『フライ』により事情が丸っきり変わった。
やっぱり空を飛べるというのは強い。
特にこのようなクエストでは地形を無視出来るというのはズルと言っても過言ではないほどだ。
「まあ、その中でも遠距離攻撃がばんばん飛んでくる火山は相性悪い方なんだけど……」
さっきのように多少の危険は『リジェクトシールド』があるから問題にならない。
モンスターの猛攻はちょっと鬱陶しいが……流石に数分ほど空中で避けていると慣れてきた。
これも飛べるメリットだな。視界が広く取れて、こっちは有利な立ち位置を常に確保できるから、その間に少しでも慣れると余裕が生まれ、その好循環が連鎖しやすい。
昔の偉い人たちがやたら高いところに陣取るのが好きなのも、今なら分かる気がする。
「なんだかんだ火山はどうにかなりそうだな。この、不死鳥モドキが、鬱陶しい以外はない」
「きゅう!」
火山のフィールドは環境ダメージであれ、モンスターの攻撃であれ基本地上からだが、例外もいる。
このような飛行タイプのモンスターは空に浮かぶ俺がそんなに気に食わないのか、八つ裂きしてやると言わんばかりに追い回してきた。
時間が経つにつれてその数はどんどん増えていってるように見える。
「そろそろ間引かないと持たないか……ファスト!」
「きゅ!」
『スターリング』の光の輪っかが無駄に大きく、足場に使えるぐらいに厚みをもたせて生成。
それを不死鳥モドキの群れに放り込み輪っかが群れを囲む形に持っていく。その輪っか上に手の中のファストも……
「ほいっ!」
「きゅ!」
……投げる!
宙に投げ出されたファストは器用に身を捻って輪っかの上に着地。そのまま輪っかの上を縦横無尽に駆け回り、飛び蹴りで不死鳥モドキを仕留めながら輪っか上に戻るを繰り返す。
杖に刻まれている『スターリング』の魔術。その初動部分の光の輪っかの生成だけを意図的に行い、形を工夫し足場にする。
ファストと一緒に空中戦をするためにふたりで練習していた戦術だ。
その甲斐もあって不死鳥モドキも数を減らし……最初のフィールド火山の時間が終わった。
「ふぅ……。後2回だな。次は何が出るやら」
俺たちがそう呟いただ瞬間、眩しいほど赤熱した世界が掻き消え……黒い影と寒気の世界が押し寄せてきたのであった。
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