第153話 昇星への試練・屍

世界の様相が変遷し、寒気が襲ってくる。

山脈の肌を刺すようなものではない、背筋を登ってくる類のそういう寒さだった。


「次は……墓地のフィールドか」

「きゅう」


辺りを見渡してみると、今度は巨大な敷地の共同墓地が舞台になったようだ。


痩せた土壌出来た地平線のどこまで行っても墓標、墓標、墓標ばっかり……。


何か違うものがあるかと見れば変わった形の墓石で、それ以外にあるものと言えば今にも折れそうな枯木と朽ちた何かの残骸のみ。


そういう今時、B級ホラー映画でも使わなそうな場所にゾンビやスケルトンなど生ける屍ども溢れかえっている。


「その殆どは飛んでると無視出来るがな」

「きゅう」


猛毒の霧に塗れていたり、呪いがつく領域が随所いたり、地面の下からぐわっと手が伸びてきたり……っと、アンデットのしぶとさも相まって本来ならかなり困難なフィールドだが。


またまたここでも『フライ』が大活躍だ。

それらすべてが届かない上空だから屁でもないって寸法よ。ふはは!


「なんて、言ってたら早速来たか」

「きゅう」


一見人のように見えるが、よく見ると半透明の身体に異常なほど青白い肌をモンスター……幽霊型のモンスターたちがこちらにふわふわと浮かんでくる。


「ゴーストは普通に飛ぶからな、っと!」


こちらまで到達したゴーストをさっと横にスライド飛行して避ける。


物理的な干渉を透過するスキルをデフォで持った幽霊型は普通の攻撃は効かない。

その上に接触したら、HPやMPを吸われるのでくっつかれると非常に厄介だ。


純物理ジョブは1回はこいつらに泣きを見るのがほぼ定番と化している。


ただし、戦闘に置いては俺とは相性がいい相手だ。


「魔法で陽光を生成して……ほい」


テンプレ如く、ここの幽霊型のモンスターたちも魔法攻撃にはめっぽう弱い。


特に光属性は天敵と言ってもいい。何故なら……。


「ちょっと日焼けする光量を浴びただけで、すーっと消えちまうから戦闘というより照明を当てる作業をしてる気分だ」

「きゅう」


光を生成し、ただ電球みたいに辺りを照らす。ただそれだけで勝手に幽霊型のモンスターは消えていく。


他の魔法だったら物理法則を無視してふらふらと、変わった挙動で幽霊型に魔法を当てるのに苦労する。少しでもダメージを負わせれば勝てるのにそれが中々出来ずにやられたりする。


だが光属性の場合、上のようにしてれば勝手に周りの幽霊どもが溶けていく。幽霊がどんな動くで、どんなに早かろうが光速からは逃げられない。


これを数分ほど続けると、周辺一帯の幽霊型は片付いた……が、他にも対空攻撃手段を持つモンスター存在する。


地上でこっちを見上げたいたデブのゾンビが大口を開く。それを視界の端に捉えた俺は慌ててから離脱した。


「うわ、汚っ! ゲロビーム吐いてきやがった、あの野郎!」


なんでゾンビ系のモンスターってゲロとかの吐瀉物を遠距離武器にするのが定番みたいになったんだろうか。


VRでも、『リジェクトシールド』越しでも気分的に最悪だからマジで勘弁して欲しい。いや、冗談抜きでほんとに……。


「もうしゃーない。ストックの1回を使うか」


このクエストを受けるに当たって俺はチャージ完了の『スターリング』を2回、ストックして来ていた。


杖に刻んだ魔法陣は『スターリング』の構成魔法なら何個でも定着させられるように最初から作っているのでストックも出来る。


出来ればもっとストックしたかったんだけど、これを維持するためのコスト……今は俺の自身のMPがカツカツだから、2回分しか溜めれなかった。


いや、魔石を使えばいいんだけど……肝心の星魔石のダンジョン需要がな……。正直、素材農場で生成しても俺が使う余りなんてほぼないのが現状だ。


「という訳なんで……さっさと更地と化せ」


保持していた『スターリング』のひとつから膨大な質量を宿した石を射出する。


檻から放たれた質量の暴威はまたも大気を押し潰してながら爆発させ、閃光を撒き散らす。


それら遍く広がる墓地にへと落ち、俺の『リジェクトシールド』が暴風やら土砂やらの余波を弾いていた頃には……。


「……本当に一瞬で更地になっちまったな。はは、クレーターまで出来てる」

「きゅ」


その1発で、目に見える敵や構造物は全部破壊されて跡形もなくなっていた。

自分で作っておいてなんだ、呆れる威力だ。


まあ、でもクランの先輩方ふたりには効きそうもないが。

アガフェルはそもそも戦闘人員じゃないから論外として……ヘンダーなんて、消滅属性で質量ことに消し去りそうだし、ヨグだってこれと同威力ぐらいは連射出来るみたいな言い方だったからな。


見せしめ目的だったとは言え、動画にも流したから攻略上位陣のクランとかはすでに対策を練っているとみるべきだ。


もし、『戯人衆ロキ』に入らず自分だけでここまで来ていたら、調子に乗って痛い目にあってかもしれない。


「っと、考え込んで間にちらほらと復活したのが出た」

「きゅ」


これがアンデット系モンスターの厄介なとこで、連中は高確率で復活系スキル持っている。

ものによって条件や性能はバラバラだが、大概は持ってると1回は復活のが普通だ。


つっても全部が全部復活したわけじゃなく、半数以上は減っている。これなら残り時間いっぱいまで粘るのはそう難しくない。

なお幽霊型は照光した時に復活・即討伐を何度かしてるのでもう蘇ることはない。


「あとはのんびりとお空を逃げ回りますか」

「きゅ」


こうして俺たちはこのフィールドの残り時間悠々と空を飛び回り……次の変遷、このクエストの最難関のフィールドに挑むこととなった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る