第154話 昇星への試練・嵐

墓地フィールドも無事に乗り切った、その後。


「これで、墓地は終わりっと。次で最後だな」

「きゅ」


墓地フィールドの規定時間が過ぎたことにより、また世界の変遷が始まる。


不気味なオーラを漂わせていた墓地がどこともなく消え、何ものも寄り付かなそうな荒れ地へと姿を変えていく。


薄暗かった空模様が、もはや真っ暗に染まり何をも見通さない漆黒の壁の如き雲の層を形成した。


それをきっかけに風が吹き初め、どんどんその強さを増していきやがては大地をも削り取る暴風と化す。


「だぁー! クソ、よりよって台風地帯……最難関フィールドかよ!」

「きゅう~!?」


土砂どころか岩すら浮き上がりそうな強風の中、『フライ』の制御を必死に握りながら悪態をつく。


どうやら、俺たちは想定してた中でも最悪のフィールドを引き当ててしまったみたいだ。


この★3の昇格ランクアップクエストには最難関と呼ばれるフィールドが何種類か存在する。


どのフィールドも通常、一筋縄ではいかないが最難関フィールドは別格だと言われている。そしてそう呼ばれるフィールドには共通する特徴がいた。それは――


「くぅーッ……地上に降りるぞ! このまま飛んでると『フライ』でMPがすっからかんになっちまう。あと強風で地味に『リジェクトシールド』が削れてのもまずい」

「きゅう!」


『フライ』で急降下し、地上に降り立つ。


「おっとと。やっぱり歩きづらいな、この脚」


歪な形になった機械の脚にバランスを崩しながらも、すぐに土属性で分厚い土のドームを形成。これで一息する付け……。


「きゅ!」

「どわ!? な、ワーム!?」


……ると思ってた矢先に頭が大きな口になってるミミズのモンスター、ワームの奇襲に遭う。直前ファストが警告してなければガブリといかれてかもしれない。


前にやったみたく土属性の魔法と通して見た地中を『映身』で投影し、『ディテクト』用に出してた『真鏡』使って地中を調べて見たらそれらしいものがそこら中でこっちに向かってきていた。正確な数はわからないが100以上は確実にいそうだ。


―― とにかく、フィールドの攻撃から逃れる場所がどこにもないこと。


「ちぃっ! 一箇所に留まってたらヤバい……仕方ねぇ!」


地面の土を操って脚を覆い、その状態で地を這うように移動する。

ある人気の海賊漫画に出た、敵のモグラ人間に攫われて引き回されてる図を想像したらイメージしやすいと思う。


魔石化で動けない時に身につけた移動法で、今のヘンテコな脚でも地上で走るより早く動けてこういう時は便利だ。


「風向きが変わっても、重心が振れないのも便利だな」

「きゅうー!」


そんな俺と並走してファストがまた警告の鳴き声。

嫌な予感した俺は進路を大きく曲げてカーブを決める。


次の瞬間、直前までの進路から眩い光が溢れた後に、ゴロゴロッ、ドッカーンという雷が落ちる音が間近で鳴った。


「あっぶねー! ありがとうファスト!」

「きゅ!」


真っ黒焦げになった落雷地点から離れながら、ファストに礼を言う。


早めに地上に降りてきて正解だった。もし今も上空に留まっていたらどうなっていたことか。


ワームだけじゃなく、落雷から逃げるためにも移動し続けないといかないようだ。


ただ、それだけだと運悪く当たったりしそうなので、あっちこっちに避雷針代わりの土の柱を立てながら、だけど。


そうして落雷とワームの避けながら粘っていると突然、水滴の線が無数に眼前へと飛び込んできた。


「大雨まで降ってきたか……ん? って、うおお、やばいやばい!?」


それと同時にどこかでパチパチっと熱した油に水を零したみたいな音するなと思って原因を探ってみると……。


「げっ! 『リジェクトシールド』がアホみたいな勢いで削れてる!?」


これまさか、雨粒に反応してるのか!


空気の流れにはフィルター掛けてたとけど、雨の方を考えてたなかった。このゲームあんまり雨とか降らないから意識から抜け落ちてたんだと思う。 


「今改良点が見付かんなくていいんだよ、チクショウ!」


これどうする、跳ね返す機構にもある程度俺のMPを使う。今すぐ解除するか?

でもそれだと奇襲に対応出来ない。

くそ、勿体ないけど光魔石とMPポーション使いまくって何とかする、今はそれしかない!


「きゅ!」

「敵!? しかも今度はスライムかよ!」


不意のアクシデントに慌てて対処に追われていると、ワームとは別の敵まで出てきた。


透明な青色をした不定形のゼリーみたいな怪物……スライムだ。体高が俺と同じ、幅がその数倍はありそうなスライムが何の前触れもなくポコポコと地中からが滲み出ていた。


普段ならそんなでもないが今スライムはまずい。


俺がそう警戒していると、ファストが俺の進路上にいるスライムに踏む込み蹴る。それはスライム身体の一部を飛び散らせたが、すぐ元に戻り何もなかったように佇む。


「無駄だファスト! あの大きさのスライムには物理攻撃は殆ど効かない」

「きゅ……」


スライムも小さなのならファストの蹴りで一撃だが、デカい……つまりは高レベルのスライムは物理耐性や再生など、強力なスキルをいくもの持っていて魔法で一気に方を付けないとのびのびと回復を続ける厄介なモンスターだ。


俺が攻撃する余裕あったら良かったんだが、今移動で使う魔法で精一杯でそれどころではない。


「こいつら、走るのに地味に邪魔だな!」

「きゅ!」


スライムは積極的に動いたりせず、基本は現れたその場に留まっているだけだが、専有面積の広いこいつらだとそれだけで進路妨害が酷い。


「ッ! 属性付きだ、大回りで旋回ー!」

「きゅー!」


あとここのスライムは偶に属性付きが湧くようだ。それも雷の。この雷属性付きのスライムは俺が近場を通ると、落雷を引き寄せて攻撃を仕掛けてくる。


『リジェクトシールド』を無理に維持してなかったらとっくの前に感電して動きが止まり、ワームの群れにフルボッコにされていたことだろう。


地中にワーム、地上にスライム、空に暴風と雷。


「噂に違わぬ、クソっぷりだな最難関フィールド!」


さて、ここをどう攻略すればいいのか。


俺は全力で最難関フィールドの脅威から逃れながら暫く思考を重ねていった。

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