第101話 星獣討伐戦ー5
ナテービル―― 胴体
「初仕事だ、
「――……!」
俺は杖をその外殻に当てて、魔法を練り直す。
すると予想してた通りに、俺の『魔法・星界』を使う時と同質の魔力が
「ぐっ、やっぱり……!?」
だがその瞬間、魔力の一部が跳ね返る感覚とともに杖を握る指先が少し、こいつの外殻と同じ材質に石化する。
「こうなりそうだから、使いたくなかったんだけどなぁ!」
こいつを魔法の触媒にするのはやはり攻撃と判定されるらしい。まぁそれはそうだ。触媒ってのは本来使ったら消費される、つまり消される。その行為が使われる側として攻撃以外に何だというのか。
そしてあの反射能力も健在となれば……当然こうなる。
「俺が完全に石化するが先か、このデカブツを出し抜くのが先か……その賭けだな。ははっ、でもこっちの方がシンプルでいいや!」
イチかバチか、どうなるか分からない、でも勝敗だけははっきりとした賭け。
あんまり良くないのは自覚しているが……どうも俺にはこういうのが性に合うみたいだ。
さっきまでは押されてばかりだって加護の奪い合いが、それでやっと拮抗するようになる。
でもまだだ。まだ出力が足りない。
「もっと力を振り絞れ、
「――ッ!!」
そういうと、
はっ、思った通りか。見ていて分かったんだが、やっぱこいつの中にはまだサルタ・ガルノルだった時の感情が残っている。
怒り、憎悪、怨嗟……様々な負の感情が渦巻、それをスキルが(字面的に多分『永狂』が)悪さをして複雑に絡ませている。
状態からして人としての自我が残っているかは怪しいが……感情や衝動などはそのままな印象がある。
だったらそれをも利用し尽くす。
俺への怒りで感情を統一させ、そのための魔力をもっともっと練らせて、それすら使い潰す。
石化がさらに加速するがそんなことは構わない。
そんな余計なことに気を回す暇があるなら一滴でも多く、あの空に、星に……。
「届けぇ――――ッ!!」
ナテービルに乗じて魔法を、魔力を星に届かせ。
そこでナテービルの力と押しに押して、押し合い続きていた拮抗が……ついに崩れた。
「ッ! ここォ!!」
やっと掴んだそれを鷲掴むように、空から引きずり出すように堕とす。
それにより、空からカーテンが降りたように眩い光が辺りを包み込み、ついに――
『加護:親海の権限を星獣ナテービルから強奪しました』
『加護の使用先を指定してください』
「っしゃーッ! やってやったぞ、こんちくしょうッ!!」
もう腕から始まり、下半身に波及し身体の半分以上がカラフルな色に石化したが、そんなことは今はどうでもいい。
「フォル、ファスト! 今から加護を掛ける、驚くなよ!」
加護の使用先にふたりを指定。指定は魔法と同じ要領のようでイメージだけで簡単に出来た。
空からの光のカーテンがふたりを包み込む。エフェクトはそれだけだったが、変化は劇的だった。
「これは、身体が軽い……ほ、本当に加護が!」
「きゅう!」
フォルの動きが明らかに良くなっている。元から凄まじい戦いぶりだったが、今や足を踏み込めば海が弾け、槍を振るえば波が開かれるほどだ。
ファストもどうなっているのか、海に足を取られることもなく、まるでそういう魚にでもなったように海上を縦横無尽に跳ね回っている。
逆に俺が加護の制御を奪ったせいだろ、胴体・尻尾側の模様は完全に沈黙し、あちらの動きは目に見えて鈍って来ている。
これにより戦局はひっくり返る、一気にこちらの有利に傾いた、が……。
「うおお、めっちゃMP減ってる! 手が離せねー!」
どうも加護の制御には常時、大量のMPが消費されるみたいだ。
もの凄い勢いで削れていくMPバーを見ながらポーションを連打する作業を続けながら考える。
有利にはなったが、これだとまだ不安が残る。ここは確実にやるか。
『こちらプレジャ、全員聞こえてるか?』
情報共有のため、開くだけしていたクランのボイスチャットに向けて『
それぞれ返事を聞いてから、手短に用件を伝える。
『今から尻尾側の胴体を総攻撃して一気に落として欲しい、理由を話す暇はないが……そうするとかなり楽になるはずだから』
『ふーん……ま、後輩くんの声を聞く感じ本当に切羽詰まってるみたいだし私はいいよ。ふたりは?』
『いいぜ、そのシチュでも試してぇもんがあったんだ。乗ってやる』
『さっき見た光が関係あるのでしょう。あれを見てからこちらのこ……兵士の皆様方も士気が上がったようですし、いいですわ』
いきなりの提案だったが以外と話はスムーズに進み、まず最初に動きを見せたのは一番余裕を保っていたヘンダー。
頭部があった場所からこちらまで一瞬で引き、その間に消滅属性の魔法を溜めていた。
次に動いたのはヨグ。大口径の主砲で取り巻きを蹴散らし、ホバリングしたままこっちにすっ飛んでくる。
かと思えば、武装の照準をすべて胴体・尻尾側に集約させ、各部を発光、発煙させながらために入っていた。
『こっちはいつでもOKだよ!』
『おう、こっちもいつでもいけるぜ!』
『こちらも準備滞りありません。お二方に続いてこちらも動てもらいますわ』
『よし、なら今からちょっと変わったバフを飛ばす。それを合図に畳み掛けてくれ!』
『『了解!』』
光のカーテンを降ろし、他のメンバーや後ろに待機してるという魚人族の兵士たちに加護を授ける。
メンバーたちの驚く声と兵士たち雄叫びが海を鳴らすのが聞こえる。
「
「
ヘンダーの魔法が放つ今まで見た中で最大規模の極彩色の光と、ヨグの全身の武装から無数に溢れるマズルフラッシュとレーザーの赤光がナテービルに突き刺さりその身を削り飛ばす。
「我らも続くぞ!」
「きゅう!」
それに続いてこちらのふたりも打って出た。
フォルがより速くなった海での踏み込み活かし、三叉槍をナテービルの身体に引っ掛け広域を駆け巡って引き裂く。引き裂く場所が途切れても波に乗って引き返し何度も何度も。
ファストも今まで温存していた短期間・高効果バフの薬を自分に掛け、敢えて鱗が剣山になっている背に乗る。そして森を駆け抜けるようにその剣山を掻い潜り、走るに任せてナテービルという足場を砕く。
「第1部隊、前へ! 突撃、ですわよ!」
「ティアに栄光あれ! 星に祝福あれ!」
「アガフェル殿に我が勇姿を見せよ!」
「「うおおおおおぉーッ!」」
さらに続くようにさっきまでヘトヘトだったはずの魚人族の兵士たちが故郷と星(何でかアガフェルも)讃えながらナテービルに突撃していった。
それでもガムシャラになってる訳ではなく、アガフェルの号令に合わせ驚くべき統制の下に数多な兵士たちが果敢に、それでいて一糸の乱れなくナテービルを攻めたてる。
動きそのものも最初見た時とはまるで別物だ。アガフェルのバフと俺が届けた加護のお陰もあるだろうが、それ以前に気迫がさっきとは段違いなのだ。
アガフェルがこの短い間にいったい何をやったのやら……俺は恐ろしくて聞けそうもない。
そうやって胴体・尻尾側に大火力が集中していき、やがて……。
「―― よし、HP全損! 尻尾側の胴体部位、撃破だ!」
絶え間ない猛攻により、ナテービルの増大なHPバーがついに底をつきひとつの部位が沈む。見た目にもはっきり変化が現れていて、体色が明らかに淀み模様の光も途切れていた。
それを機に加護を引っ張っていたナテービル側の力が消失し、制御がかなり楽になる。これでもう
「もう首の下は全部石化してるか……」
状態異常の表示を見ると魔石化:星属性となっている。
魔石なのは予想通りだが……星属性か。土でも光でもなさそうとは思ったが、まさか星とはな。
色々考察したいとこではあるが、今はこの状況をどうするかだ。
「後輩くん、随分と派手にお色直ししたね。それに、ぷふ。そのポーズも素敵だよ」
「冗談きついぞ、こっちはこれでも深刻なんだからな!?」
「がはは! こまけえ事情は分かんでねーが……見た感じかなり無茶したみてーだな新入り」
と、そこで近くまで来ていたヘンダーとヨグに見つかった。
今の俺は空に魔法を送るイメージを補強するため天に向かって腕を突き出すような大勢で石化しているので、人に見られるのはかなり恥ずかしい。
ほら、ヘンダーとか吹き出してるし、ヨグも顔には出てないが絶対に面白がってる……こんちくしょうぅ。
「あはは、お喋りはこの辺にして……戦える後輩くん」
「固定砲台になるだけなら、何とか!」
「がーはははっ! 良い返事だ新入り! よし、特別だ。俺に乗せてやる付いて来い」
「え、乗せるって……うわ!?」
ヨグがまたガチャンガチャンと変形したと思えば、フォークリフトみたいなもので石化した俺を持ち上げ金属の拘束具でガッチリと固定。
そのまま今までのように俺を積んだまま空に浮き上ったかと思うとナテービルに再び銃撃を浴びせる。
まさか俺の人生初の飛行がサイボーグに拉致られてになるとは……今日まで思いもしなかったよ。
「いくぜ、新入り! これであのデカブツを海の藻屑してやろうぜ!」
「……はは。ああ、やってやるよ! さっきからストレスも溜まりっ放しだからな、こいつに全部ぶつけてやる!」
俺も魔法を練り上げながらそう大きく、自分を鼓舞するように答える。
こういうのもありえないことこそゲームの醍醐味だ。ならどこんとまで楽しむのみ!
―― それから加護の力を失い、動きが格段に悪くなったナテービルは押される一方となり……そう経たないうちにすべての部位を潰され討伐されることとなったのだった。
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