第2部 新域開拓

第4層 新階編

第75話 プロローグ 新たな地へ 

―― あの怒涛の攻略レースが終わって暫くしてのこと。


照り付く太陽、聞こえる波の音。

吹き抜ける肌に張り付く潮風。


「うっわー広!」

「きゅう」

「あははは、そうでしょうそうでしょう! 3rdステージの海原エリアは」


そう、俺たちは今海に来ていた。


「うん凄い、けど……ここを探索するん、だよな」

「うん、そうなるね」

「それにしても本当にあるのかな。海の『土地の権利書』なんて」


さて、俺がなんでこんなとこまで来て『土地の権利書』を探す羽目になったのか……それは時間をちょっと遡ってのある日のことだ……。




◇ ◆ ◇




「さて、レースの事後処理も大体終わったし。そろそろ本格的に強化計画を練るとするか」

「きゅ」

「ぷきゅ」


全プレイヤーに向けて仕掛けたダンジョンでの大決戦は俺の勝利で幕を閉じた。

それにより参加した数千に届き得るプレイヤーたちのゲーム内財産の半分を手に入れることが出来た。

ただ、その戦利品のデータは膨大でダンジョンを封鎖してからの数日を丸々これらの把握と整理に費やさざるを得なかったのは辛かった。なにが悲しくてゲームで業務作業じみたことをせねばならないのか。

と、文句を言っても必要なことには変わらないからしっかりやったけども。


「ひたすらリザルト画面を眺める時間は苦痛でしかなかったが……ついに今日でそれも終わった。あとはこれからのことだ。まずはダンジョンの拡張計画からだが……」


現在の俺のダンジョンは総10階層の、階層毎の広さも加味すればギリで中程度の規模の大きさのダンジョンだ。

未だに全容が明らかになっていない『ノースライン』は除くとして、他のダンジョンは大き方は3、40層ほどで小さい方は下限で5階層ぐらい。そしてこの基準はゲームの全体進行度がリリース日から考えるとまだ序盤だということを考えると、まだ伸びると思われる。

それで何がに言いたいかというと……。


「まだ、うちのダンジョンは……狭い! でも広げるスペースがもうねぇ!」

「きゅ?」

「ぷきゅう?」


そう、ここのマップ、その下方向の高度限界にすでにぶち当たっているのである。

ゲームと言うのは大抵高度限界がある。サーバーの負荷軽減だったり、ズル防止だったりと理由は様々だがどっかのラノベ小説みたく無限仮想世界なんてのは未だ空想の代物だ。


で、ここの森が元から序盤のエリアであることも相まってか下方向が意外と狭がった。確かに6階層からはめちゃくちゃ広めにスペースを取る構造していたが、まさかもう高度限界に達するとは。まぁ6階層とか高さの演出のためキロ単位で高さをとってたから無理もない。


「まぁそのための今回の得た莫大な資金だ。結局はこれで何をどうするかなんだよな……」


あの日、ダンジョンの未来について色々と思いを馳せはしたがそれらも未だに空想に過ぎない。

今日まで実現するための方法を攻略サイトや掲示板などで探っているもののどれもピンとくるものがない。


「ここが洞窟コンプセットである以上、上方向に伸ばすのも……なんか違うしな。それに出来れば新しい属性のフィールドが欲しい」


でもそうなると新しい『土地の権利書』がいるわけで……いくら探しても俺の要望を満たせそうなものが見つからない。


「攻略レースが発破になったせいでプレイヤーチームのダンジョンも活発化したのも痛かったな。あれのせいで良さげな土地がほとんど差し押さえれたから」


どうも例の攻略レースの様子が多方面で流れた影響で今まで意見の違いで喧嘩してた連中が「あんなインチキに負けてられねー!」って一致団結したのがきっかけだったらしい。

インチキとは言い掛かりも甚だしい。こっちが頭捻って必死に考えた結果だぞ、それで文句言われる筋合いはない。実際に規約にも背いてないのでNO問題だ。


「それはいいとして……どっから土地を見つけるかな~」

「きゅう!」

「遠くまで行こうって? でも俺らだけじゃな3rdステージは…………仕方ない。早速で悪いけど呼んでみるか」


慣れないクラン関連の項目を開き、目的の人物がログインしたのを確認してからボイスチャットを繋ぐ。


『ヘンダーさん、今時間いいですか?』

『お、後輩くん。何々! 最近忙しいからって全然連絡取れなかったのに』

『あはは、それはすいません。こっちも立て込んでたもので……。それよりですね……』


相変わらず元気な彼女の声を聞きながら本題に入る。

ようやく諸々の事後処理が終わったこと。

これから本腰を入れてダンジョンを拡張していくこと。

でもそのための取っ掛かりなくて困っていたこと。


それらを全部が聞き終えたヘンダーさんは暫く唸ってかと思うとこう言い出した。


『土地の話なら一応心当たりがないこともないよ』

『え、本当ですか?』

『でもあそこ、はっきり言って君とは相性最悪だから。あんまオススメは出来ないかな~』

『あなたがそこまでいうって、どんな場所なんですか……』

『口で説明するのめんど……じゃなくて見てもらった方が早いから時間空いた時に直接来なよ。案内するから!』

『ね、今めんど言いませんでした?』

『ともかくそういうことだから、メールで待ち合わせ場所と時間送ってきて! じゃね!』


あ、切った。

ほんと攻めるのも逃げるのも早いな、この人は……。


「自分で連絡しといてなんだが……あの人が絡むとなんかまたひと波乱ありそうな気がしてならないんだよな」

「きゅう?」

「そうだな……ここで気を揉んでもしゃーないか。ファスト、久々の遠出になりそうだ。楽しみしてろよ」

「きゅきゅう!」


久方ぶりの冒険に嬉しいそうな鳴き声を上げるファストをモフりながら俺はこれから始まることの展望に胸を躍らせるのであった。





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