第76話 消滅属性
俺はダンジョンを離れ、遠くの場所……2ndステージの端にまで来ていた。
待ち合わせ場所にされていたのはそこにいる廃墟のようなエリアで主にアンデット系のモンスターが出没するそうだ。
物理攻撃への耐性が高く、見た目もあまり宜しくないアンデットが居る故、プレイヤーたちからは忌避される場所だが今回のような密会には向いている。
《イデアールタレント》内では今やどちらも有名人(悪い意味で)であるため外で合うだけでもこんな気を回さないといけないのは辛いところだ。
「やあ後輩くん。数日ぶりだね!」
「ヘンダーさんも数日ぶりですね」
「さてそれじゃ早速出発……と、行きたいところだけど。まずはそれ」
と、言いながら俺の口に指を添えるヘンダーさん。前と変わらずの暗黒騎士スタイルだからそれだけで威圧感が半端ないのでやめて欲しい。
なんのことか分からず首を傾げていると仕方ないなって感じで肩をすくめて。
「敬語やめる。同じクランのメンバーなんだからそんな畏まるとやり辛いでしょう」
「いやでも……多分ヘンダーさん俺より年上、ですよね」
ちょっと口籠りながらそう聞く。だって俺的には、こう年上のそれも女性相手にタメ語ってのはどうもな……慣れないというか気まずいというか。お母さん以外の女の人とまともに話したことも殆どなかったから余計にそう感じる。
そんな俺の様子をひと通り見てからヘンダーさんは腕を組み困ったなって雰囲気を全面にだして続ける。
「そだね。これでも一応社会人だから。でもこれゲームなんだし……いざという時に君が敬語だと格好つかないでしょ。なにせ、この私の後を継いでダンジョンマスターやるんだからさ」
「それは……」
今日まで意識したことはなかったが……確かにこの状況はそうとも言えるか。
俺自身ただの後追いってだけで、別にこの人にから手解きを受けたとかはない。
でも今現在はその彼女の協力の元にうちのダンジョンの先を築こうとしている。それで弟子とかになったわけでもないのだが……やり方というか志? みたいなのを言っているのなら。まぁ後を継いでいると言えなくもない、かな?
「仮にも『魔王』なんて呼ばれた私の後継が、もし人前に出た時誰かにペコペコしてる絵面、考えてみてよ」
「ああ……うん。はは、確かに格好悪いな、それは」
「うむ、これからもその感じよろしく。さん付けももういいからね」
「了解、ヘンダー」
まぁそういうことになり、これからは敬語は無しということになった。
それで話も纏まったことだしいい加減出発しようと周辺警戒していたファストを呼び戻す。
「ファスト、もう行くぞ~」
「きゅう」
「あら、この前のうさちゃんね。君もよろしくね!」
「……(ぷい)」
「え、なんで!?」
で、ヘンダーが速攻でそっぽを向かれていた。
「そりゃ出合い頭に自分を消し飛ばした相手だからな。そうもなるだろ」
「そんなー……あのふっさふさに膨らんだ胸元をモフりたかったのに!」
その気持ちは凄く分ける。
俺もたまにモフるけどサラサラ、スベスベしてて……あれはいいものだ。
まぁ俺か眷属仲間ぐらいしか触らせないけどね、あの子。従魔の子が不用心に触ろうとして蹴っ飛ばされるのを見たことがあるし。
ちなみにだが……暇が多かった眷属たちの最近の待機スタイルはクイーンの上にファストが乗り、そのファストの胸の下にペストが挟まってる形だ。顔だけひょこりと出してあそこに挟まってるがぬくぬくしてて気持ちいいようだ。ペストもあの顔で寝顔が意外と可愛いかったりするので和みポイントが異常に高い光景である。思わずスクショも撮ってしまった。
「はぁ、今は仕方ないか。それじゃ早く行くよー」
「そうだな……ファストも」
「……きゅう」
まぁそんなこんなありながらもようやく廃墟から出発となった。
辺りはまだアンデットの領域なのか、薄暗く霧がかかり枯木が不気味に生えているだけ。たまに地面に骨らしくものが見えるが……ゲーム慣れしてるならこんなエリアにそんなのがあるのは大して驚くことでもない。
そんな荒廃した大地を歩くこと暫くして、たまに出るゾンビやスケルトンらしく連中を蹴散らし(主にファストが)ながら進んでいると、ふと重要なことを聞いてないなと思い出した。
「そう言えば聞いてなかったんだけど、目的地はどこだ」
「そりゃここまで来て行く場所ってあの先以外にあるの?」
「あー、うん……何となくそうなんじゃないかと思ってた」
さも当然のようにいう彼女が指し示した方向はワールドマップ中心からの外側……3rdステージの方向であった。
いやまぁ、待ち合わせ場所が2ndの端だったから予想はしてた、うん。
「ってことは今からボス戦?」
前に言ってことがあるがステージの境目にはステージボスという守護者がある。こいつらは円になっているステージの境目のどこを通っても現れ、境目を超えるにはそいつらを倒さないといけない。
流石に2ndと3rdステージの間のボスは前見たく従魔レイド組んでも俺だとまだ厳しいので今まで見送っていたのだが……。
「ああ、それは気にしないでいいよ。だって……」
ヘンダーが言い終わる前に突如として周りの空気が変わる。響いていた雑音が消え、わずかに感じていたモンスターのざわめく気配も消え失せる。この感じは覚えがある。
「もう境目のボスエリアに入ってたのか!? でも合うにはキーアイテムが必要で、ないと追い返されるはず……って、まさかヘンダー、持ってるのか!」
「正解! 後輩くんには花丸を上げよう」
「きゅう!」
「きゃう!? 今蹴られた! ねぇ、後輩くんファストちゃんの私への当たりが強いよ~」
あんたがイラッとくる言い方するからでしょうに……だから今は諦めろ、あとおっさんの巨体で情けない声すんな。
そんなちょっと泣きそうな声になっているヘンダーは無視して近づいて来る強大な存在感に身をすくませて俺とファストが警戒していると、そいつは気負いもなくその姿を表した。
くすんだ金と宝飾の王冠をかぶった骸骨の魔法使い。ローブも所々穴が空いて傷んでいるが如何にも高級そうな意匠が施されていてこのモノが高位の存在であることと共に禍々しいさを演出している。
「
こいつが結構面倒なボスで強力な数々魔法を操るだけなく、配下を無尽蔵に召喚出来、それを倒せば倒すほど強化されたり必殺技を放ったりする。
だからって配下も無視出来るほど弱くもなく、増え続ける配下を殺さず抑える役とリッチキングを短期撃破する役が求められるレイドクラスのステージボスだ。
……なのだが。ヘンダーまるで気にすることなく。リッチキングなどないかのように進み出ると。
「
―― 一撃で消し飛ばしてしまった。あの、リッチキングを。
配下もギミックもなんも使う暇もなく一瞬で。
「私からしたら雑魚だからね、こいつ」
「いやいや、前から思ってたけど何その技!? ボスが一撃ってどういうこと!」
「ああ、これね。これは消滅属性って言ってね……」
―― 消滅属性。
ヘンダー曰く魔法使い系ジョブのひとつの到達点。
4大属性……火、水、風、土の属性魔力を一定以上量、寸分違わず均等に融合すればこの消滅属性というものが誕生するようだ。
消滅属性はその名の示す通り、触れたあらゆるモノを問答無用で消滅させる。プレイヤーだとこれが急所に当たればほぼ即死確定だ。
「でも扱い辛いんだよね~、これ。分量を少しでもミスるとその場で魔法が爆発したりするから。今みたいに先に溜めておいて初手でドカンぐらいしか有用な使い道がないんだ」
「それだけで相手が即死する可能性があるなら十分チートだと思うんだが……」
「にゃはは、案外そうでもないよ。知ってる人……特にこの技術を盗ませてもらったメキラあたりにはすぐバレてカウンター飛ぶんじゃないかな。仕組みが分かると感知系を混ぜることで予兆を簡単に察知出来るし、大技で隙き大きいしね」
なるほど。そう言えばあの時もそんな感じだったな。この技を使ったのは最初の奇襲と最後の初手でのみ。溜めがあるぐらいに思っていたがそんなカラクリがあったのか。確かにこんなの咄嗟に使える代物ではない。
しれっと行ったメキラから技盗んだ発言はスルーで。元からそういう人だったからな、うん。特に言うこともない。
「そんなことより見て、あっち。ボスを倒したからエリアが切り替ってる!」
「お、おおー! これは……!」
「ようこそこのゲームの最前線がひとつ3rdステージへ!」
こうして俺たちは3rdステージの見渡す限り海原が広がる海岸へと足を踏み入れていった。
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