第125話 13階層ー2
それから暫く時に経った後。ストスとマシュロふたりはダンジョンの中を逃げ回っていた。
「ちょ、これズルくない!? こっちは壁で攻撃出来ないのにあっちらだけ出来るって」
「しかも常にちくちく攻撃されているせいで転移アイテムも使えません!」
「もう、障害物も無いってのに!」
透明な壁越しに光を透過させ、虫眼鏡着火の要領で攻撃してくる甲冑魚っぽいモンスターたちから逃げ惑うしかないふたり。
反撃しようにもダンジョンのガラスみたいな壁は見た目に反して破壊不能。
敵と同じく攻撃しようにもマシュロの今の腕ではモンスターたちと同じ真似は出来ない。
海中ど真ん中で浮いたこのダンジョンでは遮蔽物もない。
おまけにそのせいで逃げながらどんどん敵が集まって通った道はトレイン状態。
……と、どん詰まりもいいとこだ。
こうなる前に近くの段階で上に逃げれたらよかったのだが……。
その最初、広範囲のモンスターと敵対したことを気付き上の階層に逃げれようとし……そこをいつの間にか回り込んでいた透明化能力を持つモンスターに阻まれて、もう逃げるしか選択肢が無くなったからこの状況なのである。
「そもそも、何であのハゲ魚……水の中で、あんなに集光出来るのよ! おかしいでしょ!」
「多分ですが、あっちの属性が水と光だからでは、ないですか!」
「どういうこと!?」
相手は恐らく水棲モンスターに光魔石を使って進化させたモンスターかキメラが多数混ざっている。
そうなると彼らもまた、光と水の両属性の適正を持つわけで……。
『陽火団』のクラリスが水の光の反射率を操作出来たように、あちらも水の光の透過率を操作したのではないか。
……という推測を走りながら簡潔に述べるストス。
「なるほど、ね! 要はクラリスさん見て、盗んだ、わけね……! あいつがやりそうなことだわ」
それに対し、息を絶え絶えに並走しながら悪態をつくマシュロ。
止まっているとまたさっきの集光攻撃を受けてしまうので仕方がない。
ちなみに実際の肉体は疲れないVRで息が上がるのは、安全性のため適度に脳が疲労を錯覚をするようにリアルとのズレを調整しているからだ。
昔はこの調整が甘くて色々と悲惨な事故があったらしいが……そこは割愛する。
疲れを感じるアバターの身体にムチを打ち、ふたりは走り続ける。
「これ……どこに逃げればいいの! ああ、もうそうじゃなくても……水の中じゃ動きづらいってのに!」
「それより、まず……モンスターの目を、誤魔化さないと!」
「なら前に使ってた、遮光魔法はどう?」
「それだとこっちの視覚も……潰れ、ますよ! いや、それ以前に息も……」
「ああ、そういえば。ここじゃ光が、空気代わり……何だったわ」
襲ってきてるのは別に遠くで照射してくる個体ばかりではない。
この階層には色んなキメラや進化検証のモンスターが放たれており、そのモンスターたちは今も様々方向でふたりに迫っている。
この状況で感知スキルもないのに視界を潰してしまえばそいつらに奇襲してくださいと言ってるようなものだ。
自分の手札を確認しながら、これはもう駄目かもとストスがここで莫大なデスペナを覚悟してたその時……。
「なら、なら…………あ、思い付いた!」
……何だかんだ、こういう切羽詰まった時こそ諦めが悪く能力を発揮するのがマシュロというプレイヤーだった。
「ストス! あんた一時的でいいからモンスターの視線を閉ざせる」
「い、一瞬だけなら何とか!」
マシュロに何か考えがあることを察してストスはまた武器を入れ替え、今度はメイスを取り出す。
「目瞑っててください! せーのっ!」
ストスはそのメイスの柄にある窪みに光魔石をセットし、マシュロに一言掛けてから思いっ切り床に叩きつける。
それをトリガーに瞼越しでも目をぴくつかせる閃光が溢れ、透明な壁越し辺り一帯を包み込む。1秒も満たない時間だったが、目を開けてモンスターはその光量に視界を焼かれのたうち回る。
「よくやったわストス、今度は私の番ね!」
マシュロが杖を掲げ、光魔石を触媒に砕きながら魔法を発動する。
彼女を中心に風が生まれ、やがてそれは気泡となってふたりを取り巻く。
だが、その気泡の中は普通のそれと異なり、まるですりガラスのように曇っていた。
「こ、これは?」
「光の散乱度合いを増した気泡を渦巻かせてやったわ! これならモンスターがいるかどうかぐらいは見えるし、あの鬱陶しい集光攻撃も弾ける!」
この土壇場で魔法の別の使い道を思いつき、それをすぐに実行に移すという大胆過ぎる行動にストスは驚愕した。
発想力もそうだが、これを思いついて一瞬で使いこなしたことも彼女のセンスの高さを物語っている。
普段はどこか抜けていながら、いざと言う時にその真価を発揮する底知れない才覚を持つプレイヤー、とストスは彼女のことを再認識した。
「あとはこれと似た泡の塊をもっと作って……そーれ!」
自分たちを包むのと同じく形の気泡を幾つも作り、あっちこっとに散らす。
「これで囮も完璧ね! さっすが私! このまま逃げるわよ!」
「は、はい!」
自信満々なマシュロの声に、これで希望が見えて来たのだと遅れて認識したストスがどもりながらも返事を返す。
「引き返すのは……ダメそうね」
来た方向……12階層への階段の方を見てそう呟く。そこにはふたりの後を追ってきたモンスターがトレイン状態で溜まっており、引き返すには数百はあるそれを突破せねばならない。それはいくら何でも無謀が過ぎる。
「なら、このまま……」
「……ええ。先に進むのみね!」
こうしてふたりは活路を求めてもっとダンジョンのさらなる深みに……14階層への階段の道に身を投じるのだった。
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