第124話 13階層ー1

ここから暫く3人称視点です

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ダンジョンの壁により、薄ぼんやりした光が散乱している海の中。

その輝きが神秘的な雰囲気を演出するそこには今……ふたりの少年少女の緊迫した叫び声が響いていた。


「うわあああぁ~!?」

「きゃあああ~!?」


2つの影……マシュロとストスが重さの無くなった身体に振り回され、複雑に絡み合った12階層を飛び交う。


重さが無く、重力場が故か常に僅かに水の流れがあるこのダンジョン内では、ジョブ的に大した運動神経も腕力もないふたりが途中で止まろうにも出来ない。


壁にぶつかり、ウニに刺さり、フグに爆発され(主にマシュロが)ながら光の道を流されていく間に結局は魔法の効果が切れてようたくふたりのピンボール状態が止まった。


「うあー……目が回る~。あと全身がズキズキ痛む気がするー……」

「うっぷぅ……気持ち悪いですぅ」


さっきの状態が余程キツかったのか、暫くの間ふたりしてその場でぐったりと倒れ込む。

少し落ち着いた頃、やっと自分たちの状況を振り返る余裕が出来たらしく、周囲をきょろきょろと見渡す。


「ここ、どこ……?」

「今、マップ確認してみます…………え?」

「? どうしたのストス」


マップを確認したストスの顔が驚きに染まった。

それに気付いてマシュロが首を傾げて尋ねると、ストスはちょっと声を震えさせながら答えた。


「ここ、多分ですが……僕たちが目指してた13階層への階段前です」

「え? ここが!?」


そう言われてマシュロはもう一度、周囲を注意深く見渡す。

すると少し離れた壁の向こう。透けて見えるその先に薄っすらとだが今まで探していた階段の入口にここから繋がっているのが確認出来た。


「……とにかく、階段前まで行ってみましょう」

「は、はい」


逸る気持ちを抑え、周りを警戒しながら階段に近付く。

幸いその途中は何もなく、呆気なく彼らは階段の前に着いた。


「ど、どうしましょ?」

「そんなの決まってるじゃない! 行くわよ13階層!」

「ええ!? あのカベウラさんを待たなくて、いいんですか?」

「あいつになら私が適当メール送って説明しとくから。さあ行こう、すぐ行こう!」

「わ、わ! 待ってください~!」


いつものように後先考えず「いっちばんのり~」とか口ずさんでいるマシュロが階段を駆け下りて、ストスが慌ててそれを追う。

ストスがやっぱり戻ろうと制止しても、どうやら現在のマシュロは“やっと進行する、他の人より先駆け出来る!”という気持ちでいっぱいらしく聞こえてすらいない。


そうしてる間に階段は終わり、13階層の光景が目に入る。

初めて受けた感想はふたりとも他の階層よりも広いというものだった。


実際に通路幅のひとつひとつが以前までの何倍はあり、ちらほらとモンスターが彷徨っているのが覗える。

その中の一群がマシュロたちに気付き接近をしてくる。


「早速来たわね!」

「ああもう……。僕がカベウラさんの代わりに前に出ます! マシュロは後ろに下がって」

「了解!」


頭が岩のようなものに覆われた巨大魚がふたりに襲いかからんと身体ごと迫る。

それをストスが小さい爆発で牽制しながらヘイトを稼ぎ、マシュロがその隙きに魔法を放つ、が。


「ぐっ、硬いわね!」

「まったく堪えてませんね。見た目通りの硬さです。なら」


このままでは攻撃が効かないと見てストスがインベントリから武器を変える。

取り出したのは大きな長柄のウォーハンマー。ストスの身体には不釣り合いな大鎚を担ぎ、巨大魚に駆け出す。


「マシュロさん星魔石を! あの連携を試しましょう、重くするやつです!」

「あ、この間に話してたあれね!」 


ストスが再び巨大魚に立ち向かい、マシュロが星魔石を持って集中する。

振りかぶられたウォーハンマーを巨大魚が自慢の頭部で受け止めるべく構える。

ストスはそこにお構いなく武器を振り下ろし……。


「今です!」


合図と共にマシュロの星魔石が砕け散り、振り下ろされていたハンマーが加速した。

星魔石で重力に干渉し、ウォーハンマーの重量を上げての連携技。

それにより、巨大魚の頭が粉砕され光の粒と変わる。


「大成功ね!」

「ええ!」


これはここ数日、ダンジョンで取れる光、星魔石で何が出来るか話してた中であった連携のひとつだった。

これ以外にも光線剣作れないかとか、反重力のホバー飛行が出来ないかとか色々と話題にしていたのだが、実現した物は殆どない。


よくて見た目より若干重かったり軽かったりする武器や、それっぽいだけの光を発する剣が出来たぐらい。


「最初、ふたりだけで未知の階層は不安だったんですが。意外とどうにかなりそう、ですかね?」

「そうよ、ストスもあいつも心配しす……きゃ、あっつぅ!?」

「マシュロさん!?」


戦闘が終わり、少しが気が抜けたその瞬間。マシュロが痛みに呻きながら飛び跳ねる。


「どうしたんですかいきなり!」

「知らないけど、いきなり腕が熱くなってHPがごっそり減ったの! 注意して!」

「でも近場にモンスターは居ませんよ。あるのは遠くに透けて見える分ぐら、い……あ」


マシュロの警告に周辺をつぶさに観察したストスがあることに気付く。

壁越しに見えるモンスターの視線が――


「壁越しに……」

「え、なんて」

「壁越しに攻撃して来てるんですよ! しかも周りの個体、ほぼ全部が!」


―― いつの間にかこちらを見据えていたことに。

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