第126話 13階層ー3

モンスターたちの目を誤魔化し、13階層を疾走するストスとマシュロ。


「ここ敵は多いけど、見通しはいいから迷うことないのは助かるわね!」

「そう、ですね!」


魔法の泡で壁越し攻撃と敵から発見を防いだふたりは壁に透けて見える遥か先……14階層への道を目指していた。


魔法の泡での遮断と囮のお陰でふたりに気付く敵はめっきり減った。だが、すべてがそれ騙されるわけではない。


「ぐ、またこいつら!?」


数体のウミヘビが泡を突き抜けて、マシュロに襲いかかる。


このように視界以外の感覚が鋭いモンスターが偶に感知され、的確に狙ってくるからだ。


「させません!」


それをストスが三叉槍に切り替え、矛先に絡め取るように捉え叩き潰す。


マシュロは今も2属性の魔法を維持して手が離せないので、こういった場合は基本この形で切り抜いている。


「あんたも大概器用ね……」

「あはは……。作った武器は全部自分で試してたので、慣れですよ慣れ」


このような感知能力を持つ個体はやや珍しく、戦闘能力も然程高くない傾向にあるので、このパターンにはまだ余裕を持って対応出来た。


だが、これ以外にもモンスターと遭遇せざるを得ないパターンがもうひとつあり、そちらにはややうんざりとしていた。


「あー! またローパーが道塞いでる!」

「狭い道にはほぼ必ず居ますね!」


幅が広い通路が殆どの13階層だが、細狭い道がないわけではない。

そういう場所の入口にはまるでここが定位置とばかりに触手をうねらせる岩の塊……ローパー種がモンスターがまたも道を阻んでいた。


嫌らしいことにその細い道は階段への近道であり、それをあのローパーが通せんぼいるのだ。


「マシュロさん、うっかり星属性使っちゃダメですからね」

「分かってるわよ!」


それ故にここの途中、ローパーについてもある程度の検証が済んでいた。


ふたりのこの状況を作った元凶の魔法のカウンタースキル。

どうもそれはすべての魔法に有効なのではなく、ローパーが持つ特定の属性と合致したもののみに有効なのが判明した。


このダンジョンのローパーがカウンター出来る属性は、ストスが持ちうる属性の武器で殴るという脳筋鑑定の調べより、水、光、土、星の4つまでしかバリエーションがなく、1個体ごとに必ず星含めての2属性までしか対応してないことも分かった。

という訳で……。


「そこを、退きなさい!」

「はぁっ!」


この時だけは泡の魔法を解いてふたりで爆発と暴風の猛攻を仕掛け、無理矢理でも隙間をこじ開けて駆け抜ける。


……このような、捨て身のフルアタックで対応することとなった。


「また、全方角のモンスター反応しました!」

「泡敷き直すわよ! 目潰しよろしく!」

「はい!」


というより、耐久力の高いローパー相手にモタモタと手こずっているとこんな感じでまた囲まれそうになるので、さっきの二の舞にしないためにも、こうするしかないというのが正確だ。


そうやってふたりは数々のモンスターやキメラたちを蹴散らし、ローパーを押しのけ進み……。


「あと、どれくらいで着きそうなの!」

「もう少しです、後そこの角を曲がって真っ直ぐ行けば階段のはずです! 念の為に魔法で確認を!」

「分かったわ!」


ストスの指示通り、マシュロが今度は遮光の魔法を使い黒い風を生む。それを先行させ階段周りを覆い敵を隠れていないを探るも……浮かび上がるものはなにもない。

つまり光学迷彩での待ち伏せはされていないということ。


あと、少しでゴール。


階段は例の決め事でも安全地帯として設定されており、そこに滑り込みさえすれば今度こそ脱出するなり何なり出来る。


あと少しで助かる。


そう思っていたその矢先に――。


「――~♪」


―― 不気味な歌声が、小さく波打つ。


突如、こっちにはまるで反応していなかったモンスターの一団が目の色を変えて押し寄せる。


「なに!?」

「閉じ込められた!?」


あまりの唐突な変化に対応が追い付かず、階段以外の道に数多なモンスターたちがぎゅうぎゅうに集まり、退路を絶たれる。


「よく分かんないけど、こっちがやることは変わらない! このまま階段まで突っ切るわよ!」

「は、はい!」


それが何だと、構わず階段に向かうマシュロの先に。


「――~♪」


また、小さな歌声が割り込む。

それに惹かれるように小魚……上の階にもあったイワシのモンスターがふたりの行く先に追い抜いて集い始めた。

これまた道を阻むように集まったイワシたちが所謂、ベイトボールを形成する。


「今更、こんなのが出たところで!」


マシュロは鬱陶しげ魔法を放ち、イワシたちを蹴散らそうとするが……。


魔法の風から生まれた海流がベイトボールに届く寸前、光の障壁が出現し呆気なく防がれていた。


「何あれ、バリア!?」

「光の障壁……ここの壁と同じ……!」


その光の障壁により、足が止まる。

仕方なくそのまま速攻で障壁を叩き潰し、先に進もうとするも、それも難しい。


「思ったより脆いのはいいけど……何度割ってもすぐ張り直される!」

「僕たちじゃ手数が……ッ、マシュロさん、あっち!」

「カジキも居たのね」


一緒に壁を割っていたストスがある箇所を指差し、その先には前にもイワシとセットでいつも現れていたカジキのモンスターも出没していた。

また透明化でもして奇襲して来るかと、警戒を強めた所を予想外の光景が繰り広げられる。


カジキが捕食したのだ、味方のイワシを。


「なっ!」

「味方を喰った!?」


自然界ならばある意味当たり前の行動。

だが、このゲームにおいては見たこともない行動に不安に駆られ、早く壁を排除しようと焦るも、やはりイワシの物量による壁の再展開に追いつかない。


その間も山程あるイワシを存分に食したカジキはいつの間にか、禍々しいオーラに包まれていて……捕食が途切れたその瞬間、


それがあまりの高速移動故に消えたように見えているのだとふたりが気付いた時には、もう遅すぎた。


「はやっ、防ぎ切れな……」

「ッ!」


壁が割れて消えている一瞬を狙って、反応出来ないマシュロの胸のど真ん中に飛び込んだカジキが角を突き立て――


「――ったく、逸れたらその場から離れんなって。お前は何度言えば分かるんだ」

「……あ」


――られず、カキンッ! と金属を鳴らし弾け返される。

そこにあったのは、何だかんだ言いながらもいつも前にて自分を守ってくれる頼もしい背中。


それに続て遥かに後方で何かが瞬き、光の雨が海の中に降り注ぐ。

光の雨は薄く何枚も張られた光の障壁に一瞬阻まれるも、光線故に着弾から継続される攻撃でやがて貫通し、その向こうのモンスターを瞬く間に殲滅していった。


「間に合ってよかったわ~」

「クラリス、さん」

「え、え……これどういうこと??」


……それから程なくしてモンスターは全滅し、後ろから尊敬する人が声がした。


遅れて、カベウラがクラリスさんを連れて助けに来てくれたのだと気付く。

それに対して、どうしてだとか何でとかの疑問符が浮かぶものの……。


「さっさと来い。もう夕飯時だ、いい加減街に帰ってログアウトするぞ」

「う、うん!」

「いや、誰かこの状況説明してくださいよ~!」


マシュロは細かいことは後に考えればいいと、未だに訳がわからず戸惑いの声を上げるストスも連れて……自身の相棒に手を引かれるようにしてその日は街へ帰っていったのだった。

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