第127話 解説

ダンジョン『増蝕の迷宮エクステラビリンス』の奥、ダンジョン突破者を待つ待機場の一室。


「ちっ、今度はあいつらを逃したか。あの爆発する剣とか興味あったのになー」

「きゅう」


仮想スクリーンであの魔法使い……マシュロたちと『陽火団』のクラリスのパーティーが帰還するのを見届けてから口惜しげに呟く。


あー、あの使ってたプレイヤーをもっと早く見つけていれば執盗ポイントシーフの『狙盗』で確保出来たのに勿体ない。


「仕掛けとモンスターは概ね想定通りに動いてくれたが……今回は運が悪かった」


不可視光を利用し『魔刻』で刻んだ見えない魔法陣が作り出している重力場のギミック。それと俺が作ったローパーのキメラが連携し、パーティー分断、各個撃破する。

という作戦はほぼ嵌りかけていたのだが……。


まさか、逸れた盾役の男が同時期に探索していた『陽火団』の方に流されるとは思いもしなかった。しかも会ったその場で一寸の迷いもなく状況を説明して助けを求めてたからな。あそこで少しでも躊躇していたらきっと間に合わんかっただろう。

前に戦った時も思ったことだがこの重戦士の男が地味に厄介だな。


動揺などから立ち直るのが結構早くて、割とどんな状況でも時間さえあれば対抗策を冷静に考えてくる。はっきり俺の苦手なタイプだ。

出来得ることなら相手したくないが……敵をあまり自由に選べないのがダンジョンという形の最大の欠点だからな。


「って、それは今はいいか。そんなことより少し今のダンジョンを振り返ってみるか」


1から10階層は平常運転で問題なし。

海の階層のチュートリアルたる11階層ももう特筆した事項はないとして……ダンジョン全体を見て随分と人が増えた。

希少魔石の情報と転移門の開放が知られてからは特に。まぁそのためにライブ配信したんだから増えてないと困るわけだが……。


「まさか、12階層のマップを無料配布するやつが現れるなんてな……また随分と恨まれたもんだ」


光だけでなく星という何故か他プレイヤーが持たない希少属性の魔石が取れるダンジョンの迷路階層のマップだ。しかも見たとこ、このマップはマッパー系のサードジョブ以上でしか作れない代物だ。

恐らくこれで商売していたらかなりの稼ぎになっていたはず。それを迷いなくタダで配るなんてよっぽど俺が憎いと見える。


「ま、それに関しては対策を用意してるけどね」


どれだけ入り組んだ構造をして、高度なギミックを施してもパズルは一度解かれたら正解共有されたら、ほぼ意味をなくす。それが分かっているのに対応策を練らないはずはない。


「ただ、そのためにはもうちょっと稼ぎたいがな……おっと、ローパーがまたパーティーを分断したな。またあの子達に頼むか」


12階層に配置したモンスターは総


重力場の強制移動に抵抗出来る能力を持つ、迷彩海栗、爆発河豚の星魔石の進化体が2種類。

これはもっといいモンスターを探すため、今も暇があれば行われている進化先の検証から見付けたモンスターたちだ。

『繁殖』を所持していて、海に適正のあるモンスターをとにかく片っ端から進化させてくうちに、この階層のギミックともっとも相性がいい進化先が2種も見つかったのは幸運といえよ。

この子たちの場合、特に凝ったことをする意味もないのでとにかく増やして雑に通路に機雷としてばら撒くといった運用をしている。


次に星魔石をフル活用したローパー系のオリジナルのキメラ、反星触手岩アンチアストロ


最初、こいつを作るきっかけは“星属性にメタを張れないか?”と悩んことにある。

俺はダンジョンに人を引き込むため、自分にしか生み出せないもの……星属性をばら撒いて餌とした。


星属性はかなり特殊だ。まず触接的な攻撃力を一切持たない。星属性はあくまで星に干渉を行い、その影響力……加護だとか惑星なら重力だとかを操るものだ。

火や水属性みたいに属すものを直接操って敵にぶつけたりの一般的な攻撃手段には出来ない。


あくまで星属性が魔法を掛けれる対象は“星”で人やモンスターに向けることは出来ない。それ故にある意味で弱い属性も強い属性も持たない。そもそも性質上、他属性の魔力とで影響し合うことがないのだから。


逆に言えば星属性は誰か他が持っているだけで俺の優位性が失われる。

そのままだとダンジョンに人が集まる代わりに、俺側の強みのひとつ減らす結果になっていただろう。


だからこそあのローパーだ。

星属性の魔法に反射系のスキルは効かない。

星以外は対象に直接的な影響を及ぼさないから、例えば操った重力で相手を転ばす魔法でも判定的には『魔法で結果的に足場が崩れてダメージを負っただけ』みたいのと同じになり、反射スキルが反応しないからだ。


それ故に俺が着目したのが相手の力を跳ね返すのではなく利用するカウンター系の能力。


カウンターが得意なローパーにそのローパーの素材を使い元の特性を強化したキメラにし、さらに星属性の魔石を組み込むことで方向性を決める。

こうすることでオリジナルレシピの能力を決めるAIの判定を誘導し、生まれたキメラに俺が星獣相手にした加護の乗っ取りの感覚を俺の魔法を通して学習させた末――


―― 星属性の魔法をカウンターが出来る身体と能力を持つキメラ、反星触手岩アンチアストロを完成させたのだ。


そこから更に適正のある魔石とかを追加で組み込むとかの実験を追加で行い……今の“星含む2属性までなら魔法カウンターが出来る”形に落ち着いたわけだ。


そして最後に……。


「――~♪」

「各部隊、現地到着したか。なら、今から殲滅作業に掛かれ!」


親指ぐらいのサイズしかいない小人の人魚さんが、幼さを感じさせる顔で、溌剌に海の中を泳ぎ回り、俺の耳元で歌声を発する。

それが合図となり、分断していたプレイヤーのパーティーが別々の場所で一斉にモンスターの群れから襲われる。


……繁殖鰯の5段階目の進化先がひとつ―― 小人魚リトルマーメイド


セイレーンの素材を用いることで繁殖鰯が進化可能なものの中でもかなり特殊なモンスター。


スキル構成は『産卵』『連携』『迷彩』『隠密』『伝令』『魅歌』。


体色を変える『迷彩』と感知を誤魔化す『隠密』で隠れ、『伝令』で命令を共有し合い、『連携』で同スキル持つのものとバフ掛け合い、敢えて対象を絞った『魅歌』でモンスターを支配下に置き群れを動かす。

あとは暇な時には『繁殖』が変化した、下位進化個体を生む『産卵』で繁殖鰯を増やす。


このように小人魚リトルマーメイドとは、軍団指揮に特化してるモンスターなのだ。そしてこの人魚さんたちが現在のうちのダンジョンには5体ほど存在する。


配置は『伝令』のため、俺の側付きの1体を除き、11~14階層に1体づつ入場も攻撃も出来ない小部屋に置いてある。

小人魚リトルマーメイドが直接戦闘に関わるわけではないからこそ出来る配置だな。歌声さえ届けば『魅歌』で指揮は問題ないからというのもある。


そしてこの5体には配置場所に沿って俺の側付きなどのようにそれぞれ役目を与えている。


11階層での小人魚リトルマーメイドの役割はだたの監視。ここじゃ全個体の共通命令の“窒息嵌めを狙え”以外は特にやることがないから仕方ない。


12階層ではまさに今行われている反星触手岩アンチアストロと協力しての各個撃破作戦の指揮伝達。ここじゃ敵の攻撃の届かない場所に身を隠し、配置モンスターに命令だけを下すようになっている。


で、だった今そのコンボで1パーティーを全滅させたところだ。


「よし、終わったな。小人魚リトルマーメイド部隊はそのまま撤退! 他のパーティーが嵌るまで持ち場で待機だ」


小人魚リトルマーメイドの命令で普段は重力場でじっとしてるだけのウニとフグたちが分断したプレイヤーパーティーに特攻を仕掛け、殲滅を行う。


それを満足げ見届けたあと、生き残っているその特攻部隊を再配置するように小人魚リトルマーメイドに命ずる。

この子たちはAIレベルも高いので予め作戦を打ち合わせておけば、実働時には簡単な指示だけで複雑な指揮もやってくれるから本当に助かる。

もしものため、ゆくゆくはもっと個体数を増やしたいところだ。セイレーンの討伐は面倒くさいが、この子たちにはその分だけの価値はある。


「それでも『陽火団』は逃しちまったんだよな……」


前のやられ方が余程癇に障ったのか、今回は前よりあの『陽水』が2回りぐらいデカかった気がする。連れてきたメンバーも前回より高レベルだったしな。

あれじゃ12階層ではちょっと荷が重い。


13階層の小人魚リトルマーメイドは検証や実験で失敗した個体が溢れてる……言わば“廃棄場”たるここで、僅かな本命のモンスターの指揮を担っている。


本命のモンスターとは……


あの壁越しに集光攻撃をしてた甲冑魚がモデルのキメラ集鏡魚レンズヘット

繁殖鰯のある進化先を元に実験的に『魔刻』を刻んで使い方を学習させたキメラ障壁鰯シールドフィン

隠槍魚と外見だけそっくりな、肉食魚の捕食器官をガン済みして味方を食べてバフ得るキメラ暴食魚ブルーイーター


……の総3体のこと。

全種類キメラだから、高度な作戦行動には小人魚リトルマーメイドの指揮が必須となる。


最後に14階層の小人魚リトルマーメイドは大本命、より完成度の高いモンスターの大部隊を指揮を任せている。のだが……。


「『陽火団』があそこまで攻略に本気なら、その内15階層まで突破されるか」


まだ16階層以降は準備中なので、そうなると決めた契約通り、俺が出張らないといけない。前までなら焦るところだが、今はちょっと違う。

むしろ、今はこの状況を待っていたぐらいだ。


「その時は、の試し撃ちと行こうか」


俺は職業装備ジョブウェポンの大きな杖―― その頭の周りで輪を描いて回っているモノを見ながら、興奮を抑えるようにそう呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る