第146話 前哨戦ー4
攻略は進んで17階層。
階層の構造は特に変わらず、メキラ『探知』のお陰で順調に探索を進めていた『Seeker's』だったが……それとは別にここから出現するあるモンスターによってストレスを溜めていた。
それはただ漠然と通路を歩いていた時に起こった。
「え、あ! また出たこんにゃろー! 今度こそ……」
直前まで何もなかったはずの場所に何かが浮び上がる。ヤドカリの見た目したそれは、バッキュンが腰に持つお守りを複雑な形像の口で掻っ攫うと……
「あー! 待てぇこらー!」
「ちょ、深追いは絶対にだめよ! こんなとこで逸れたら合流出来ないんだから」
……瞬時にその姿を鰻っぽい細長いものに変形し、物凄い速さでその場を離脱した。メキラの言葉に追いかけることも出来ないず、結局そのまま逃してしまう。
なお、こういうことはこれでもう3回目である。
持っている小型のアイテムを奪い、逃げるのに特化したお邪魔モンスター。
色んなゲームで度々登場し、もっともプレイヤーたちのヘイトを稼ぐこともしばしばの
「うぅーッ! あのヤドカリモドキ、ぜぇったいに、ズタズタしてやるぅ!!」
「まさか、ヤドカリが鰻っぽい感じに変身して逃げるとは。最初あれ見た時は全員でぽかんとしてたよな! あはは!」
「ん、逃げる時。ちょっと面白い……」
彼女らが苦渋を飲まされているそのモンスターの名は
このキメラが通路のあっちこっちに点々と隠れていて近くを通るものからアイテムを奪い全力で逃亡する、かなりウザったい挙動をする。
「というかキラっち、先に見付けてよ!」
「やってるわよ。でもあれが持つスキルが私とは相性が悪いの」
周りの環境に埋もれ、判定そのものを自然のそれに変える。ある意味では最高の隠密スキル。
「ただこれにも欠点はあってね。『埋没』は動くと一瞬で解けるから、動き出す瞬間に捉えられはするの」
「じゃあそれでぱぱっと、やっつけてよ」
「無茶言わないで。あのすばしっこさ見たでしょ。言っとくけどあんたらみたいな反則級の反射神経、私にはないから無理よ」
「きゃはは! 確かに。メキラ鈍臭いもんね!」
「こいつは……あんたら早すぎなだけって言ってるでしょうに!」
さっきのイラつきはどこへやら、実に楽しいそうにメキラをからかうバッキュンに、この小娘どうしてくれよかと吼えるメキラ。
「あーメキラのスキルを一時的でも俺たち3人が使えれば、一瞬で解決って訳だが……それこそ無理だしよ」
「っ! 閃いたっ!」
「お、カグシなんか思いついたのか」
「ん。メキラ、こっち来て」
そんな傍で話を聞いていたカグシが何かを思いついたのか、メキラを呼びその考えをこしょこしょと話す。
「え、それ本気で言ってる?」
「ん、とにかく……やってみる」
「はぁ……分かったわ。駄目で元々だものね」
カグシの提案を受け、メキラは『探知』に集中しながら探索を再開する。
すると、移動してそう経たないうちにまた
「しっ!」
そこでじっと傍でメキラだけを観察してカグシが動き出す。カグシの身体は反射的にメキラの意識が向いた場所に踏み込み―― 袈裟掛け一閃。
後に残るはカグシの大剣に粉砕された
「私はスキルで瞬時に分かりはするから、それを見てもっと早いカグシちゃんが反応すればいいって……理屈は分かるんだけどね」
そのワンテンポ挟んで、どうして先にスキルで分かってる本人よりも早く動けるのか。これが分からない。
やっぱり私の同僚たちは規格外だと、今日もそう思い知らされるメキラだった。
「ほう、なるほど……。それでいいのか!」
「それならあたしもイケそう! ……と言う訳で」
「え、なに。寄ってたかってこっち見て!?」
ぞろぞろメキラを中心に3人が囲みを作ったと思えば、視線が集中する。
メキラが慌て出すと、「これで俺たちで対応出来る」からとメルシアが説得しその陣形まま進むことに。
「ねえ、これ地味に恥ずかしいんだけど!?」
「まあまあ、攻略ためじゃないか」
「そそ、攻略ためだよキラっち」
「ん、ふかこーりょく」
当然その状況に羞恥心が湧いたメキラが抗議するも、実際にそれで3人が
ただ……尤もらしいことを述べならがも、若干2名の顔がニヤニヤした笑みを作ってはいたのは確かであったという。
「絶対に面白がってるでしょあなたたち! ああ、もう~……」
結局、成果が出ているだけにメキラは強引に拒否も出来ないまま……次の18階層までその奇妙な陣形が続いたのであった。
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