第147話 前哨戦ー5
―― 『
ここに降り、メキラがあの奇妙な羞恥プレイ陣形から開放されてほっとしたのも束の間。この階層の様相を確かめた『Seeker's』の面々は険しい表情を浮かべた。
「上より、さらに暗くなったわ」
「ん……遠く、見辛い」
「18階層でこれか。19階層とか完全に真っ暗なるんじゃないか?」
「えー……あんまり想像したくないよ、それ。あたしみたいなガンナーには特に相性最悪じゃん」
18階層は前の16、17階層に増して深い闇を落としていた。
まだお先も真っ暗って程ではないものの、遠くの景色が視認し辛い程には明るさが足りない。
今までは薄っすら光っていた、海中にダンジョンを構成する透明な壁も完全に闇に沈み、今や足裏の感覚以外そこにあると認識出来ないほどだ。
「これまで以上に灯りが重要になってくるな。メキラ、ランプの首飾りの残り後どれくらいだ?」
「普通なら後数時間は余裕で持つ分あるけど。ここのモンスターを考えるとね……」
「光を吸収して来たり、アイテムそのものを奪ったりするかんねー。もうほんと陰湿!」
「最悪の場合は収集した光魔石を使わないとか。これもそこそこの値で売れるから、出来ればと温存したいもんだが……さて、どうなるか」
対策アイテムの残りを確認する傍ら、メキラの申し訳無さそう声がボイスチャット越しに響く。
「ごめん、もっと『探知』を付けっぱに出来れば解決なのに……」
「そんな無理すんな、上の階層でそれやって暫くぐったりじゃないか。『探知』って魔法と同じで結構神経使うんだろ。要所要所で上手く使うだけで助かってるんだからよ」
「そうそう、前みたいに要介護状態になられてもこっちが困るんだし。休み休みやっとけばいいって!」
「ふふ……そうね。そうするわ」
という心温まる掛け合いもありながらも、アイテムの灯りを頼りに暫く慎重に道を歩いていると、どこともなく暗がりを突き破ってモンスターが現れる。
一見なんの変哲もない普通の魚に見えたが、よく見ると所々の肉が削げ落ちてそこから骨が露出し、目は不気味な赤がまだら模様に彩っていた。
「ここのモンスターは、魚のゾンビか。これはまた、厄介なチョイスなこった」
「確かに、この環境ならアンデット系は有利だものね」
「ま、それだけじゃあたしらには役者不足もいいとこだけど!」
「ん……蹴散らせば、お終い」
その通り普通のアンデットなど、彼女らの相手ではない。
ただ、それでもアンデット特有のしぶとさと豊富な復活系スキルで粘らると面倒なので、それらを無力化出来る聖属性の武器や弾に切り替えて一瞬で蹴散らしていく。
聖属性の素材はそこそこレアでこの戦法も少し勿体ないが、火属性攻撃の類は水中だとかき消されてしまうのが殆どなので使える弱点が聖属性のしかなかった。
そうやってゾンビ、骨などのアンデット魚たちを捌きつつ、先を急ぐと時々宝箱を見付ける。ただ、その中にあったものを見て『Seeker's』のもの全員が少し啞然とする羽目になった。
「どうやら、盗まれたアイテムは下の階層に運ばれて宝箱に詰めるみたいだな」
「あ、あのクソ陰キャ野郎ぉー! どこまでも煽ってきて、もうー!!」
「落ち着いて、気持ちは分かるけどとそれだと向こうの思うツボよ!」
お陰でこの光景を見てほくそ笑むはず男の顔を浮かべ、憤るバッキュンを宥めるのに暫く苦心するはめになった。
「それにしても、何とも悪意を感じる嫌な仕掛けね」
「まあ、確かに。奪ったもん見せびらかすなんて悪趣味だよな」
「ああ、そうじゃなくて。あれがあるとプレイヤー間の争いの火種になるという話よ」
「あ? どういうことだ」
争いとは常に何かが不足してる場所で行われる。
このダンジョンの深海のフィールドはやたらと物資を潰しに掛かる要素が多い。
それらの要素でこの階層まで来て物資不足に陥ったプレイヤーがあの宝物の仕組み気付くと、そのうちの誰かが必ずこう思うことだろ。
あれ、これを利用すれば自分は合法的に他人の物資をせしめれるのでは?
……と。
そしてそれが最終的に何を生むか……。
「つまり、ここではプレイヤー間でモンスタートレインじみた行為が横行すると?」
「流石に意図的なトレイン行為はゲームの規約に反するからそこまでは……でもさり気なくモンスターを押し付けたり、モンスターがいるに場所誘導したりはよく起こるようになるんじゃないかしら」
「うわー……まだ人がない時にこの階層来れてマジ良かったー。あたしそういうのほんとムリだから」
メキラの話に、この階層域に人が押し寄せる時のことを想像したのか、本当に嫌そうな顔で自分の肩を抱くバッキュン。
それからも見えないなりに探索を進め、時に戦い、時に『探索』で罠を見付け、または宝箱を見付けてを繰り返して数十分ほど。
思いの外19階層に通ずる階段はあっさりと見付かった。
「ちょっと嫌な気分にはなったけど、ここ自体はそんなムズくなかったね!」
「そうだが、油断するなよ。前回それでさっくり全滅したの覚えてるだろ?」
「分かってるって。あんな間抜けな死に方、二度もするもんですか!」
こうして拍子抜けした、そんな気分のまま『Seeker's』は18階層を抜けて19階層に駒を進める。ここで致命的な見落としがあったことにも気付かずに……。
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