第107話 魔陣士

海側のホームを改装した次の日。

俺は魔法効果の永続的維持という課題を解決するため、ティアの街中にいた。

狙うジョブ的に別にどの街でも良かったのだが、ここは外界と交流が少ない設定のお陰か賞金首の指名手配が適用されてないことと……純粋に観光がまだだったのでここにしたのだ。


「見たことないジョブギルドだけでなく、珍しい品揃えのアクセの店も目立つな。武具店とかも銛や投網がやたら並んであって地域色が出てる。お、ここら取れる水晶でホームオブジェクトも作ってあるのか。いいなー」

「きゅう!」

「おっと、そうだな。早くいかないと」


地上には無いものばかりでついつい目移りしていると、ファストから注意が飛んできた。

いかんいかん。今日はダンジョンのためのジョブを手に入れるのが目的。観光はその後でも出来るから今は我慢……あ、あれは!


「複数回使用可能な身代わりアクセだと!?」

「きゅー!」

「ご、ごめん……って、ファスト! 隣店に海鮮風味の餌アイテムもあるぞ!」

「きゅう!?」


結局、その後時間を掛けてふたりしてティアの市場を堪能した。


「ぐっ、ティア……なんて恐ろしいところ!」

「きゅきゅっ……!」


なお悔しげなのは口だけで顔は買い物に満足したホクホク顔である。ゲームでインベントリがなかったら買い物袋とかで懐もいっぱいなってたかもしれねー。


「まぁ、遊ぶのもここまでにして。いい加減真面目にギルドを探すとするか」

「きゅうー」


十分にティアを楽しんだとこで、その間に見繕っていたあるギルドに足を踏み入れる。

丸い形の看板には魔法陣のようなものが描かれていて、その上に被せて“魔陣士ギルド”と書かれてあった。


そう、今回俺が狙っているジョブはその名も魔陣士。

読んで字の如く魔法陣を描いてそこに魔石という触媒兼動力に繋げ、それを描いた場所に魔法の効果を長期間設置出来るようにするジョブのことだ。


まぁ、これでも魔法の永続的な維持という目標にはほど遠い。でも魔法陣の出来や魔石の質に寄って人無しで何日も魔法が持つから目的には沿っているし、考えてる仕掛けの設置も出来るようになる。

今はそれで十分、永続的な魔法の維持はこのジョブの将来性に期待ってことで。


「いっしゃらいませ。何か御用でしょうか?」

「魔陣士になりに来たのですが……ここであってます、よね?」

「ええ、もちろんよ。ようこそ魔陣士ギルドへ」


そこに入るまずあったのは壁一面と天井を飾る魔法陣、魔法陣……魔法陣の群れ。


誰が描いてのかしれない魔法陣が所狭しに壁のいたる所に飾ってあり、それが一部の魔法陣が効果を発揮しているのか仄かに色とりどり光を発し、ギルド内を怪しげな雰囲気に包んでいる。

受付にいるのも童話に出て来そうな魔女然とした鷲鼻のお婆さんで、このギルドの怪しげな工房感を助長していた。


「魔陣士になりたいのなら最初はこれね」


そう言いながらお婆ちゃんは数枚の紙をこっちに手渡す。

紙面を見てみるとそこには薄い線で魔法陣が描いてあり、これに沿ってれば陣を書けばいいとことが分かる。

ほらあれだ、どう言うのか忘れたけど子供の頃大抵一度はやる既にある線に沿って絵を描く教育本みたいなやつ。それと一緒だ。


「それを使ってちゃんと効果出るように魔法陣を仕上げること。それがここのギルド入門の試験みたいなものよ。出来るかい?」

「はい、問題ありません」

転職タレントクエスト《魔法陣職人のススメ》を受注しました』


魔法陣の模様も単純なものばかりでそんな難しくもなさそうだし、ささっと終わらせますか。


あ、ちなみにだが俺は未だに魔石化に掛かったままだ。

でも昨日の作業で関節部をかなり意識して魔力を抜いたので、両の肩と右腕の肘と指は動くようになっている。

お陰でやっと腕を下げて、利き手が使えるようになったが移動は相変わらず魔法頼りだ。見た目を『映身』で誤魔化せてなかったら相当奇異な目で見られていたことだろう。


ってなわけで、近くにあったすべすべに磨かれているテーブルに紙を置き、そこにあった特殊な筆記具で早速線を引きて数分で魔法陣を完成させる。

それを受付のお婆さんに提出した……のだけど。


「はいダメね。やり直し」

「え?!」


まさかのダメ出し。

ど、どこが間違えてるんだ。一応線がはみ出でてないかはちゃんと確認してたはず……。

自分でも描いた魔法陣を改めて再確認して見るもどこも問題は無いように見える。


あれー? 攻略サイトにはあのお描きの線が深刻にはみ出無ければ失敗はないと書いてあったんだけど……どこで引っ掛かったんだいったい。


それでもと集中して探ってみたが結局どこが問題なのか分からずに素直に質問してみることにした。


「お婆さん、これのどこがダメなんですか!」

「どこがというと……そうね。全部かしら」

「全部!?」

「魔法陣はね。ただ言われた通り線を引きばいいというものではないのよ。私からはそれだけ。さ、新しい用紙を上げるから」


お婆ちゃんが手渡してくれた新しい用紙を手に大人しくテーブルに戻ったが俺は思っきし困惑していた。


どういうことだ。聞いてた話と全然違うぞ。これは本当に魔陣士の転職クエストか?


もしかして受けるクエスト間違えた?……いや、でもクエスト名は同じだったし、ギルドの看板にも魔陣士ってあったしな……。


「ええい、考えても分からんことより今は目の前の課題だ」


明らかに何が変だが、今からそのことについて調べ直すのも時間が勿体ない。

ギルド内を見た限りちゃんと学びたい技術はあるんだ、だったら余計なことを考えずクリアする方法を探した方が有意義だ。


「よく思い出してみよう。最初、紙を渡す時あのお婆さんがこう言ってたよな」


―― それを使ってちゃんと効果出るように魔法陣を仕上げること。それがここのギルド入門の試験みたいなものよ。出来るかい?


そして質問した時にこうも言った。


―― 魔法陣はね。ただ言われた通り線を引きばいいというものではないのよ。


その言葉を吟味してみて、気付く。

そういやお婆さんは魔法陣を仕上げろとは言ったけど、一度もこの紙にある魔法陣を完成させろとは言っていない。


「って、いきなりオリジナルの陣でも描けってか。それは幾ら何でも無茶だろ」


こっちはスキルもないド素人何だぞ。


……いや、違う、そうじゃない。お婆さんはこの紙の魔法陣を使えと言っていた。


「という事は、ヒントは既にこの紙に記されているってことか?」


お婆さんから渡された紙の魔法陣をもう一度よく見てみる。それを構成する図形はよく見るとそれぞれが独立してこれはそれを組み上げたものだ。

多分その気になればこれを分解し、魔法陣を1から築き上げるのだって出来るのでは、と俺は思った。


それに確証はない。ただの俺の思い違いかもしれないけど、でも。


「……もし今俺が考えてる通りに出来たら。絶対に面白いことになる。そんな予感がする」


少しばかり自分でも高揚したことが分かるが声でそう呟き、口角が上がる表情を引き締めながら……俺は紙をひとつひっくり返しその裏面に魔法陣の線を引いていった。


――――――――――――――――――

・追記

https://kakuyomu.jp/users/mocom90/news/16816700429522785095

今日更新した近況ノートです。

執筆中、今後の展開に少し関わる設定ミスを見つけて修正したって内容ですので、目を通してくださるとありがたいです。お手数おかけして申し訳ありませんm(_ _)m

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