第106話 海のホーム

10階層の海側の入口を調整したり必要なものを調べたりしながら数日が過ぎたある日。

そっちはある程度落ち着いて今後の予定も組めたところで、俺は海の方にある土地に作ったホームに訪れていた。


「そろそろこっちにも手を付けないとだからな。にしてもどうしたものか……」


悩むのは海のという地形にどうやって階層という概念を落とし込むか。


一応のエリアの真ん中に作ってある、あっちの入口と繋がってる洞窟から出るとそこは孤島で、そこから海に出て海底に潜る形で階層を進めさせる、とういう方針はある。


海のフィールドに相応しい配置モンスターも既に各地から集めている。お馴染みの『繁殖』持ちを重心にした小型の水棲モンスターたちで、そいつらベースにした『繁殖』可能なキメラも製造してる最中だ。


問題はプレイヤーの活動域の確保と海中に階層を隔てるための壁をどうやって作るかだ。海のダンジョンを作っても誰も入って来れない、もしくは一部の人しか来れないじゃ意味がないからな。稼げなくなるし。


それにここの海の中はティアの魚人族たちが管理してる影響かとても綺麗に整えられていて海中の絶景を楽しめる。今だって、遠く海にサンゴ礁と海藻がエメラルドグリーンの海に煌めき、その間を色とりどりの魚が泳ぎ、たまに水面に飛び跳ねたりしている。

だから出来れば海中の様子が分かるように視界を遮るものは使いたくない。


なら水をそのまま壁にする? 

……芸がないな。そもそもどうやるんだ。


星属性で引力をどうにかして海流で仕切る?

……だめだ、俺の実力で上手くいくビジョンがまるで見えねー。


いっそのことガラス張りにする?

……悪くないかもだが、物資調達が大変過ぎる。そもそもそんな大量の材料どこから取り寄せるかって話だ。


「むむむぅ……中々いい案が思い浮かばない」


これが本来のダンジョンマスター……いや、その能力を分けているダンジョン制作用のジョブ群なら、迷宮結界師の結界で透明な外と層の隔たりを作り、迷宮環境整備士で水を呼吸可能な環境に変えればダンジョンを成立させることも容易だろう。


が、そのどれも使えないこっちの身のしては絵空事でしかない。


余計なことを考えても仕方ないとそれら考えを振り払い、あれでもこれでもない……と、その場で頭を抱えて数十分。


「だぁー! だめだ。今の手札で良さげな方法が見付からない……」


結局今のままではいい手が思い浮かばず、フラストレーションが溜まる一方となり海原にて叫ぶ。


「あるものでどうにかとならないかと思ったが……今では無理そうかな。しゃーない今日は見た目の改装だけにしときますか」


一旦頭を冷やすためにも今出来る作業から取り掛かることとする。


まずはテイムしているモンスター……海にもあった繁殖シリーズ繁殖鰯たちに警備させてから、ここのホーム指定を解除する。


海底の地面を細長く変形し海面上まで引き上げてると、先端が尖った円錐状の柱が半アーチを描く。それを入口から見て整然と見えるように『測定』まで使って並べ、次の工程に移行。

今度は月の引力に干渉して半アーチに彫ってある溝に沿って海水が登るように仕向ける。


すると半アーチ状の円錐柱の先っちょから水を吹き出し、魔法の影響圏から逃れて下に落ちるようになる。


辺り一面に水飛沫が舞い散り、清涼な雰囲気を演出している。


「でもこのままじゃちょっと地味だから。ホームで入口の孤島を飾り付けて……半アーチ状……もう柱でいいか、それに色を塗って……。あとはそれっぽく彫刻も刻むか? ああ、海辺にも新エリアの始まりを知らせるものがあった方が……」


頭を冷やすためと言いながら何だかんだ一度の始めると夢中になってしまうあたり、俺もこの異色のダンジョン作りに大概嵌っているなと自覚する。


先人もなく、すべて自分で1から考え抜き、試し尽くすのは大変だが……そんなことが堪らなく楽しいと感じる自分がいる。

それはきっとこれだけ苦労して完成した自身の作品の、その先のビジョンがはっきりと見えているからに他ならない。


自分で言っててなんだが今の俺はかなり目立っているからな。だからここのダンジョンが開放されるときっと色んなプレイヤーが来る。

恨みを持ったやつ、好奇心に満ちたやつ、欲望に塗れたやつ、冒険に心を躍らせるやつ……そんな色んなプレイヤーが様々な理由でこのダンジョンを訪れよう。


そんな輩が来てはこの新たなエリアを見てあっと驚くその光景。仕掛け人しては最高の景色が待っている。そう考えるだけで不思議とやる気が出るってもんだ。


そうやる気を滾らせながら、細かい作業を続けて数時間後。


「―― よし! これにて見た目の改装は完了だ!」


入口の孤島は洞窟の周りに緑を敷き詰め、ヤシの木をワンポイントに植えて飾り。海辺にはここが境界線だと言わんばかりに石柱の柵が巡らせ、出口らしきアーチが正面に据えられている。


そこを潜り抜け、海に出ると天高く聳えている真っ白になった柱が水を上空に吐き出しながら、表面を飾っている彫刻の模様が塗ってある発光ペイントで怪しくも脈動し光の線を這わせているのが見える。ちなみに刻んでる模様のデザインはネットからの丸パクリである。


なおこれら装飾用アイテムとかはすべてホーム機能で買った。もう隠す必要も無いってことでゴールドで買える範囲で派手に使ってみたのだ。


そして円錐から放たれる水は上空で華麗に散り、海の上に巨大な虹の円を描いて清涼なだけでなく幻想的な雰囲気をも醸し出している。


「ふぅ、何気にあの虹を出すのに一番の苦労したな」


中々綺麗な形にならから光属性の魔法まで使ってしまったよ。それとまた陽光はホームの設定を弄って天気を固定しようかとも思ったが……ま、昼間限定の方が有り難みがありそうだから、そっちはデフォの時間同期のままで。


それにしても……光加減は『測定』で最適な数値を簡単に図れて、俺の実力でもいつでも再構築出来るからいいけど……俺が居なくても維持しときたい魔法がまた増えた。


魔法は当然だが使うものが魔力MPを供給し制御しないと効果が切れる。罠みたいに消費する前提のものなら、暫く持てばそこまで気にすることは無いんだが、永続的な仕掛けとして組み込むならそうもいかない。


「今までは単一属性でこんな凝った仕掛けとか無理だったから後回しにしたが……職業装備ジョブウェポンで空き枠もあることだしそろそろ手に入れるいくか。あのジョブを」


だった今完成したダンジョン、海エリアの外観を眺めなら俺は次なる手に打って出ることにしたのだった。

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