第163話 『無器』ヨグー4
ドローンを偵察に出して暫く。
森がストレスで出来た10円ハゲじみた空白地帯を生むまでの段になってようやく、その偵察が終わった。
思った通り、拠点は改装などしない限り同じ外見、構造らしくそれを元に探れば簡単に見付けられたのだ。
「うっし、大抵のもんは揃った。んじゃ軽くもう1拠点、潰しにいくか!」
まるでちょっとその辺の公園に遊びに行く気軽さで、ヨグは敵クランの拠点に乗り込む。
ドローン越しで収集した情報を元にまた別人に成りすまし、堂々と正面から。
そこからは最初の拠点の再現だった。
変装したヨグに会ったが最後。ある時はわけも分からずに殺され、ある時は情報を抜けれて殺されていく。
そうしていつの間にかコアにたどり着かれて、ゲームオーバー。
相手側のクランからしたら理不尽極まりない。
まあ、それはヨグに言わせれば「実力が足りねぇのが悪い」としか言いようがないが。相手に遠慮して手を抜くなんじゃヨグの思考には端っからないのだ。
「数字的にはこのままでも勝てそうではあるが……こうも一方的だと飽きてくるな。……もう条件も出揃ってんだしいい加減この盤を畳むとすっか。そのためにもここの資材は没収だ没収」
先程と同じ流れで今落とした拠点内部を解体し、あるものを即座に作成する。
長い、それこそヨグの身長の何倍かある銃身を様々な用途の機械が取り囲み、もはや戦車の主砲かというそれを物々しいストッパーを何本も打ち込んで固定。
「弾数は丁度を3発……上等、百発百中でいくか」
並行して作って変わった形の弾を弄びながら、獰猛に嗤う。
銃身相応にデカイ弾丸をひとつセットする。
今も標的を捉え続けているドローンの情報収集機とアクセスして、超長距離射撃に必要なデータを取り寄せてロックオン。
そのデータを照合して銃身の微調整をヨグ自ら行い、射撃に最適な状態に持っていく。
あとは不確定要素……主に人などの不意の障害が減ったタイミングを狙って……。
「
轟音で大気を震わせ、大口径の銃弾が空を突っ切る。
直線距離で何百メートルは離れている他クランの拠点に悠々と到達した弾の前に当然防壁が射線を阻む。
「そーらよ、こっちだ」
情報収集機でそれを見ていたヨグが何かしら手元の機器を弄ると同時に、その弾の軌道があり得ない方向にほぼ失速なく曲がる。
「やっぱ星魔石つーのは死ぬほど便利だな。これを上手く噛ませときゃ無理な挙動でも慣性なんかをぐっと抑えられる。ゲーム世界特有のもんで『変換術』で作れるほど構造解析が出来ねーのだけが難点だがな」
風属性で弾丸の空気摩擦を消し軌道を自在に曲げ、星属性で重力を調節して弾速低下を抑える。
もはや弾丸の形をしただけの操縦型ミサイルと言っても過言ではない。
それを撃った銃器の名は超大型追尾型狙撃銃『スネーク』
弾丸へ運動エネルギーを限界まで盛りまくった機構の重量故か、ただの武器としては作成出来ず、インベントリに保管出来ないため設置物として現場で直に作るしかないヨグお墨付きのバケモンライフルが一挺。
そこから飛び出した弾が命を吹き込まれたかの如く、拠点の中をすいすい飛翔し闊歩する。
素早く、密やかに、でも大胆に拠点のプレイヤーたちを避けて弾丸は飛び続け……ガンッ!っとけたたましい音を立ててコアに突き刺さった。
「グッナイ」
情報収集機を通してそれを察知したヨグが、銃本体にあるトドメとなるボタンをぐっと押す。
それと連動して弾に仕掛けられていた機構が動き、コアが怪音を上げてひび割れていく。
弾が刺さった時点ですでに近くにいたプレイヤーがコアを守るべく動いていたが……その時にはすでに遅く、突起だらけの禍々しい形像に変わった弾丸が高速回転してコアを削り取り……間もなく粉砕した。
「うっし、処理完了。次弾いくか」
ドローンの情報収集機でそれを確認したヨグは特別感慨を抱くことなく淡々と次の射撃に移る。
銃に弾を込めて、発射。
そして相手拠点に着いた弾がまた縦横無尽にコアへと向かい……それだけでもう1クランが消えた。
最後のクランを消そうと無言で弾を込めて無慈悲にも発射した、が……。
「お、今回は気付いたのがいんのか。中々やるじゃねぇか」
ヨグの精密操作により、音速で高レベルの隠密行動をする弾丸に事前に気付けたものがいた。
恐らく奇襲などに自動で反応する珍しいスキルでも持っていたのか、弾丸が背後で横を掠めようとした瞬間、弾丸を防いだタンクがいたのだ。
ただ情報収集機越しだとそこまでは把握出来ないのでヨグからしたらあれに気付く凄腕のプレイヤーがいたということになった。
「その腕に敬意を表して……ちっとばかし本気を出してやる」
『変換術』にて自分の身体のパーツを頭と右腕以外を変換、再構築する。
ヨグの右手には今までのとは別の、重圧感が溢れる徹甲弾が形成される。
それに合わせて銃身も弄り……込めて発射。
さっきの銃声が小声に聞こえる程の大地を揺るがす爆音が鳴り響き、その暴力的なまでの質量がさっきの弾と同じ軌跡で飛ぶ。
そのまま今も威力を失っていない初弾を防いでるタンクとぶつかり激突。
尖って徹甲弾はタンクの盾や鎧を貫通し、突き刺さる。その瞬間、ヨグが今し方作ったスイッチを押す。
刺さった徹甲弾は破裂音を響かせては伸びて、タンクの身体の芯に衝撃を叩き込む。奮闘していたタンクはそれで敢え無く光の粒子へと還った。
装甲を貫通し、リミットダメージを確実に内側の一点へと届かせる対重装甲用の……言わば弾丸型のパイルバンカー。
そのあとは障害もなく、まだ辛うじて勢いを維持していた初弾は悠々とコアに辿り着き……最後のクランも抵抗虚しく呆気なく退場したのであった。
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