第164話 ヨグ戦・感想
視点戻ります。
――――――――――――――――――
「ヨグくんお疲れ!」
「お疲れさん」
「おう」
対抗戦のその1戦目が終了し、ヨグが元あった場所……始まりの街のホームに帰ってきた。
ちなみにヨグは今、ついさっきに大量のパーツを犠牲したせいか、普段の体格も随分縮んでいた。予備のパーツを緊急に繋ぎわせただけだから、そうなったとか。
「にしてもこう……色々凄かったな」
「あはは、容赦の欠片も無いよね。特に生首のペイント、あれ絶対やられた人トラウマになってるって!」
あまりのあんまりな対戦内容に語彙に乏しい言葉しか出なかった俺を他所にヘンダーが爆笑しながら感想をいう。
対抗戦の様子はフレンドやクランのものであれば、プレイヤー名で検索してその人の試合映像を見ることが出来るのでそれ見ながら待っていたのだ。
「ホログラムなんて作れたんだな」
「そりゃ光属性なんじゃ便利なもんあるんだから、こんぐらい誰でも作れるだろ」
やっぱ光属性を使ってたのかあれ。物凄く制御が難しいはず何だけどな光属性。
まあ、そこは流石のヨグの技術力と言ったところだろうか。
「まさか、変装のカラクリがその場で身体を作り直すことだなんて。普通なら想像も付かない」
「すげー便利だぜ。あれだと変装が“本当の顔”になるから看破系とかの虚偽を見抜くスキルにひっかからねぇからな、隠密の技術も身につけりゃもう無敵だ。何ならテメェも今度脚だけでなく頭のパーツも着けてみるか?」
「え、遠慮しとく」
「ははは、やっぱ普通はまず実行しようって気にならないよね。まあ、そこに躊躇がないのがヨグくんの凄いとこだけど」
「はっ、テメェに言われっと嫌味にしか聞こえねー」
鬱陶しいげに皮肉を言いながらも満更でもないヨグだったが……それを見て面白くないものもここにはひとり居た。
「まあ、こそこそとネズ……いえ、無様な小動物みたいでお可愛らしい戦い方だこと、ですわね」
「ああ!? 誰がネズミだってこの化け狐が! 最近は化けるばっか上手くなりやがって、そのうちツラの皮ごと溶け落ちるんじゃねーの?」
「溶けるのはあなたのほうが得意でしょう。元から何かとあればポロポロよくもげる身体ですものね」
「テメェ……」
「うふふ……」
一触即発の空気を漂わせ、漫画だったら視線の間にスパークでも付きそうな睨み合いを始める犬猿の仲のふたり。
なんでこう、ヨグとアガフェルは波長が合わないんだろうか。
揃ってる時は大体ふたりで喧嘩してる、というイメージもすでに定着してるほどだ。
と、そこで流石に見てられなかったのかヘンダーがふたりの間に割って入る。
「はいはい、ふたりともここで火花散らさない。というかフェルちゃんは次、順番でしょ」
「そうですわね。こんなのの相手してる場合ではありませんでした」
「チッ、さっさと行けや。それとしくじったら……分かってんだろうな?」
メンバーひとりで、1戦づつして勝つ。
実はこの縛りを設けるに際して、ただ条件を設定するだけだとだらけるかもとペナルティーもちゃんと用意されていた。
「ええ、もちろん。もし敗北したものはその時点で本戦ポイントでの交換を後回しにされる、ですわよね」
それがこのポイント交換を優先権の剥奪。
本戦ポイントは個数限定品が多いので欲しい物が被った時には困ることになる。故にこれは俺たち全員よく効く縛りでもあった。
「……ふん、分かってんならいい。俺は自分の工房へ戻る。さっき消費したバーツを作り直さないとだかんな」
こともなげなアガフェルにそれだけ言い捨てると、スタスタとホームを出ていくヨグ。
「では行って参りますわ」
それを見て、さっきまでヨグと険悪だったのが嘘のように、いつもの調子で優雅に一礼してアガフェルも対戦サーバーへと消えていった。
まあ、いつものことなのでそれは気にすることもないが……。
「うーん……」
「どうしたの、後輩くん」
「アガフェルはどうするのかって気になってな。正直、アガフェルのことはよくわからないせいで想像も付かない」
ヨグとは何だかんだプライベートで交流が多かったお陰で人となりも大分知れたが、アガフェルとはあまり会っていない。
俺が彼女について知ってるのは姫プレイしてて、なんか個人的に不気味。というぐらいだ。
「ああ、そういう。確かに後輩くんはアガフェルとはあまり接点がなかったもんね。いつもヨグくんとばっかりつるむから。偶にはこっちにもかまえー」
「悪かったって……それよりその言い方だとヘンダーはよく会うのか?」
「そうだね。人員が必要な案件は大体アガフェルに頼ってる感じ。レイドもそうだけど、色んな検証とかにも」
一例として……その時の状態や行動で得られるジョブが変わる転職クエストがいる。
俺も今まで何個かそういうクエストをやってきたが、それにどれほどの分枝があるのかは知らない。
こういった場合で詳しく調べたい時、ヘンダーはよくアガフェルのファンを集めて人海戦術で検証をしていたらしい。
ヘンダーが幅広い状況に対応が可能な装備や一般にはよく知らない強ジョブを多数扱えてるのにはこういう背景もあった。
「ファンはアガフェルが声を掛けると大抵はなんでもやってくれるから。それこそ他の人が憚ることでも、ね」
「それ、色々と大丈夫なのか」
「あはは、大丈夫大丈夫。あの子はあの子なりに、ちゃんと尽くした人に“お返し”はするから」
「お返し?」
なんとも意味深な言い方に聞き返すもヘンダーはこれ以上は言わないつもりなのか、わざとらしく咳をしてから……。
「それで後輩くんがさっき言ったフェルちゃんがどうするかって質問だけど。私の予想から言うとね……多分だけどフェルちゃんから直接的には、何もしないんじゃないかなー」
……そんな、突拍子もないことを言い出したのだった。
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