第162話 『無器』ヨグー3

あの後。床に落ちていた敵の頭……に偽装してこっそりと落としていた自分の頭部パーツを拾い上げ、代わりになってたホログラムを消して頭を再装着したヨグは……。


「片付いたな。ったく、あんなお粗末なもんで俺をだまくらかそうなんじゃ百年早いっての」


……自分以外は死亡エフェクトの残滓のみとなった広場で吐き捨てながら独りごちる。


そして復活しても面倒だからと流れる動作でコアに腕が変形した銃口を向けて……照射。


レーザー兵器らしきもので炙られていたコアは赤熱しながらもそれに暫くは耐え……しかしやがて耐え切れずに砕け散った。


「ふーん、これでも多少は時間が掛かんのか。かなり頑丈だな」


今のレーザー兵器はヨグのパーツの多くが停止状態を求められるため、運用は難しいが一箇所に持続的にリミットダメージを撃ち込む最高威力武装がひとつ。


それに暫くとは言え耐えるとは尋常な耐久力ではない。なぜこんなに硬いのか少し考えて、すぐに思い至る。


「ああ……そりゃクラン規模の攻撃を想定したもんだからある意味当然か」


そもそも今の自分みたいに単独で破壊すること自体が想定外のものだろう。


その証拠に例の勝敗を決める総合貢献度とやらに、コアのソロ撃破によるボーナスみたいな特典も乗っていなかった。


まあ、それでも現時点で他拠点を落としたのはヨグだけらしく『戯人衆ロキ』の名が堂々の総合貢献度1位に輝いているのだが。


「これは、ちっと考えねーとか。…………うっし」


そう言って何か色んなUIや情報パネルを確かめていたヨグの身体があっちこっちが途端にバラける。


バラけたものは小型のプロペラで低高度を飛行し、ここに元いたクランの者たちをホログラムで投影する。


そのままそれらはまるでこの拠点がまだ健在であるかのように、そのホログラムを引き連れて拠点を徘徊しだす。


「これで暫くの偽装はよし。次は……っち。資材が足んねぇな。流石に使い過ぎた」


次の行動に出ようとして……すぐに顔を顰める。


どうやら今の偽装工作と先程の大立ち回りでかなり消耗してたらしく、必要なものの素材とエネルギーが不足してると機器側から警告が出た。


「しゃーない。足りねーもんは採りに行くか」


現在のフィールドは森林。普通に考えればヨグの主体である機械用の素材は、あまりない。


だがヨグには『変換術』がある。例えどんな素材からでもこれでものを原点のものに還し、使い手の腕次第でどんなものにでも変えるデタラメなスキルだ。


改造系スキルと、『変換術』はとても相性がいい。


『変換術』は鍛冶師ならどんなものでも武具するスキルに、料理人ならどんなものでも料理するスキルとなっただけだろう。


だが、特定の得意制作物を持たず、モノの在り方を望むように弄るだけの改造系は、実質ヨグが正しい構造さえ把握すれば“原点”とやらを改造してどんなモノでも生み出せる創造の権能と化した。


とは言え、そんな『変換術』でも全く制約がないわけではない。


「やっぱ、そこら辺にただ転がってんのはここでも最低ランクかちょっと上ぐらい。イベントだってーのに湿気てやがるぜ」


それはアイテムのランクに応じた変換量の差。


今もヨグはこの周辺の森を剥げさせる勢いで『変換術』を使い、実際拠点周りの森がスッキリするほどものを採ったがそれでもまだ必要量の半分も満たしてはいなかった。


ヨグの感覚的に★1のものから取れる原点で、★2のものを『変換術』で作る際のレートは約十倍だ。

★2から3でも同じで、このレートはもしかすると『錬金術』で素材合成ニコイチと同一なのではと推測出来た。


それに後付けの副次的な効果や多種の制作物を内包する制作物などは、それらひとつひとつにその分のコストが掛かる仕組みだ。


機械というのは部品という多種の制作物の集合体。そういう意味で機械系はどれも高コストだった。正直冗談じゃなく森を剥げさせることも考えたヨグだったが、そこまでするには時間がない。


「どうしたもんか……ん、ああ。これがあったな」


ニヤリと彼の顔に悪い笑みが浮ぶ。


その視線の先にあるのは今さっき落としたクランの拠点。軽くアイテムで鑑定してみたところ、拠点の建物がそこそこいいランクの建材で出来ているのが分かった。


「もう使う人もねぇもんな。偽装もどうせ皮だけありゃいいんだし……中身、全部引っこ抜くとするか!」


言うが早いか、再び拠点に戻ったかヨグは中のものを片っ端から家具、小物、壁、天井と……倒壊しないようにだけ気をつけて『変換術』で回収する。


通路や部屋、上階の隔たりさえも消えて、ようやく満足いく量になったのかとほくそ笑む。


前までだったらここまでしてもまだ足り無かった。でも今は周回で集めた職業装備ジョブウェポンがいる。


常に改造で装備枠をぎっちぎちにしてるヨグに余ってるのは小装飾の枠4つだけだけれど、採取量アップや生産効率アップなどの『変換術』と相性がいいサブジョブを詰め込んでいたお陰で今回はどうにか間に合った形だ。


「そーれぃ! 虱潰し嗅ぎ回ってきやがれ!」


早速、それで作った偵察用のドローンを四方八方に飛ばす。

一刻も早くこのフィールドにいるクランの拠点を炙り出すために。


「後は暫く待つだけか……暇潰しにまだ資材集めでもすっか」


こうして『変換術』に使う資源を回収しつつ、ヨグは必要な情報が集まるのを暫く待つことにしたのだった。

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