第190話 本戦ー2日目・その4
拠点の外でクラリスたちを待ち受けいたものは、物々しい機械をあっちこっちに取り付けている怪人の行列だった。
「機械の身体、まさか……」
それを見て不吉な予感がクラリスの脳裏をよぎる。
機械の身体を持つプレイヤー。ついこの前も要注意人物としてリプレイ映像で見たある常軌を逸したPKプレイヤーを連想させ、どうにも胸騒ぎが止まらない。
そして、彼女の不安に呼応でもしたかのように怪人たちが破滅を詰めた鉄塊を『陽火団』へと向ける。
「おいおい、あれ……」
「迫撃砲を肩に積んでるのか、しかも複数」
「ガトリングを腕にしてるのもいるぞ」
「あ、あり得ねぇ」
体格のいいパワータイプの怪人はそれを活かし、身体随所に重火器を組み込み、拠点前に陣取る。
整然と並び立った怪人たちは何か確認した素振りを見せたかと思えばおもむろに銃口を向けて……発砲。
「撃ってきたぞ!」
「うわああ!?」
「みんな慌てずに! まずは物陰に隠れて! それからタンクジョブはスキル展開、でも連撃に備えて出来るだけ余力は残して!」
銃声、爆音、怒声……それらが交じり合う轟々とした戦場音が鳴り響き、両クランの戦いが熱を上げていく。
「このっ!」
『陽火団』の誰かが、反撃のためにレーザーを撃つ。
が、怪人陣営からはレーザーを感知すると同時に煙が吹き出し、レーザーの光を瞬時に拡散させる。
「霧!?」
「それも多分普通の霧じゃないわね。レーザー対策に何か混ぜものがされてるわ~」
仕方なく通常の魔法に切り替えるも、普通の魔法と重火器では射程が違いすぎた。
通常の手元に何か出して飛ばす魔法はあまり射程距離が長くない。精々100メートル届けばいい程度だろ。
ただだからと言って《イデアールタレント》で魔法が銃火器に劣っているかと言えばそんなことはない。
風と土属性で硬化した石礫を高速で飛ばす。
水、火属性で即席の水蒸気爆弾を作り、これでまた土属性で作った簡易の大包で岩を飛ばしに砲撃する。
などなど……このように射程の問題は工夫と連携でカバー出来る。これの長所は多人数が交代で実行すればMPの自然回復を利用してほぼ無限に撃てるところだ。
一方、重火器は確かに強力だが、弾という消費アイテムが必須である以上、ことこのゲームに置いてはコスパという面で、どうしても他に劣る攻撃手段と言わざるを得ない。
とは言え、『陽火団』の戦術には術者全員がそれなりの実力を持ち、淀みない連携をする前提ではあるが……それこそ彼、彼女らの真骨頂。普段のクランマスターの派手さに埋もれ表出されないが、このクランのものたちは皆が皆魔法ジョブのエキスパートたちなのだから。
最初こそ動揺を見せた『陽火団』だったが状況を把握したクラリスたちの指示を受けてのすぐに戦法を修正し、戦線を持ち直す。
魔法と銃弾がせめぎ合うそんな中、ひと際目立つ黒い影が宙へと舞いがる。
「あれは、例のゴキブリ怪人ね……」
「確かに彼は滑空しか出来ないはず、速度が落ちたところで狙い撃ちましょう」
「そうね」
流石に例の”霧”も上空高くにはなく、クラリスたちは跳躍の勢い失ったゴキブリ怪人にレーザーを一斉照射するも……。
「ほっほほーい!」
「と、飛んで避けた!」
「あいつ滑空しか出来ないはずじゃ……」
驚くことにそこで軌道を曲げて飛行を始めたゴキブリ怪人に虚を突かれた。
「ほら、いただきじゃ!」
「ぐああああぁ~!?」
防壁の上にいた『陽火団』のひとりが喉元を噛み付かれ、肉をこっそりもぎ取られる。
そのまま首をもがれたプレイヤーが死亡エフェクトに沈むのを見てゴキブリ怪人が上機嫌に飛び回る。
「ほほっ、ヨグ殿の反重力フライトフィンというのは素晴らしいのぉー! 身体が羽のようじゃわい!」
それを脅威と見て取った『陽火団』の防衛陣はゴキブリ怪人を撃墜せんと猛撃を放つ。
「撃て、撃て! こいつは危険だ! ここで仕留めろ!」
「うおっと、物騒じゃの! ならわしは逃げよっと!」
「あ! 待てこの野郎ぉー!」
だが、彼は『怪人の
怒りに荒れ狂う魔法の只中を飛び交い、そのすべてをすり抜けて味方の陣地に速やかに舞い戻ってしまった。
「くそが、あのゴキブリ野郎! 追撃を……」
「おい、なんかスライム怪人も飛んだ、ってかぷかぷか浮てるぞ?」
「風船、なのか。あれは」
それと入れ替わるようにして『怪人の
水っぽい身体の材質で彼らがあのスライム怪人なのは辛うじて分かったが、丸々ともはやバルーンかと言えるほど膨れ上がった体型と、なにより前とはあまりにもかけ離れて真っ黒な色にひと目だとそうだとわからない。
「なんでも関係あるか、あんなのここで落としちまえば……!」
「馬鹿、迂闊に……!」
敵をまんまと取り逃がし、頭に血が上っていたひとりが不用意に魔法を放つ。
やがて魔法に当たったスライム怪人が弾ける飛び、そのジェル状の身体が飛び散る。
―― ごうごうと燃え盛ったままの状態で。
「ぎゃあああぁ~~ッ!」
「火、火が!?」
「飛び散ったスライムが燃えてる!」
「水、水を掛けて……って消えねー!?」
燃え盛り、まとわり付くスライム怪人の肉片はかなりの粘着力を持ち、どれほど水を掛けても取れず鎮火しない。
むしろ半端に流れたもののせいで拠点に火災が広まる始末だ。
「まさかこれ、全身ナパーム剤の類か! 冗談じゃねぇ!」
「おい、おいあれ……!」
「あ、何だよこんな時に………うっそだろ」
次々と繰り出される兵器に混乱を極める『陽火団』へ追い打ち掛けるように。
大きな……巨大化したナパームスライム怪人の影が彼らの元に落ちたのであった。
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