第115話 11階層-3
『掛かってきなさい! ぜーんぶ、ぶっ飛ばしてあげる!』
『威張るのはいいが、俺の後ろでやってくれ。陣形が乱れる!』
『わ、分かってるわよ』
今日、ずっと戦闘が出来ずに溜まった鬱憤を相棒が張り切るのを宥める、前に盾を構える。
こいつがこんな風に出しゃばり時は、大概碌なことにならないので牽制しておく必要があるのだ。
『肝心の敵の姿は……魚、か?』
『小さいのが沢山あるけど、何の魚なの?』
『う~ん、あれは……多分イワシじゃ無いかしら』
海のダンジョン、初エンカウントしたモンスターは……まさかのイワシだった。
正直強いイメージはない。というか只管ひ弱なイメージしかない。
水に墨でも落ちたのでは言うほどの数が、正面の通路を埋め尽くしているが……大した脅威は感じられない。
まぁ、上の階の『波』をも越える個体数は凄いがこのパーティーは魔法使いの比重が高いのでザコが集っただけではどうだけあろうと、瞬殺も余裕だろう。
『折角ならサメやカジキとか、もっと強そうなにすればいいのに!』
『気持ちは……ちょっと分かるが、油断するな。どうせやつのことだ、何か仕込んでる』
『ええ、でしょうね!』
そうしてる間にこちらに到着し、突撃してくるイワシのモンスターを盾で弾いた……と思ったらイワシがぷかーと腹を見せて浮き、鱗を辺り撒き散らす。
『あれ? もしかして……今の反動で死んだ!?』
想像を絶する脆さに目の錯覚かと思って挑発系のスキルを使い、盾を構え続けていると、次々突っ込んで来て勝手に死んでいくイワシの群れ。
おい、どういうことだ、俺のスキルも盾もダメージ反射なんてついてないぞ。
これで死ぬって、防御にマイナス補正でも掛かってんじゃないかこのイワシたち。
『何か、このままあんた挑発掛けてるだけで全滅しそう……あれ? これ、まさかまた私の出番なし?』
『いいえ、それはどうかしら?』
クラリスさんが意味深なことを言った次の瞬間、世界が閃光に包まれた。
『くっ!?』
『きゃ!?』
それにより相棒だけではなく、盾で視界を遮っていたはずの俺でさえも目が潰れる。
『いったいどこから……あ、こいつらが撒いた鱗か!』
確かイワシは外敵から逃げるためわざと自分の鱗を剥がせて目眩ましをすると聞く。多分それをモチーフにしたスキルで光を乱反射したのだろう
肝心の目を潰すほどの光量の理由は……光属性のモンスターにでも進化させてたか。錬金術師があるプレジャなら条件になりそうな光魔石は生み放題だろうしな。相変わらずセコい野郎だ。
くそ、死体がすぐに光の粒になってない視点で疑うべきだったのに、完全にしくじった!
不味い、このままあの群れに取り付かれら『波』の二の舞だ!と、俺が慌てていた時。
『プレジャって人も光属性持ちかもと聞きてたからね~。閃光からの目潰しはその基本。どこかでやると思ってたわ!』
クラリスさんとそのパーティー員『陽火団』の人たちはこの展開を読んでいたのか、咄嗟に対応にして反撃に出ていた。
まだぼんやりとした視界にクラリスさんが『陽水』から光を線状に取り出して、補助についた人がそれをクラリスさんと同系列の魔法で反射する。
その光線によりイワシの群れに突き刺さり、数をこっそり削り取る。
だが光線の攻撃はそれで終わらない。光線があらぬ方向に消える前に補助の人がまた反射させ、群れに戻し……そのまま囲むように攻撃角度を調整し続けるのが見えた。
水の中でどうやってと、目を凝らしたら光線の通り道に水が退けられている。
これはまた別の人がやってるようで遊撃兼避けタンクをしてる斥候の人を除くと、クラリスさんにはふたりの補助がついていることになる。
『凄いな……』
『それは当然よ! 私がお姉ちゃんに次いで尊敬する魔法使いなんだから!』
それを見て、俺は素直に感心していた。
この人らはこれほどの連携を目配せひとつせずに熟している。
クラリスさんの光線を反射させる方向、攻撃を通すための水を退けるルート、タイミング。それらすべてをお互いがお互いの様子を見ただけで把握して即行動に移してる様は惚れ惚れとするほどだ。
『陽火団』は元々から仲間同士の連携を重視するクランと聞いたが、まさかここまでとは……。
『こっちも負けてられねーな。相棒、もう目が見えるな!』
『当然! 私たちも行くわよ!』
いつものように俺が前に相棒がその斜め後ろにくっ付く陣形で敵に近付く。
『さっきから溜めに溜めた一発よ、くらいなさいっ!』
相棒がカラフルな竜巻を生み出し、海水を渦巻かせる。
それに巻き込まれ、吸い寄せられたイワシのモンスターたちは細切れになりまた死骸こと鱗を撒き散らす。
俺はその間も相棒に捨て身で体当たりしてくるイワシ共を盾で押し返し、潰していく。このイワシほどじゃないが相棒も脆いから、これでもダメージを負いかねないからだ。
『また閃光来るぞ、目を瞑れ!』
てな感じで攻防を繰り広げていると、斥候の人が警告から飛び、一斉に目を庇う。俺も敢えて
『むっ!』
その隙きを狙って襲ってきた薄っすらとした魚影を自動防御スキルが防ぐ。
それで奴さんのスキルが解けたのだろう、突如襲ってきたその暗殺者の姿が顕になる。
『小型のカジキ、と言ったところか』
このカジキが光学迷彩みたいなスキルで身を隠し、イワシ共と連携で視界が塞がれたところをこいつがぐさっと殺るわけか。
斥候の人が察知出来なかったのは仕方がない。何せイワシが視界を埋め尽くさんばかりに犇めいているのだ。敵がその場にいる、ぐらいしか分からないスキルの感知では区別が付かないだろう。
それでも本来なら鑑定を織り交ぜて、区別するもの何だがな……ここのモンスターには鑑定を誤魔化せるスキルがよく施されている。
やつもそれを分かっててこの布陣何だろ。セコいのは変わらないが、エゲツないこと考える。
『新ジョブ、活躍したみたいね!』
『ああ!』
プレジャのあの幻影からの奇襲に確実に対応するために手に入れたジョブ警備士。
警備士のスキル『警備』は自分及びパーティーの認識外からの攻撃を1回だけ自動で防御する効果を持つ。1回使うとクールタイムも10分と長いが中々便利なスキルだ。
『今のカジキ、次から私が事前に察知出来るかも~』
『お、本当ですか』
『ええ、使ってるのはあれも光属性っぽいし。それなら何とか』
透明化能力は厄介だと思っていたが……クラリスさんのお陰でそれも封じた、と。なれば……。
『よし、流石にもうこいつらのタネは尽きただろ。ここからはガンガン攻め込むぞ!』
『待ってました!』
手の内を明かされたイワシと小型カジキはそれから為す術もなくやられていき……11階層初めての戦闘の幕が閉じたのであった。
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・追記
光鰯
『繁殖』『鱗撒』『遮光』
※解説:2ndステージのとこかから連れてきた繁殖鰯というモンスターを光魔石を使って実験的に進化させた固体。
『鱗撒』で回避困難の閃光を撒き、『遮光』で視界を確保して逃げるという本来は逃げの戦法に徹するモンスター。ここでは以下の隠槍魚との相性と序盤に丁度いい強さってことで11階層でブラインド役を任された。
隠槍魚
『繁殖』『迷彩』『歪光』
※解説:繁殖鰯のとある進化先のモンスターをベースに作られたキメラ。光鰯との連携を前提に『迷彩』、『歪光』両スキルによる光学迷彩の隠密と角の攻撃力に能力を全振りしており、見付かればあっさり仕留められるほどに脆く弱い。
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