第116話 11階層ー4

Side とある重戦士


俺たちは11階層での戦闘を終え、それからも似た敵を何度か倒しながら探索を続けていた……のだが。

現在、思わぬところで足止めを喰らっていた。


『うーん……やっぱり、もうここの崖しか道がないね』

『じゃあ登るしかないってこと、ですよね』

『でも、この崖何しても登れないじゃない!』


透明な壁で出来た崖というか、大きな段差が切り立っていた。高さは恐らく俺の倍以上はあり、5メートルには達するのではなかろうか。

マッピングした限り、その段差の上に先の通廊があるようなんだが……。


『そう。どう登っても、何を投げても変な力で途中で叩き落されるのよね~』

『本当にどうなってるのよ、あれ!』


最初に真っ先に上へ泳いで登ろうとして、その力場に捕まってはまた顔面から落下した相棒の語気が荒い。

後もフック付きの縄投げたり、相棒が風の魔法でゴリ押ししようとしたりで色々やったが全部失敗。どうもまた変な魔法が仕掛けてあるようだ。


もしや他に道があるではと、ここの海の面積に恥じない広さの11階層を隈なく探索して見たのだが……。

数時間を掛けて、一旦休憩入れて夜まで探索を続けてマッピングを完了したが、収穫は同じ大段差が他にも点在してるのが分かったことぐらい。


ちなみにマッピングで気付いたことだけど、ここ透明な壁は下方向……とういうか多分次の階層が居るはずの向こうの景色は何故か見渡せない。ここのダンジョンはちゃんとネタバレは禁止の仕様のようだ。


『どうすれば……あ』

『どうしたの? 何か思いついた』

『いえ、まだあれを使ってなかったなと』

『あれって何よ』

『ほら、宝箱にあった星属性の魔石。あれ使うとか言ってたじゃないか』

『あー! うっかりしてわ。びっくりすることが多くてすっかり頭から抜けてたわね』


もう他に試すものもないということで、早速クラリスさんがそのまま保管してた星属性の魔石を取りだす。


『でもどう使えばいいのかしら~?』

『どこを調べても取っ掛かりすらなかったですもんね、星属性』


魔法使いであるふたり当然、未知の魔法属性について調べてみたそうだが、手掛かりは得られず。多分あのHiddenMissionでの事件の際に手に入れている、という予想以外は何も知れなかったという。


『とにかく、これが本当にキーになるならあの謎の力場を消せるはず。私が試してみていい?』

『もちろんです! むしろ、クラリスさん以外にこの中の誰がやるんですか!』


そう言ってクラリスさんの背を押す相棒とそれに倣うように頷く『陽火団』の面々。

まぁ純粋な腕の問題なら確かに俺もそうだと思うので、特に不満はない。


『うふふ、ありがとうね~。これはみんなに格好いいとこ見せないと!』


その皆の反応に嬉しいそうに気合を入れたクラリスさんは力場があるところまで泳で上り、ぎりぎりのところで足を漕いで止まる。

そしてそっと力場の手を触れ、押し返されるのを確認すると手に持つ魔石を見ながら集中するのが見えた。


『これが、力場を生んでる魔法……なるほどこう作用してるのね。なら、これを……こう!』


魔法に没頭し、暫く何かを探っていたクラリスさんが裂帛の気合がチャット越しに響き……。


『どれ……よし、行けたわ! みんな~早く来て多分そう長く持たないから』


あっさりと力場を解き、段差の上に泳いで登っては、その端に乗ってこちらを呼んでいた。


『やったわ! 私たちも早く行きましょ!』

『そうだな!』


下に残っていた俺たち含む面々も段差を登り、彼女の元に着く。

これで何とかこの先に進めるようなったってところか。今から本格的に攻略……といきたいところだがここで問題発生。


単純に今日はもう時間が遅い。


でもここでただ戻るのも勿体ないとのことで後ちょっとだけのんびり周辺を見て回っていい時間になると街に帰還してゲームを堕ちるとの話になり、一応足を進めた。


『結局、あの力場は何だったんですか?』

『あ、それ私も気になる!』

『う~ん、多分あれは重力場……みたいなものだったと思うわ。まぁあくまで感覚からの予想だけどね』

『あの野郎、いつの間にそんなことまで出来るようになったのよ。益々やり辛くなるじゃないの!』

『あはは……それに文句を言ってもな』


……てなわけで最小限の警戒だけはしながら、相棒だっての希望のよりクラリスさんとの雑談タイムが始まった。


『星属性の魔石は……ここからのルートにある宝箱に偶に入っているみたいね』

『これをダンジョンを歩き回って見付けて、攻略しろってことね……。なーんかまたあいつに踊らされているみたいで嫌になるわー。……それよりクラリスさん、光属性を扱うコツとかあります。私も取りたいですよね、光属性の魔法ジョブ!』

『あら、そうなの。……でもあんまりおすすめしないわよ。私のこれ、見た目は派手だけどはっきり死ぬほど扱い辛いから』


そう言って苦笑を浮かべるクラリスさんから光属性を得てこの形に行く着くまでの苦労話をなどを聞かされた。


光エネルギーの完全操作は難儀過ぎてまず無理だったこと。

魔力での生成も他の属性の比じゃないほど効率が悪かったこと。

これを扱うために大して興味もなかった空想科学まで調べて上げたこと。

練習の際、何度も制御をミスって文字通り何度も自分の魔法に焼き尽くされたこと。

……等々。


『う、うーん……光属性は使いたいけど私に扱えるかしら』

『ふふ、そんな心配しなくてもマシュロちゃんなら行けると思うわよ。センスはいいんだしきっと練習すれば私より上手くなるわ~。あ、さっきのイワシから小振りな光属性の魔石が沢山取れたしそれでまず練習というのはどう? 私見てあげるから』

『ほ、ほんと? クラリスさんそう言うならやっぱり取ろうかな~』

『はは、別にどっちでもいいがその練習で俺を巻き込まないでくれよ。吸血鬼じゃあるまいし、陽光で灰になる体験はしたくないからな』

『あ゛! あんたそれどういう意味よ』


何ともドスの利いた声で俺に聞き返してくる相棒に率直な感想を返すこととする。


『どうもこうもお前確かにセンスはいいのに偶にとんでもないドジやらかすからな。それの巻き添えはごめんってだけだ』

『……よし、あんた練習の的役決定ね!』

『やるかそんなもん!』

『大丈夫、あんたがしなくて私が勝手に狙うから! むしろ逃げたほうが練習になるし丁度いいわよ!』

『マジでやめろよ、お前!?』

『本当に仲いいわね~……ん? わあ、魚群が通ってるわ』


いつもの俺たちのじゃれ合いを微笑ましく見ていたクラリスさんの声にそちらを振り返る。視線の先にはダンジョンの外側に魚群が通り過ぎており、降り注いていた月光を背負っては夜の海を駆ける。


『中々風情ねー』

『そうだな……むっ! また透明カジキか!』


皆が普段は見られない海の絶景に目を奪われていると、『警備』が発動し自動で透明になるカジキの奇襲を防ぐ。


『無粋な魚だな』

『まったくね、こんのやは、く……かっ!?』

『どうし、ぐ……ぅっ』


隣で突然息苦しいそうに首を庇っていた相棒に安否を尋ねようとすると、俺もいきなり息が苦しくなり、窒息を報せる酸素ゲージが出ると同時にその場に蹲る。


これは、どうなっている。何故今まで水の中でも問題なかった息が突然……。


パニックになり薄れゆく意識の中で何とか周囲を見回すと俺たちだけでなくて『陽火団』の皆さんまでも続かないのか、苦しいそうにしていた。

それでも何としようと動こうとしたらしいが、不意の窒息に思考が持っていかれた隙きを狙った透明カジキがその本領を発揮し、次々と胸を串刺しされ……最後は全員が呆気なく死に戻っていた。


それを見計らったようにさっきも戦ったイワシの群れが俺たちいる周り上下含め全方位、僅かな月光すら漏れないほどに隙間なく取り囲み……


『が、ぁ……』


……逃げ場をなくして酸素ゲージも底を突いた俺は、それを最後にあっさりと死に戻ったのだった。





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