第223話 番外:運営の苦悩
―― ここはある会社のゲーム開発部署、その運営管理課の一室。
「もうおおお、こいつらほんとに何なんだよー!」
VRMMORPG《イデアールタレント》の開発・運営を行うその場所ではデータチェックをしていた主任の男が悲痛な叫びを木霊させていた。
「あ、主任がまた発狂してる。今回はいつにもましてシャウトがデカいな」
「あれはしょうがないよ。今回のクラン対抗イベントは、特に無茶苦茶だから」
「そのせいで俺らまで今日は徹夜だもんな」
イベントが終わった今現在、多くの作業員はシステムの再調整、クレーム対応などに奔走していた。
その雰囲気は平時の数段はせわしない。
それもそのはずで、今イベントではまさかの進行に沿わないレイドボスの出現で多数の不具合が必然的に出てきたからだ。
「ったく面倒ことを。臨時で作ったイベントサーバーでことを起こしたせいで、メインサーバーをこっちが手動で操作する干羽目になったじゃないか」
「これでGMの要望窓口が人力だったら、2、3人の胃に穴空いてたとこだ」
「うちの社はAIのレベルが高くて助かるよね~。それでもたまーに呼ばれるけどさ」
「ま、サーバー側の手直しは保安上都合で手動だけどね……はあ」
「手間だからってイベントサーバーのルール設定を一から作らなかったのが完全に仇になってるよ」
通常のマップで星喰らいが討たれただけなら、今彼らがやる工程は全部オートで行われるはずだったのが……何の間違いかそれがメインサーバーとはリンクが乏しい臨時サーバーで起きてしまった。
それにより正しい処理が成されずエラーが続出。これらの不具合をどうにか次の日までには間に合わせる必要があったために、非番の人員まで呼び寄せた不夜城の構えだ。
「要注意人物としてヘンダー・ケルの動向には注視していた、それでイベントに仕掛けてくることもわかっていた。それに合わせてバランス調整という名目で何とかクソ上司に案を通して星喰らいのフェーズを一部リニューアルまでしたのに、あいつが関わったせいで結局初見で倒されるどころか、逆利用される始末だ! 今の時期ってだけで予定が響くのになんで臨時サーバーでなんて……(ブツブツ)」
その後も暫くはブツブツと独り言を吐き捨てる主任だったが、途中何かを思い出しまた大声を上げる。
「せめて、せめて星属性関連さえ! やつが見つけてなければ……」
「そんな言ったって、見つかったもんしょうがないでしょ。あとうるさいです主任」
「言われんでも分かってるわ! ちくしょー……」
激情で叫んだり、唐突に悲嘆に暮れる主任の様子は傍からは完全に情緒不安定のそれだが、本人にそのことを気にする余裕はない。
嘆く主任の頭には今日の日まで様々なトラブルを持ち込んでくれた厄介なプレイヤー、プレジャの姿がちらついていた。
ことの始まりはやつが建築ジョブ用に調整したホーム機能を応用し、運営の想定してないダンジョンを作ったことからだ。
最初は面白い発想をするなと、ちょっと目についただけだった。
だが、時間が経つと疑似ダンジョンは想定を超えた規模にまで発展、ホーム機能を悪用してプレイヤー千人以上がPKされるあの大事件だ。この時もそりゃもう大変な数の苦情がGMに入り、どれだけ対応AIのキャパを圧迫したことか。
その日からも彼のダンジョンはますます勢力を伸ばし、プレジャの監視はもはや業務の一部と化した。要は余計な仕事が増大したのである。
しかもその仕事量はプレジャがなにかやらかす度にさらに増えて……今イベントでの出来事でついに運営全体のスケージュールと共に主任のメンタルをもブレイクして現在に至る。
「誰だよ、隠し要素として補正控えめにした星界系ジョブを潜ませようとか言ったの!」
「主任ですね」
「そうだよ、俺だよ! 今すぐ過去に戻ってそん時の自分をぶん殴りてぇ!」
そう、星界術士のジョブをあのクエストに仕込んだのは他でも主任本人だった。
当時は「やっぱRPGならこういう隠し要素は要るよなー」なんて軽い気持ちで実装したものが後々に来て自分の首を絞めてくるとは、その時には夢にも思わなかったのだ。
「そもそもなんで一発で見つけるんだよ。星界術士とか隠しジョブの中でもかなりの発見難易度のはずだぞ」
「好感度に加えて、成長度とかいう隠しパラメータを一定値にした状態での完全攻略ですよね?」
「その条件でだけ見れる魔法『天鏡の水面』をしっかりと観察した状態でな」
これは魔法使いの基本である探求と観察。
最初の転職クエストからもフレーバーテキストに見せかけながら匂わせていたこの伏線に気付けるかどうか、まずこれがひとつ目の難問だ。
「しかも好感度は高過ぎたら逆にだめだろ?」
「正確には甘やかして好感度を上げるばかりだと、成長度が上がらないって設定なんだけど。大体そんな感じ」
「まあ、ちやほやされるだけで成長するとかそれこそ甘ったれた話ってことです」
そしてふたつ目の難問は重要NPCとはただ馴れ合うだけでは隠しルートに必須の成長をしないということ。
《イデアールタレント》では重要NPCには特に多様な隠しパラメータの数値を割り当てている。
この数値はお互い干渉しあい“これが高い場合、これは低下する”というのが何パターンか存在するのだ。
プレジャの例で言うなら、重要NPC:トゥエル・アリエルは好感度を上げる行動が必ず成長度を阻害する設定となっていた。
隠しルートの条件はシビアな調整がなされており、対象の好感度高過ぎるても、低すぎても隠しルートからは分枝してしまう。
さらに星界術士に限って言えばあくまで本当に必要なのは探求と観察だ。
もし仮に運良く数値があって隠しルートに入ってもトゥエル・アリエルが『天鏡の水面』を使う状況じゃなかったら星界ジョブは手に入らないおまけ付きときた。
つまりは、トゥエル・アリエルに対して完璧にバランスを取った回答、行動のみを返し、理想の状況に彼女を追い込んで初めて星界術士を手にできるのだ。
こんな詳細な条件に気付いた者は当然誰もいない。これが今に至るまで星界術士がプレジャ以外誰も入手出来ない理由だった。
「ってか、こんなの下手すりゃサ終まで見つかりませんよ」
「そういう意味だと、初見でパーフェクトの答え見せた彼にはある意味では感謝してもいいかもですね」
「あはは、データと手間が無駄ならずに済んだって意味なら確かにそうかも」
「いいわけあるか! そもそもあいつのせいで今どれだけ苦労してると……」
「そんなこと言ってますけど主任。このプレイヤーのお陰で新参プレイヤーも増えて、売上は大助かりじゃないですか」
「うぐっ」
やることがいちいち派手なプレジャはいつの間にか、ゲームのいい広告塔にみたいになっていた。
世の中悪評の方が広まりがいいのはいつものことで、それが《イデアールタレント》の知名度に一役買ったのは言うまでもない。
これはプレジャらが今まで陰湿な悪行や害悪的なマナー違反をして来なかったという前提があればこそだ。
プロ並みのプレイヤーにも恐れず立ち向かう、なんか凄いヒールゲーマー。というのが界隈でのプレジャへの共通認識だったりする。まあ、被害にあったものに無茶苦茶嫌われている点は今も変わってないが。
故に彼らのプレイを表向き妨害しないという方針を上は言い渡している状態なのだ。
「特にホームを使う人が増えたのがな」
「あれ課金要素の塊だから、人気が出ると儲かるわ儲かるわで担当の人たちは嬉しい悲鳴上げっぱなしだったわよね」
「そのせいで露骨な手出しも出来なくなったけどな!」
「主任……いい加減愚痴ばっか言ってないで手動かしてください」
「そんなことだと、明日も家に帰れませんよ」
「うぐぐぐっ……! はあー。そうだな作業に戻る。没頭してた方が気も紛れる」
彼らの言う通りと、少しのクールダウンした頭で理解した主任は作業端末へと向き直る。
「はあ……せめて暫くの間は大人しくしててくれよ」
その哀愁が漂う呟きを最後に主任の男はせめて一刻も早く終わらせようと仕事へと専念していったのだった。
ホームダンジョン!~新作ゲームで狙ってた強ジョブが削除された男の奮闘記~ モッコム @mocom90
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