第203話 本戦ー最終日・撃鉄と悪造の煙奏
隔離塔・東側
完全吹き抜け構造の塔内部はすでに硝煙と銃声が充満するリアルの戦場さながらの空間へと変貌していた。
「おらららららっ! どこだー! 出てこーいこんにゃろ!」
分断が行われ塔に隔離されてすぐ、ヨグは自分用に仕立てて来た光学迷彩で姿を消した。
こっちの塔にはヨグ自身が手掛けた兵器類が壁に沿って段々と積み上がれている。
さっきから壁面を沿って全方位、びっしりと数千にも及ぶ兵器類がだったひとりを葬るがため弾幕を張っているが、バッキュンはダメージを負うどころかそれら全部を迎撃し反撃まで行っている。
『憑依』スキルでこれまた数千の銃弾を自在に操り、精密射撃まで可能なバッキュンならではの対処法だが、それにしても人間業ではない。
「おっかねぇ、おい」
ヨグはそこに紛れて電波制御で兵器類を操り予定外のターゲット……バッキュンをどう仕留めるべきか悩んでいた。
それは偏にバッキュンの持つ異様なまで実力のせい。
そもそも人間単独でしかもただ拳銃で、高度に電子制御された多数の重火器、レーザー兵器と張り合うどころか押し勝ってる時点で頭がおかしい。
それに……。
「そこっ!」
高威力の大口径で何度も狙撃するも、どういうわけか先読みされて相殺される。
物量も不意打ちも、己の磨き上げた腕だけで跳ね返す豪胆さ。
こんな状況じゃなかったら、ヨグですら一手ご教授願いたいほどの惚れ惚れした銃の腕前だ。
正直、これほどの難敵はヨグもかつて出会ったことがない。
「こっちも本気でいくか。
あれ相手に半端な重火器や兵器など、あるだけ無駄だ。そう判断したヨグは万物吸牙
で設置した兵器類を瞬時に分解してエネルギーに変える。
「まずは小手調べだ」
光学迷彩でホバー移動を開始したヨグが大きく迂回し、バッキュンの背後に接近する。そして、迷わず発砲。
「ふっ!」
が、直前に手の銃口を向けたバッキュンも同時に発砲し、ヨグの不意打ちを撃ち落とす。
「姿は見えなくてもさ。殺気って言うのかな? 狙われてるーっての、あたし何となく分かるんだよね……特に銃を向けられてる時はより鮮明に、ねっ!」
バッキュンの両手に追従し、憑依銃が一斉に背後……ヨグが隠れた先を向く。
彼女の生まれ持った天性のセンスと幼い頃からVR戦場で積み重ねた経験則からの直感。バッキュンはそれのみ見えない敵を捉え、撃つ。
見事に弾が命中し鉄が拉げる軋音が響き、光学迷彩が解けたヨグの姿が宙に浮かぶ。
「ははっ! マジかよ、こいつ!」
これでも姿を隠すだけでなく、消音、消臭、死角から接近などあらゆる意識の隙間を突いたつもりだったヨグから呆れとも感嘆とも取れる笑い声が漏れる。
「武装展開」
もう同じ手は通ないと思ったヨグは武装を即座に近距離用のショットガン&ブレードへと変形。そのまま狙いをつける時間も勿体ないとばかりにショットガンを発砲した。
「おっと!」
その時はすでに回避体勢に入っていたバッキュンはショットガンの範囲から難なく逃れる。
が、本命はそこではなく彼女の後方。ヨグお馴染み、身体の一部を分離しての不意打ちが炸裂する。
「ごめん、そこは丸見えだよ」
しかし、まるで本当に見えているかのように見抜かれた分離体がリビングウェポンたちに撃墜される。
それを見にしたヨグは隠れるのをやめ、堂々とバッキュンの前に出た。
半端な隠密は無駄、むしろこれを相手には、そこ意識を割くことが集中の邪魔でしかないと判断したからだ。
「面白いスキル使ってんじゃねぇか。こりゃ見付かるわけだ」
「へぇ……分かるんだ」
「今度は勘どうのいわねぇんだな」
「ははは、そりゃいくらあたしだって直感であんな小さい的に精密射撃は無理だからね~。ってか分かってて言ってるでしょ」
「さーな」
ヨグの見抜いた通り、今のはバッキュンの新スキルによる成果だ。
バッキュン現在の使っているスキルは
効果は単純、自分の視線が通った場所にその視線を残せるというものだ。
現在もバッキュンは複数角度からの視線を見ている。
『残視』は俯瞰視点を作る、うまいこと視点移動してスコープ代わりするなどガンナーにおいて非常に有用なスキルだ。
だがバッキュンがもっとも『残視』の恩恵を感じているのは戦闘勘の向上にある。
バッキュンも別に膨大に増えた視界全て掌握してるわけではないが……優れた空間把握能力を持つ彼女にとって視界から得られる無意識レベルでの情報でも色んな精度を上げるのに十分役立つ。
だからこそ、ヨグの周到な不意打ちにあれほどの見事に反応出来たのだ。
「――だったら処理量を飽和させるだけだ。
それらを全ては飲み込んでヨグも勝負に出た。
凄まじい勢いで変形し武装の剣山と化したヨグはさっき吸収したエネルギーを全部吐き出すように、バッキュンへ攻撃の雨を降らす。
「そう来なくっちゃね! こっちも全力で『
それに対してバッキュンも一時的なに弾倉を拡張する『
「あははっ! すっごい量! こんなの初めてかも!」
もはや数万をも越えようとする銃弾、砲弾、光線。それに対するは黒混じりの銀閃の群れ。
武装の性能差により破壊力、面制圧力などはヨグが圧倒している。それにも関わらずバッキュンはそれら全てを撃ち落とし、逆に押し返していた。
砲弾には大技を束で、光線には闇を纏う弾で、大小を分け隔てるなく次々と叩き落とす。
鋼と巧のぶつかり合いは果てして……後者に手が上がった。
「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃーッ!!」
このまま押し返し、先にある敵を粉砕せんとバッキュンはさらに気炎を上げる。
そうやってバッキュンの意識が銃撃戦に向いた時、虚を突くべく大きくアームを迂回させた伸びたビームサーベルがバッキュンを四方から囲む形で迫る。
「残念、それも効かないよ」
バッキュンが身体を真っ黒な膜が包み込む。闇属性は使用者の身体を起点にして魔法を発生させる。そのせいか移動能力はほぼないが自分の身体になら瞬時に展開することが可能だ。
つまり闇属性は接近戦にこそ真価を発揮する。ビームサーベルは闇属性持ちにとってあまりにも相性のいい攻撃だった。
ビームサーベルがあっさりと闇に吸収され、霧散した直後。足元での地を砕く破砕音と爆発音が鳴る。
「激しい攻防で集中力を削り、あたしの感覚を潰してから真下で狙撃……見事だけど、あたしが一手上かな」
バッキュンの『残視』の唯一の死角を突いた地中狙撃。
念入り意識を削いだ状態で行われた研ぎ澄ましたタイミングでの奇襲、それらも虚しくバッキュンは服の下に潜ませていたリビングウェポンで迎え撃ち、相殺する。
「このあたしが弱点に備えてないわけないでしょ」
「参ったな……一応、これが俺のガンナーとしての全力だったんだが」
「うん、なかなか凄かったよ! ま、でもあたしが相手だったのが運の尽きだったね。というわけで、これでトドメッ!」
エネルギー残量も底を突き、オーバーヒートで身体のあっちこっちで煙を上げている見るからに満身創痍なヨグへと宙に浮いているひとつの銃口が向く。
そして無慈悲にも銃弾はバッキュンを穿つ。
「がはっ!?」
あまりにも予想外の一撃にバッキュンが頭は困惑に囚われる。
何で、暴発? 操作ミス? いや、さっと状態を見た感じどっちもあり得ない。
「なにが……」
「認めてやる。てめぇは確かにガンナーとして俺より遥かに上だ」
「ッ、この!」
もう使い物にならない躯体を切り離し、質量を大幅に減らしたヨグが蹲るバッキュンの前に近寄る。
それをチャンスとみたバッキュンはリビングウェポンたちをけしかけヨグを狙い、発砲。
「んきゃあ!?!」
が、その弾がまたも彼女の意思を逆らい自分自身を痛めつける。
雨あられと降り注ぐ銃弾は脚を腕をと砕き、欠損させてバッキュンを行動不能状態に追い込んでからようやく止まった。
「どうやって……」
「指先一本。俺とやりあいながらそこまで気を配るのは無理だったみてーだな」
「は? 何言って……」
「こういうことだ」
ヨグのピンとの伸ばした指先に小さな、それこそ指に乗るサイズの超小型ドローンが集結し乗った指へと結合する。
そして『残視』を通してドローンを間近で見れるバッキュンは気付いた。そのドローンたちが恐ろしく精巧に作られた生産ツール類の集合体であることを。
憑依術士系ジョブの力でバッキュンのスキルの影響まで受けれる憑依銃であるが、判定の上では装備中ではなく捨てられている状態であったが故のカウンター戦術。
「見ての通り、俺が改造に必要なツールはここにほぼ詰めれる。だからそれだけありゃ、んな旧式銃改造するのに数秒もいらねぇんだよ。ま、流石無駄に数が多くて多少手間は掛かったがな」
「そんなっ……馬鹿げたことで! このあたしに!!」
それにしてやられたバッキュンの口から屈辱の声が怨嗟として流れる
この戦術はバッキュンのガンナーとしてのプライドをこれまでないほどに傷付けた。
よりによって自分の銃撃で倒されるなど、己が才を誇りに思う彼女には許されることではなかったのだ。
「お前みたいなやつは、ガンナーじゃない!」
「はっ、悪いが元より俺の本領は
「『無器』……ヨグっ! 許さない、絶対に……っ!」
素性など滅多に明かさないのヨグ言ったそれは惜しみない称賛……最大の尊敬の証とともに。
バッキュンの銃を操り撃ち倒すという、最大の侮辱でもって葬ったのだった。
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