第202話 本戦ー最終日・分断

隔離塔・西側


魔石をふんだんに使い、そう簡単に出れないように魔法の影響すら遮断した塔の中。


そこで望まぬ分断が行われた後の俺はというと……。


「ふっ! はっ!」

「だぁ、のわ!?」


隔離された塔からカグシにひたすら追いかけ回されていた。


……くっそ、最悪だ。


よりによってカグシと一対一なんて一番避けたかった展開になってしまった。


と言っても他のメンバーたちはそんなに心配ない。予定の戦力配置はあくまでそっちが有利になるからってだけだ。


あの人達に限って違う配置になったからとそう簡単に負けるとも思えない。何なら涼しい顔で先に勝っていそうまである。


ファストだって心配ない、今はもうモルダードに見劣りしないほどに強くなっているんだから。


問題は俺だ。ぶっちゃけタイマン、それも『Seeker's』となんて想定になかった。


……なんであんだけ策を弄しといて俺だけピンチになってるんだよ。


しかも、だ。全員で全員、俺を倒す手段はしっかり用意してたようでカグシにも『リジェクトシールド』が破られた。


解放リリース。ふっ!」


この前も聞いたキワードらしきものを口にしたカグシが一振り、大剣を振り下ろす。


何回も同時にぶつかったような、重なって聞こえる激突と爆発の音。


それが響いた後、『リジェクトシールド』は呆気なく砕け散る。幸い『陽火団』から奪ったリソースがまだ余ってここの地下に潜ませているのですぐ修復されるが、これじゃなんの慰めにもならない。


「バフを、いや……蓄積ストックして、必要な時に解放するスキルか」

「ん、狂蒐者ベルセルクリーダーのスキル『狂蒐』。狂気をも束ねるもの」


知られてもどうにかなるものでもないとばかりに、カグシがあっさりとネタばらしをしてきた。


スキル『狂蒐』……今まで文脈からしてあのスキルは恐らく事前に自身を、正確にはその時のアバターを複製し蓄積する。


そしてその蓄積を開放した時にその溜めたアバターはカグシ本体に重なって存在するようになる。もちろん、重なった1体1体がちゃんと判断を持った状態で、だ。


だから1回の攻撃が多段ヒットする。


簡単に言えば自分を溜めて偏在化する、恐るべきスキル。


つまりそれは物理ダメージでは最高と言わしめるカグシが何人にも増えて襲いかかる来るも同意。『リジェクトシールド』をどれだけ重ねても突破されるわけだ。


まだ4thステージは発見されてないはずだから……ジョブは狂乱戦士ベルセルクの派生。


そういや戦士系のHiddenMission関連ジョブは真ルート条件が特殊なせいか何次職か関係なく受けれる、多分性能からみてそれ―― というようなことをヘンダーが前に見てた時に分析してくれた。


そん時はこの人ほんとに油断も隙もないな……と呆れるばかりだったが、実際に目にするとそんな余裕は一瞬で吹き飛んだ。


よくよく考えてみればカグシのパワーにそんなことされたら瞬間火力は余裕でリミットダメージをぶっちぎる。だって判定は多段ヒットになるみたいだからリミットダメージの枷はないも当然だ。


「くっ! 仕方ない!」

「むっ。逃がさない」


幸いこの近くには前から仕込みがされている。


等内部は迷路構造のバリケードでみっちりと詰まっている。立体的に組み立てた3次元の迷路でまともに立てる床はほぼない。


本来ならヘンダーが使う予定の場所で、透明化装備で隠れて距離を取り壁越しに消滅属性の範囲攻撃を連打する算段だった。


俺だとそんなこと出来ないので迷路を壁に上方向の道へと『フライ』で上昇するだけになる。これだけでも普通の飛べないプレイヤーからしたら厄介のはずなのだが……。


「ほっ、ほっ!」

「なんで、素のフィジカルで、飛行してるこっちに追いつけるんだよ!?」


少ない足場やたまに垂直の壁面をも蹴りながら、カグシは何でもない風にこっちを追ってくる。


よく見たら長い跳躍の時には像がブレているので例のストックを小分けに使っているのだろう。


《イデアールタレント》最高のパワーキャラクタのカグシと、狂蒐者ベルセルクリーダーの『狂蒐』は相性が良過ぎる。


正直、相性以前にこれと1対1で勝てるやつがそうそういるとは思えない。


今すぐ追いつかれる感じではないが……正直、このまま粘っても俺が独力でカグシに勝つ可能性はない。


なら隔離塔から出て逃げろって話だが、この隔離塔の外壁は『ザ・ケージ』の魔法陣にちょこっと手を加えて物凄く頑丈にしてある。


その分だけ使われている魔石の量も膨大であり、使用者である俺ですらこれを解すには時間がかかる。


そんな隙を見せたら即ジ・エンド。カグシの大剣で真っ二つにされる。


作戦の都合上、“俺が死ぬ同時に”拠点コアの居場所もバレるのでそれは不味い。


だから今から俺の仕事は他の誰かが駆けつけるまでの時間稼ぎ。


頼む、誰でもいいから早くこっちに来てくれ!



_____________________




・スキル『狂蒐』


自分自身をストックし好きな時、好きなだけ解放出来る。


解放するとストックした時のMPを除く能力値を持つ幻影がストックを解放した数に応じて自身に重なった状態での攻撃判定を生じさせる。


防御判定に関しては段々重ねの構造で受けることになり、ストックを犠牲してその分のダメージを軽減することも出来る。


1ストックが溜められる最大時間は60秒。

ストックの時間はこの内なら自由に調整可能。

それぞれのストックはストックした秒間まで重ねられ、それが過ぎれば消える。


※デメリット、弱点


ストックする際にはその時間だけ、アバターが完全行動不能となる。

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