第201話 本戦ー最終日・怪異動乱
塔へと続々と強敵どもが突き進む中、突然と現れたバケモノ共がその背を突く。
「な、お前ら……!」
「ふはははっ! すまんな皆の衆、悪いが死んでもらうぞ!」
ふふふ、慌ててるな。『
まあ、他のクランも『
俺も別に贔屓して怪人に疑似隕石を撃たないなどしてないし、何よりヨグとアガフェルが大喧嘩でどっちがどっちの味方かあやふやなっていたしで確証までには至れなかったのだろう。
それにまさかあの場の雰囲気でこちらに付くクランがあるとは思わなかった、というのもあるか。
みんなあの生意気な野郎ぶっ飛ばそーって空気バリバリだったからな。
俺がそう仕向けたんだけど。ここは普段からの全方位ヘイト稼ぎが功をなしたってとこだな。
と、言う訳で下の戦闘を見下ろしてみる。
「うら!」
「ほっほおー!」
「きゃあー! Gが、でっかいGが飛んでるぅー!きもきもきっもい!」
重力場へと乗り込んだ怪人たちが縦横無尽に塔の宙へを飛び交い、他クランの行く手を阻む。
動物っぽいの、虫っぽいの、ちょっと形が崩れた不定形と色んな異形のものたちが空を舞う光景はなかなかにカオスだ。
特に面白いのがスライム怪人が身体を最大限広げての進路妨害とか、ゴキブリ怪人がわざと嫌悪感に震えるプレイヤーに嫌がらせとかのやつ。
当然他のクランも『怪人の巣』と必死に距離を取ろうとするが……そうはさせんよ。
「何でこいつら、この重力場の中で先回り出来るの!?」
「教えるかっての! 『大滑』っ!」
「うわー!?」
ゴキブリが苦手なのか弾幕を張りながら真っ先に逃げていたバッキュンが重力場に乗って正確な位置に先回りしていたスリップフロッグの掌底に弾き飛ばされる。
実はこの重力場にはある細工がされてある。と言ってもそんな大したものではなく、重力場に添って紫外線などの不可視光が走る仕組みになっているのだ。
『
つまり相手は透明床で戦ってるのにこっちだけそれが見てる、みたいな状況ってことだ。
こうなれば怪人たちの協力の下で一時的だが、敵の立ち位置あるが程度こちらがコントロール出来る。では次の段階へと行こうか。
「ヘンダー、ヨグ、アガフェル。予定通りに」
「「「了解(ですわ!)」」」
「ファストも……行って来い!」
「きゅっ!」
今まで各所で待機していた『
アガフェルは分断されたバッキュンに。
ヨグは慣れない空中戦で奮闘していたカグシに。
ヘンダーは今も必死に他の仲間へと指示を飛ばすメキラに。
ファストはマイペースに疑似隕石を食い止めていたモルダードに。
無事それぞれの標的に組み付いたことを確認した俺は魔力を高めて、塔の魔法陣伝いに地下に潜めていた魔術を起動させる。
「なんの音だ!」
「外よ!」
「塔が、4つも生えてきた!?」
「俺がいつ、塔がひとつだけだなんて言った」
そもそも『ザ・ケージ』は塔を瞬時に建造することも含めての魔術だ。今の塔も事前に作っておいたものを地中に隠してただけだ。
魔法陣の複写出来るスタンプで数作っておけば同じ塔の4、5つは事前に軽く作れる。余った時間で中の仕組み塔をそれぞれに未調整出来るぐらいに余裕でな。
なお、わざわざスタンプを使うのは『魔刻』は魔法を通してでもなんでも俺がスキルを発動して直接刻む過程が必ず要るのでプリンターとかは判定的にアウトだったからだ。
実は『ディテクト』の魔術も毎回『真鏡』の裏面にスタンプを押してたりする。『真鏡』は解除で丸ごと消えてリセットされるので面倒だが仕方がないのだ。
と、それはいいとして何故このタイミングで塔を建てたかというと……。
「う、おっ……身体が、引っ張れる!」
「ぐっ……!」
「だめ! このままじゃ分断されるわ!」
塔が発生させゆる重力場、それを狙ったプレイヤー……『
皆と相談した結果、今考える限り一番相性がいい戦力配置がこれ。このまま分断させて、塔に隔離させる。それで大分こっちが大分有利になる。
まあ、俺がメルシアと『陽火団』と『快食屋』残党を同時に相手することになるのはちょっと不安だがそこは『
最悪、他のメンバーが戻るまでの時間稼ぎをするでもいい。
―― きっとここで無意識に俺は油断していた。何処か、何度か翻弄したクランに対して侮る意識があったのだろう。
何より……『Seeker's』が最強たる所以を俺はあまり分かっていなかったようだ。
「すぅっ……ふぅー。はっ!」
メルシアの短い深呼吸が耳に入る。俺がその光景を見ることが出来たのはだったそれだけのお陰、偶然の産物でしかなかった。
目線を忙しなく動かしてメルシアが近くの壁を蹴り空中で急旋回し、別の重力場へと飛び込む。
直後凄まじい勢いで重力場に乗って移動するメルシアが向かった先は疑似隕石、その着弾地点の方角だったことに俺は目を丸くする。
「な、何をしてるんだあいつ!」
衝撃波がメルシアを飲み込む……寸前にメルシアは体重移動でどうにかブレーキ掛けて衝撃波に背を向けた。
案の定そのまま吹き飛ばれる、が。そこから直に見てる目を疑うほどに異常な光景が繰り広げられた。
メルシアが飛んだ先でまた隕石が落ちる。同様に弾かれる。
その先でまた隕石が落ちる。弾かれる
落ちる、弾かれる。落ちる、弾かれる。落ちる、弾かれる。落ちる、弾かれる。落ちる、弾かれる……。
ピンボールが如く挙動で宙を飛び交い……メルシアの身体は仲間のひとり、カグシの方へと流れる。
「狙ってやった、のか」
んな、馬鹿な……疑似隕石の軌道はランダム射出と俺が干渉での射出を織り交ぜている。それを読んだ……いや違うあの反応はまさか、見てから測って判断してるのか!? 隕石がどう落ちてどう衝撃波が広がるかまで全部!
あ、ありえねぇ。隕石そのものは一応音速超えてるんだぞ。いくら仮想世界とは言え、どういう反射神経、思考速度してればそんな真似できるんだ。
メルシアがあまりの無茶苦茶ぶりに俺が呆然としてる間にも事態は動ていた。
「カグシィー! 合わせろ!!」
「んッ!」
メルシアの腹に響く呼びかけに意識が現実に戻る。
接触したカグシとメルシアは短い首肯だけで通じ合ったのか、お互いに構え……同時に動く。
メルシアはノックバック特化構成の
凄まじい衝撃音鳴らしてふたりが双方に弾かれる。
結果、カグシは近くのバッキュンの方向にある重力場に入り、メルシアは明後日の方向へと飛ぶ。
「まったく、うちのリーダー相変わらず無茶するね! あたしも行くよカグシっ」
「ばっち、こい!」
飛んでくるカグシに呼応して一瞬で体勢を整えたバッキュンがインベントリから銃の種類を換装。
バッキュンはかなり大口径に見える銃器を両手に各々持ち、カグシの大剣の腹に足を乗せる。そのまま銃口を大剣に向けて……
「「
またの激突音が轟き、さっきの再現でバッキュンとカグシが互いに弾き合う。
今度はバッキュンがヨグの、カグシがヘンダーとメキラの居る重力場に乗る。
「メキラ、がんば」
「え、カグシちゃんなにをきゃああああ~~!?」
と、同時にメキラをひっ掴んだカグシが弾かれた勢いも載せて彼女をぶん投げる。
そのままメキラはアガフェルの重力場に飛び、カグシがその場に残る。
「おっと、カグシ。そいつは俺の獲物だぜ」
そのタイミングで衝撃波を利用し、ずっと鋭角的に宙を舞っていたメルシアが背後から俺に襲いかかる。
メルシアの居場所自体は『ディテクト』で常に追っていたので俺は咄嗟に『リジェクトシールド』を、念の為に集約させる。
「―― 残念、無駄だ」
「なっ、なんで!?」
だが、メルシアの剣は展開した『リジェクトシールド』を、あっさりと引き裂いた。
いつもの爆発音もなく、まるでエネルギーごと消えたみたいに。
「悪いがあっちと選手交代してくれ」
目の錯覚か、やけに煌めいて見えたメルシアの刃が幾重にもテクスチャーをブレさせて迫る。俺はどうにか杖を寄せてガードだけはしたが、それが限界だった。
ガードした瞬間俺の身体はメルシアの武器のノックバック効果で吹き飛ぶ。それも
「身体が、動かない……!」
ノックバックはされている最中に一切のアクションが取れない。
そのせいで抵抗もままならず飛ばされた俺は……。
「ヘンダー、避けろ!」
「え、今度は後輩くん!? ちょ、間に合わなにぎゃっ!」
……ヘンダーの方へと真っ直ぐに突っ込んだ。皮肉にも今度は『リジェクトシールド』はしっかりと作動し、爆発を起こしヘンダーを吹き飛ばす。
こうして俺はヘンダーと入れ替わる形に重力場に入り、塔の魔術を止める間もなくこっちの思惑とは真逆の分断が行われたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます