第200話 本戦ー最終日・乱引の回廊

塔の中、果てしない螺旋階段が頂上まで繋がる構造になっているそこに最上段、外とも繋がってる内外を同時に見れるバルコニーにて。


「おうおう、続々と来た!」

「きゅうきゅ!」


塔へと雪崩込む錚々たる面子に眺めながら俺とファストは楽しそうな声で彼らを出迎えていた。


「おらァー!! 退っどあわわああああ~!?」


あ、早速馬鹿が1匹釣れた。


なんか見覚えがあるような、ないような全身鎧の男が無警戒に塔内部に躍り出たと思ったら、瞬く宙へとその身を攫われる。


「どうなってんだこりゃぁあああ~~!?!」


星属性対策をまともにしていないのか、ねじ曲がった重力にされるがままに宙を行ったり来たりする聖騎士もどき。


これは塔周りにある『スターリング』へ当てる重力場を敢えて大きくして、塔の内部で交差する設計にした影響だ。


しかも複雑に絡み合う重力場は『スターリング』の照準運動に連動して常に動いているので影響予測は困難を極める。


今この塔は言わば重力の暴風地帯。まともな対抗手段なくては立って歩くのさえも困難な魔境だ。


「いちいち喧しいな、あいつ。よし出番だ、早く落としてこい」

「「「きゅうー」」」


それに加えてこの環境に適応させたキメラたちも投入する。


星属性の魔石を使い作戦したフライラビットたちが肥大したうさ耳を羽ばたかせ重力場に乗って泳ぐ。


見ての通りフライラビットの耳は重力に干渉する能力を持つ。そして耳が接触した瞬間それを軽くし、想像以上の膂力を発揮して対象を吹き飛ばす能力もあるのだ。


聖騎士もどきはあっという彼らに間に包囲され、見事に大きなうさ耳でドッジボールにされていた。


「が、ぐお、くっそ畜生どもが……ごはぁっ!?」


うん、面白いぐらいに翻弄されているな。慣れない環境だからだ格下のモンスターですら手間取っている様子だ。


こいつなんでひとりで突撃して来たんだろ。もういいや、あっちは放置。


もう他のクランが来たっぽいし、そっちを見よう。


「みんな~、せーので行くわよ~」

「大規模魔法よーい。全員一斉に、構え!」


む、あれは『陽火団』か。見たところ複数人での協力して組み上げる大規模魔法で一気に塔を削るつもりだな?


あんなに警告したのに塔を破壊する方を選んだか。


ならばよろしい、こっちもそれ相応の手でいかせてもらおう。


塔に所々開けたある大窓の近くに『スターリング』の射出口をセットしてからの―― 発射ファイヤー


窓を通って内部に飛び込んだ疑似隕石は狙い違わず『陽火団』へと降り、発射寸前の魔法を粉砕する。


「きゃっ!? 疑似隕石っ、しかもこんな室内に!」

「嘘だろ、自分で塔を壊す気……ってあれ?」

「びくともして、ない?」


当たり前だ。塔の材質は限界まで圧縮して強度を上げた土壁で出来ている。


それに加えて多少の傷は勝手に直る魔法陣を組み込んでいるのでこっちリソースが尽きない限り壊れることはほぼない。おまけに全体に『魔刻』で書いた魔法陣が行き渡って図らずも補強になってるしな。


自動修復もいつかは魔石切れにはなるが現在リソース争いをすると確実にこっちの勝ちなので実質この塔は破壊不能ってことになる。


と、俺が『陽火団』と睨み合っている間に次のお客さんの登場だ。


「お、既に結構いるな。俺たちで3番手みたいだぞ!」

「む、ちょっと遅れた」

「もー、メキラがもたもたするから出遅れちゃったじゃん」

「無茶、言わない! あんたらが早すぎなのよ!」


『Seeker's』のいつもの4人と、サポートで何人かが来ているな。


「ふぅ、やっと着いたっすね」

「ここを突破する料理構成に多少手間取ってしまった。これだから遠距離魔法は苦手だ」


それに続いて『快食屋グルメ』のモルダードと料理班のものたち。


「きゅう!」

「そう慌てるな。心配しなくてもちゃんとモルダードとは戦わせてやる」


宿敵の入場に気が急いだのか、ちょっと前のめりになるファストを宥める。


と、悠長に見てる場合じゃないな。まずは仕掛けないと。


塔の魔法陣にちょろっだけ干渉して『スターリング』の一部を意図的に動かし、ただ今踏み込んで来たものたちを重力場に入れる。


「うおお!?」

「身体、勝手に浮く!」

「あはは! 何これ、ちょっと面白いー!」

「ちょ、あんたら楽しんでないで助けさいよー!!」


『Seeker's』の連中は……ちっ、メキラがちょっと目を回してるだけで他は健在か。秒で適応して襲いかかった兎モンスターを落としまくってる。


あいつら何で重力場の方向をシャッフルしてるのに即応出来るんだ。まったくどういうPSしてるんだよ。


で、『快食屋』の方は……げっ、何あれ。


モルダードに追従する料理班は問題ない。問題は腰を逆にもグネグネと曲げて重力場を魚が如く泳ぐモルダードの方だ。


「ふむ、問題なく行けるな」

「いや、どっちかってとクラマスが一番問題っす……」


どういう構造になれば人間があんな風に曲がるんだよ。


試しにちょっとモルダードに周りの重力場を激しくかき回してみるも、そのたびに力に逆らわず全身を撓らせ完璧な体制に移行してくる。


これ思いっきり不定形とかならそうでもないが、下手に人体のままだから余計に気持ち悪いな!


とは言え動きを阻害してることに違いはない。そのまま『スターリング』を打ち込み殲滅を狙う。


「お、来た! メキラ、バッキュン!」

「はいはい、分かってるわよ!」

「よしっ、やっとあれに吠え面かかせてやれるね!」


メキラがお得意の魔法の多重展開で疑似隕石の勢いを落とし、そこへ前に見た黒い弾丸が撃ち込まれる。


するとどういう訳か疑似隕石の速度がガクンと落ち、そのままただの石になって静かに落下した。


『陽火団』との戦いでもチラッと見たが……闇属性はどうもエネルギーを吸収する特性があるようだ。わざわざ銃弾に纏わせて来ているのは何か理由があるんだろうと気にはなるが……今は後回しだ。


「1、8、3番の輪から反応あり! 方角3、4、10時と高さ10、32、78……来ます!」

「おーけよ~……えいっ!」


次に『陽火団』、こっちが一番鮮やかに対処してるって感じかな。


『陽火団』は奇襲で魔法を散らされて以降は『スターリング』から目を離していない。自分たちに来そうな軌道の疑似隕石が飛び出すと同時にレーザーを撃って消し去っている。


流石にレーザーを早撃ちされたら俺の腕だと追い付けない。それに最高の魔法使い集団と言われるだけはある、魔法の感知が非常に正確だ。ひとりであれらを騙すのはどう考えても無理だ。


で、一方『快食屋』の方はというと……これまた奇想天外なことになっていた。


「がぶっ!」

「うっそだろ、お前……」


思わずそんな声が出た。


疑似隕石を見た瞬間、モルダードが目にも留まらぬ動きで飛び出したまでは分かる。


が、その疑似隕石を止めるというあまりにも荒唐無稽な光景に呆然とした思いしか湧かなかった。


衝撃波をどう耐えてるだとか、それで何で頭が吹っ飛ばないんだとか、そもそも石を食ってんじゃねーとか……突っ込んだら切りがない。


他はまだ俺が理解出来る分マシだが、こいつだけは本当に同じ人間な気がしない。


「ぎゃあああ!? クラマス、こっち来てっすーッ、死ぬぅー!?」


あ、ちなみに料理班はモルダードを盾してしぶとく逃げ回っている。


ただモルダードひとりだと限界があるのでたまーに掠って飛んでるのがいるけど、今のとこ奇跡的に死亡者はいない。


それにしてもどれも対応されてるか、お陰で重力場も利用してどんどん上に登ってくるな……。


ちぃッ! 俺が同じ状況なら耐えれる気がしないってのにやっぱどいつもこいつもバケモン揃いだ。急造したキメラは約1名以外には足止めにもなっていな上に必要最低限の数は以外は既に素材に変えているから数もそんなにいない。


なお、ボロボロになりながら地味にまだ生き残ってる聖騎士もどきは見なかったものとする。何か出来るわけでもないのに無駄に頑丈なやつだ。


まあ、いい。俺も何度か見せた技が対策されてないと思うほどおめでたい神経はしていない。


これは予想済み、挨拶みたいなもんだ。


そろそろ頃合いだし、派手に登場してもらおか。と、俺は事前に決められた合図の通りにいくつかの疑似隕石を上空へと放ち狼煙代わりとする。


直後。塔の入り口付近に今まで妖術で隠れていた怪人集団が姿を表して……


「―― ふははは! ここで我ら、『怪人の巣ヴィランズ』参上なり!」

「おら、いくぞ野郎ども!」

「なっ!?」


……百鬼夜行が如く押し寄せ、背後から他のクランへと攻撃を開始したのだった。

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