第199話 本戦ー最終日・凶星乱舞
銀河の上に降り立った金毛が夜空に煌めき、その舞いに合わせるように星が降る。
「にぎゃああああぁあー!?」
「隕石が追ってくるぅぅぅー!?!?」
「こんなむりぐぁああああぁ~!?」
それまで全面に防御を集中するなりして疑似隕石を防ぐか受け流していたものたちから悲鳴を上がる。
アガフェルが『運技・神楽』を発動させるとともに『スターリング』の疑似隕石たちは不可解の力により軌道を曲げられ、彼らの守りをいとも容易くすり抜けていったから無理もない。
俺も張った防壁に真っ直ぐ来てた隕石が何故か曲線を描き、横面叩かれた絶対に泣く。
『ふふ、ふふふふふ! ああ、ああ愉快ですわ。最高ですわ! スポットライトは破壊の星、エールは絶望の悲鳴……妾は今、嘗てないほど昂ぶってますわ!』
アガフェルのその言葉に偽りなしと証明するかのように、舞い動作は仰々しくそれでいて熱っぽいものヒートアップしていく。
相手に己の興奮を戦いつけるような、そんな荒々しくも流麗な舞いに多くのプレイヤーが視線を知らず知らず奪われ……気付けば破壊に飲まれる。
俺はアガフェルの踊ってる前で目についた『スターリング』にちょちょいと干渉して、あっちかなーって適当に撃っておけば勝手に当たるのでこれほど楽な作業もない。
「こうしてると気分だけは指揮者だな」
「ふふふ、星を手繰る指揮者なんて……なんともメルヘンチックですわね」
と、まあ塔の上の俺たちはこんな冗談言うぐらい気楽なもんだが……それに比例するように下は地獄絵図だった。
一網打尽にならないために散り散りになって逃げ惑っていたどこかのグループが散見される中、ドローン側のマイクがどこかの怒鳴り声を拾う。
「っ、駄目だ。塔から目そらせ!」
「分かってるけど、見ないでどうやって隕石避けんだよ!?」
「そんなのこっちが知りた……ぐああああぁ!!? 」
と、こんな感じの言い争っては轟音の中に消える声に……。
……今更視線を切ってもみんな絶賛大混乱中だからあんまり意味ないし、そもそも隕石を撃ってる俺がアガフェルを見てるので多少のマシにしかならない。
と、心の中で突っ込む。
それから星の蹂躙が大地を削りながら、悲鳴を飲み込んでいるとようやく少しは落ち着いたもの達が出て来た。
「そ、そうだ地中に隠れれば」
もう少し冷静なグループはどうにか打開策を捻ることもあるが……んなもん対策してない訳がない。
「ぐえぇええー!!」
「地中も駄目だ! どこも兎モンスターどもの巣になってる!」
「うわ……エッグ。あれ身体半分ぐらい噛みつかれてるよ」
「地中も野郎のテリトリーか。こっちはどうにか地べたを這って行くしかない!」
「行くってどこに!?」
「んなもん本丸しかないだろ」
「まさか……塔に突っ込むつもり! どう見ても罠よ」
やっとその考えに行き着いたか。でもまだ悩んでる風か?
あれでもし外で粘る方を選ばれても困るし……ここはもうひと押してさらに追い込んでいくか。
疑似隕石の着弾地点を調整して俺たち以外の5つのクラン拠点へ集約させ、破壊に取り掛かる。この両の『スターリング』を全部制御するのは当然無理だが、少量に少しずつを干渉して未調整くらいは出来るのだ。
「拠点が、壊れる……!」
「くっそ、このままじゃコアまでやられる!」
「仕方ない……コアを持って外に出るぞ。お前ら、退場が嫌ならもう肉の盾になって……塔の真下まで突っ込む!」
今まで防壁を頼りにコアを守っていたグループもこれで外に出ざるを得なくなった。
ここでちょっと牽制しとかないと。
『あ、ちなみに言っておくがコアを何処かに隠して……とかは考えない方がいい。俺たちは随時お前たちを監視している。それらしい素振りを見た瞬間、そのものたちに隕石を集中させる。今脱略すると……イベント終了まで入って来れないのにな』
時間加速しているゲーム内12時間……現実で30分の間、本丸である拠点コアが落ちたクランは丸ごとサーバーから一時退出される。
そしてすでにイベントの残り時間は12時間もない。ここで落ちたら実質永久退場だ。
これでやっと一部の実力者を除いて殆ど崖っぷちに追いやった感じか。
「ここで最後のひと押しと行きますか……『あーあー、聞こえるかな諸君ら』」
マイクに再度スイッチを入れ、未だに星から逃げているプレイヤーたちに告ぐ。
『サプライズに大変盛り上がってるようでなりよりだが……いい加減休みたいというものも出ていることだろう。そこでだ』
俺は勿体つけた言い方で一度言葉をきり、今から話す内容を整理して続ける。
『そろそろ気付いたことだと思うがこの隕石の嵐は中心部……つまり俺たちが居るこの塔にだけは降らない仕組みになっている。―― そして隕石を止める方法が2つある』
末尾の言葉にプレイヤーたちの耳目がスピーカーに注がれたタイミングを見計らい、更に続ける。
『ひとつ、この塔を消し飛ばすこと。ああ、当然俺たちは全力で邪魔させてもらうぞ。知ってるの通りこちらは火力勝負なら大歓迎だ』
そんなアホみたいな砲台用意して白々しい、という猛烈な非難の視線を全方位から感じるがそんなもんは無視だ。
俺たちのクランの誰ひとりも対等な勝負などするつもりは毛頭ない。
『ふたつ、動力源……ここにいる魔石と俺自身を塔の影響圏から分断すること。ま、手っ取り早く言うと俺たちを全員殺して魔石を分捕ればいいってことだ。お宝たんまりで気分もスッキリになれる、一石二鳥の素敵なプランだな』
それがそう簡単に出来ればだけども。
塔の中からは本当に決戦だ。
少なくともそのつもりで挑む準備をして来ている。
いつも通り……俺のテリトリーに入ったものは皆殺しだ。
だが、慎重にせよビビったにせよこっちに来ないものもいるかも知れない。
だから、これで詰めだ。
『まあ、でも別に第3の選択としてこっちがガス欠するまで亀のように縮こまっているという手もあるが……それも好きにしたまえ。――そんな腑抜けは、相手する価値もないからな』
つまり、「ここまでコケにされといてお前ら最後には芋って勝つの???」って暗に言っているのだ。
そして、そんなこと言われて黙っていられるほどここに集う連中のプライドが安くないことを俺は知っている。
『さあ、来い! ここがこのイベント最大の舞台となる!』
それはここが約束の地であるという宣言。
これで最大の標的たるあのクランたちここに来ざるを得ない。
もし来なければ俺から逃げ出した、と大々的に宣伝してるようなもんだからな。
どっちもそんな結末を望んではいまい。
「な、なっ、があぁ……! 上等だこの野郎!」
―― いの一番に沸点の低い聖騎士が飛び出す。
「ふむ、時が来たか」
「これがヨグが俺様たちに言っていた合図か。ど派手なこった」
「ふははは! これは楽しくなりそうだ! では皆の衆、手筈通りに行くぞ!!」
「「「おうッ!」」」
―― 異形のものたちもが思惑を胸に蠢きだす。
「ふ、やっとか」
「まったく、約束した割には遅い過ぎっす」
―― 異質の戦士とそれに付き従うものたちが立ち上がる。
「どこまでも腹立つ方ですね~」
「ほんと、舐めた真似を……今度こそ、あいつにギャフンと言わせてやりましょ!」
「ええ、もちろん。どの道このまま黙っているのは私の性に合わないし、ね~」
―― 復讐に燃える魔法使いたちは怒りを込め、憤然として目的を睨む。
「はは、言うな。どうやら奴さんの言ってた“舞台”とやらも出来たみたいだし……俺たちもそろそろいくか」
「そうだね。どうせそのつもりだったし、今度こそ目に物見せてやる」
「ん!」
「みんな、やる気満々ね。……ま、私も人のことは言えなけども」
―― 最強の名を持つものたち、あくまで楽しげに……己が敵に立ち向かう。
イベント最終日。残りの12時間を少し過ぎた今この時をもって。
6クラン全ての役者が、決戦の地に集う。
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