第10層 凶星編

第198話 本戦ー最終日・銀河の巨塔

視点戻ります

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―― 人工の星々が無数に瞬く、巨塔の頂上。


複雑な魔法陣が壁面を這うそこで魔法使いと黒騎士の2人と銀毛の兎1匹が地上を見下ろし高笑いを響かせていた。


「あーはははっは! 壮観も壮観! 大絶景だな!」

「きゅきゅう!」

「うっはー! 何これ、凄いよ後輩くん!」


今己が居る塔を囲む銀河を彷彿とさせる流星の群れに感嘆の声が上がる。


そこから時たま流れ星が飛び出し遠くの大地を、俺たちの声をも掻き消す轟音を鳴らして削り取る。


まさに青天の霹靂にあった他のプレイヤーたちが拠点から慌てて飛び出し、向こうに見える破壊の輪を呆然と眺めている。


自分でやっといてなんだが、すごい光景だ。


「うむ、上手く作動してるようでよかった」

「地下でこそこそと何か作ってたのは知ってたけど、まさかこんなのとはねー。後輩くんは見てて飽きないよほんと」


みんな気になっていることだし、この塔について説明しよう!


この銀河の正体は何を隠そう、あの流星魔術『スターリング』の集合体なのだ。


それら数千、もしくは万をも超える数この塔を取り囲んでこのマップ全体に破壊を振り撒いている。


「にしても、こんなのよく作ったね。しかもだったの2日で」

「そこはイベントが始まる前から色々と仕込みをしていたんだよ」


流星の銀河を維持しているこの塔は、巨大な魔法陣を内包している。


これで『スターリング』の制御を魔法陣任せにし完全オート化して決まった挙動しか出来ない代わりにリソースの限りいくらでも数を積めているって寸法だ。


この塔を建造するために色々と試行錯誤したものだ。


それにも当然ヨグが協力してくれたが、試作のミニチュアを建てた時に何度暴発したことか。


少しでも軌道計算を間違うと近場で疑似隕石がお互いぶつかったり、酷い時は『スターリング』同士が重なって内部で衝突・爆発するんだよね。


それで最初何度死に戻ったことか……安全地帯だと効果が実感出来からダメージカット出来なかったし。『リジェクトシールド』は純粋にリソースがもったいないしで。


失敗するたびに壊れるからミニチュアや魔法陣の設計図から何度やり直したことか……。


だから『陽火団』からあの巨大『陽水』を奪ったのは本当の僥倖だった。


あれがなかったらリソースの問題でここまでの規模にはならなかっただろ。本来の想定は今の半分以下だったからな。


「それでこのまま殲滅するの?」

「まさか。並の相手ならそれでもいいけど、あいつらだとこっちがジリ貧なる。ってか分かってて言ってるだろ」

「まあね~。で、具体的にどうするの」

「このまま隕石での囲いを徐々に狭めて塔に追い込む」

「ああ、この塔内部ってもしかして……」

「簡易的だが、ダンジョンになっているんだよ。俺が勝負に出るならやっぱりダンジョンこそが相応しいからな」


これだけで全滅、なんてことも無理だろう。連中の化け物具合はよく知っているつもりだ。


この塔に施した魔術の名は『ザ・ケージ』……範囲内にものを閉じ込め、このダンジョンという口に飲み込むための広範囲制圧誘導魔術だ。


この魔術は当然、無駄に規模のデカい面制圧のために、大量のリソースを今も消費し続けている。正直今の状況でこれをイベント残りの12時間も維持するのは不可能だ。


モンスターで相手のリソースを掻っ攫い、逆にこっちがモンスターで一方的にリソースを増やす環境を作ってまでしても流石に限度はあるのだ。


『ザ・ケージ』の役割はあくまで誘導。下で慌てふためく者たちの怒りでも怯えでもいい。幾分かでもここへ追い込まれればかなり有利になる。そういう作戦――


―― と、言うのが今日までの計画だった。


「なるほどね。でももし下の人たちが全部粘る方を選んだらどうするつもり」

「それは今から分かる。ヨグ、準備出来たか!」

「おう、スピーカードローンも空中投影機もバッチリだぜ!」

「アガフェルも持ち場に着いたか!」

「ええ、万事抜かりないですわ」

「お、また何が始まるの」

「ふっふっふっ、それは直に分かる」


未だに何か隠し事をしているヘンダーには敢えて全ては語らず、マイクのスイッチを入れる。


これで各地の散らばっているドローンから声が届くようになったはずだ。俺は自分の意識を悪役ロールのものに切り替えてマイクへ声を当てる。


『やぁ皆の諸君! 俺からの深夜のサプライズは楽しんいるかな?』

「楽しんでる訳あるかー! 出てこいやこのやろうー!!」

「今度こそぶっ殺してやるぞてめぇ!」


手始めに盛大に他のプレイヤーたちを煽り倒し、雰囲気を盛り上げる。


いいぞいいぞ、なかなかにヘイトが溜まっている。突き刺さりほど視線が集まっていて……実にご都合だ。


さて、つかみはばっちりだ早速本題といこう。


『あーはは! 諸君らの怨嗟が心地いいな! でも恨み言を言うのはまだ早いぞ、なにせ……まだサプライズは終わっていないからな。さぁ、お前の出番だ!』


ジジ……というノイズを挟んでマイクのチャンネルが切り替わる。


そしてスピーカーから美しい、されどどこか危険な香り立たせる妖艶な声が流れる。


『ふふふふ。皆様ごきげんよう! 妾の名は……今更わざわざ言わなくてもいいですわね。こうすれば、分かることですから!』


声の主……アガフェルがそう言うが早いか、流れ星の溢れる夜空をスクリーンにして狐の九尾を備えた絶世の美女が大きく投影される。


投影の位置のせいでまるで塔を囲む銀河を舞台に立ってかのような姿は、とても神秘的で……集まっていた敵意の視線させ魅了する。


それが大きく、それこそこの限定的なマップなら端からでも見える大きさで映し出されたアガフェルは扇子で口元を覆い妖艶に微笑む。


『昼間のステージ、大勢の方に見て頂き感謝しますわ。でもあんな沢山観客がいらっしたにも関わらずあちらの方ではやむなき事情で中止になってしまい誠に残念でしてたわ』


そういうとアガフェルは本当に残念だと言わんばかりの仕草で額に手をやり、吐息を漏らす。


そんな仕草すらも様になる彼女に一部を除き男たちがまた見惚れていたが、次の瞬間にはすでに纏う空気を一変させ……。


『だから今日この場に立ったのは他でもありません……あのステージのアンコールをしたいと思ったからですわ』


実に楽しそうにしながらアガフェルは。


『では、お楽しみくださいませ―― 『運技・神楽』』


何でもなく舞い始め、この天地にて本当の地獄に堕ろした。

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