第197話 本戦ー2日目・その11

―― イベントマップ、何処かの森林地帯にて。


「あちらのみんなはドンパチ騒がしいね。メキラ、あたしたちも混ざる?」

「飽きたからって適当言わない。この資材集め終わったら帰って作戦会議って言ったでしょ」

「だって、せっかくの大規模戦なのに初日以外に単純作業ばっかじゃん。撃ちたいよ、こんなウサギモドキじゃなくて、あのうざったい顔を蜂の巣にしたいー」


『陽火団』と『怪人の巣ヴィランズ』が熾烈な戦いがもう終盤を迎えようとしたその頃、資源を食い荒らす改造版の餓鬼兎がきとを駆除しながら『Seeker's』は平和にフィールドを練り歩いていた。


「おーおー派手にやってるな」 

「今は怪人たち、押してる」

「カグシはよくこの距離でそんなに見えるな」

「むふー」


バッキュンとメキラがぶつくさ言いながらも物資集めしている中、近くの木の上に登り遠くの戦いを見物していた残りのふたり、カグシとメルシアが感想を述べる。


「戦況はどうなのー!」

「もう少しで決着しそう……あ、クラリスが自爆した! 『怪人の巣ヴィランズ』の主力がごっそりいったな」

「あの自爆もう出来るなってたのね。マスターのボティスはどうなっての」

「普通に落ちた。そのせいか怪人たちの動き一気に鈍ってる。逆に『陽火団』の攻めが苛烈になったがな」



指揮官を欠いた怪人たちは動揺し、元から指揮官の自爆も戦術の内である『陽火団』は猛追撃を放つ。


結果、『陽火団』は怪人たちを追い返すことに成功した。これにより『怪人の巣ヴィランズ』側はかなりの被害を受けてしまい暫く再戦は無理となった。


いざって事態に動けるかどうか。ここに来て実戦経験の差が出た形だ。


「『陽火団』はどうにか生き残ったが……あの被害じゃ今日はもう拠点に引きこもるしかないか」

「食材が足りない『快食屋グルメ』はうちと同じ、素材収集に専念って感じだし、『戯人衆ロキ』もやっぱ見つかんないし。今日はもう派手になりそうにないか。ちぇー……つまんないの」

「ま、俺たちは一旦拠点に帰るか。手持ち無沙汰になった怪人に襲われてもいやだし」

「それもそうね」


そうこうしてる内に収集ノマルを満たしていた4人は手早く拠点へと帰還し、すぐに会議室とした大部屋へと集結する。


「あーこれから対『戯人衆ロキ』との戦いに向けての作戦会議を始める」

「で、結局のとこどうするの?」

「恐らくあいつはまた繁殖系のスキルでモンスターを増やしてくるはずだ。その露払いには俺たち4人以外のメンバーに任せる。そして俺たちは出来れば『戯人衆ロキ』のメンバーをひとりずつ担当して倒す。割り振りは……」

「そこから私が話すわ」


クランマスターのメルシアから引き継ぎメキラが資料をまとめた仮想ウィンドウを見せながら、事前に決めた割り振り発表していく……つもりだったがここに空気を読まないバッキュンが割り込む。


「あ、あたしに親玉やらせて! あの根暗野郎にスカッと風穴開けてきてやるから」

「だめよ。バッキュンには『無器』と戦ってもらいたいから」

「えー! なんでなんで! あたしは大将首を希望する!」

「単純に間合いの問題よ。超遠距離の射撃戦とかだと即応出来るのはあなたしかいないでしょ?」

「あー……確かにそうだね。それにあれと撃ち合いってのもそれはそれで面白そう!」


最初の反発もどこへやら、すぐ興味が湧いた方に関心が移ったのか銃を構えながらヨグ相手の脳内シミュを始めるバッキュン。


良くも悪くも単純なのが彼女らしさでもあり、ここの皆はそれに慣れているから周りの反応は苦笑いを浮かべる程度だ。


ヨグの多様な手札をどう潰すのか没頭しだしたバッキュンを他所にメキラが続ける。


「で、『金狐姫』は私の担当。理由は私が一番対集団戦に向いてるから」

「あー……やっぱそういう展開になると思うか」

「ええ、彼女の性格からして間違いなく。あれからモンスターを借りるにしろ、どっかで“ファン”を連れて来るにしろ、間違いなくひとりでは戦わないと思うから」


アガフェルの性格や戦略からして魔法での面制圧がもっとも有効と判断したメキラはそう纏める。


実際にアガフェルが自分で前線に立つことはほぼない……というかこのイベントまで彼女が戦ってる姿など誰も見たことがない。


なら自然とアガフェルとの戦いは彼女率いる集団との戦いを想定したものとなる。


「あんな強いのに、不思議」

「ほーん、カグシから見てそうなのか。それは相当だな」


だが、ついさっき珍しいアガフェルの直接戦闘シーンを見たカグシにはそれが不思議でならないらしい。


カグシから見たアガフェルの戦闘力は自分らには劣るものの、かなりのレベルと感じたからに他ならない。


とはいえ、だからと言って警戒する以外に特に話すこともなく、話題は次に移る。


「で、本命の大将首……プレジャはカグシに任せるわ」

「……いいの?」

「ああ、恐らく相性的にカグシがやつ相手には一番向いている。それに俺は、もう片方にも用があるんだ」

「ん……分かった」


もう片方、わざわざ名前出さなくとも誰などこの場の皆が分かっていた。


『魔王』ヘンダー・ケル。


このゲームで最初に、最強と謳われていたクラン『Seeker's』にだったひとりで最大の屈辱を与えたプレイヤー。


ヘンダーとのこの時の因縁が巡り巡ってプレジャを誕生させ今の『Seeker's』へ二度めの大敗北を呼んだのだから、クランの、ここの皆のリーダーとして無視できるはずもない。


メルシアは今回この期を幸いに2つの因縁を同時に決着させる心積もりなのだ。


「おっと、話してたらもうこんな時間か。そんじゃ今日はもう寝るか」

「あはは! ゲームで寝るってのも変な感じ……って早くない? まだ夕方だよ」

「まーた聞いてなかったの。明日の作戦は手頃なクランを夜明けで奇襲するからって言ってたでしょ。だから今から寝て起床時間をずれさせるのよ」

「あー、それで今度はうちが全体のペースを握るとか言ってたね。確かに今までは『戯人衆ロキ』の連中に主導権を握られっぱなしだったもんね」


それから他クランの動向も小競り合いがあっただけで特にこれといった事件はなく、夜は耽り――。



―― 時刻にして深夜00時、大会最終日の3日目。


イベント残り時間『12:00』。


異変はこの時間にてなんの前触れなく起こった。


「おう!? なんだ、なんか揺れてるぞ、敵襲か!」

「うきゃあ~!? 何この爆音、うるっさ!」

「これは、まさか!?」


ババババーンッ……と、絶え間ない轟音でマップ中の者が目を覚ます。


全身を揺さぶり、鼓膜をガンガンと乱暴に打ち付ける爆音にいやな予感を覚えながらひとりひとり……それこそ本戦の参加する5組のクランがぞろぞろ拠点の外へと飛び出す。


それと同時に彼らが目にしたのは夜の空に流れ星で出来た光の川と……それらが地上に齎す圧倒的な破壊の閃光。


あまりの現実離れした光景に唖然としながらも、自然と或いは本能で皆がこの天変地異の元凶を辿る。


「あ、ははは……なに、コレ?」

「もう、言葉が見つからないわ……」

「きれい……」


そしてあるものが、この光景を見てはこう呟いた。


「はは……マジかよ。銀河が、……!」


そこにはキラキラと、廻る流れ星の輪をと纏って真夜中の闇に瞬く銀河の塔がその威容を文字通り地へと叩きつけていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る