第196話 本戦ー2日目・その10

混迷する戦場に突如として割り込んで来た鈍銀の人影が敵に罵声を上げて駆け抜ける。


「おらおら、退け雑魚どもー!」


ご自慢の高耐久にものを言わせ、目につく敵を片っ端から跳ね飛ばしてくる『天下独尊の剣』のマスター、シグルズ。


その勢いを止めようと手近なものたちがシグルズを牽制するが、あまり効果はない。


「な、こいつ単体でなんつ突破力だ!」

「ってか、なんでひとり?」

「はっ! あんな腑抜けども、もういらねぇだけだ!」


―― 初手で全滅、というあまり呆気ない大敗北に『天下独尊の剣』のメンバーたちは戦意喪失していた。


前半で得た利益をほぼすべて注ぎ込んでまで挑んだ戦いで、まさか誰にもまともに相手にされないまま“ついでに”あしらわれたのだ。


自分たちを上位クランと自負していただけに、その精神的ショックは計り知れない。『天下独尊の剣』大半のものは実質今イベントを諦めた。


だが、そんな中でもシグルズだけは諦めというか、往生際が悪った。


シグルズは失意に落ちていたメンバーたちを慰めるどころか罵倒し、彼らから手持ちのアイテム、装備を脅してなかば強奪。


そのまま目を血走らせてフィールドへと飛び出した。そうやって闇雲に走り回り偶然大きな騒ぎ起きていたここに気付き流れ込んで来たのがシグルズがここへ来た経緯となる。


「さっきからおいたが過ぎますよ~」


回復アイテム、防御アイテム、回復スキルと湯水の如く使い、どれ程ダメージを積もうと猛然と向かってくるシグルズを見かけねてクラリスが阻止に取り掛かる。


クラリスの間延びた呟きと同時に光の線が宙を薙ぎ瞬く間にシグルズの足を切り飛ばす。


「んなもんで俺を止められるか! 『聖癒』! 『祈祷・闘』!」


そのまま倒れる……かに思えたシグルズが即座に祈祷の構えを取り聖騎士パラディン専用の自己大回復スキルと神官系の回復スキルを同時発動し、一瞬で欠損した足とHPを満タンまで再生した。


神官系のジョブは3柱の神の内、誰かの宗教に所属するかを決め叡智神の場合バフ特化の祝福師、創造神の場合ヒール特化の祈祷師を授かり、闘争神の場合自己限定だがバフ、ヒール両方の能力を授かる修行僧のジョブを得る。


結果、シグルズはちょっとたたらを踏むも吶喊の勢いは止まらずに走り続けることが出来た。


「しつこい方ですね~」

「『聖癒』はMP消費が嵩む大技のはず……って、もうMP回復してる!」

「彼に物資を集中させたってところですか。リスキーですが効果的ではあります……まあ、彼が死なない前提で、ですが」


『陽火団』の誰かの呟きをきっかけにしてシグルズを中心にした水の鏡が展開。そこへクラリスの『陽水』からのレーザーが照射され反射して背後から首を刈り取る。


鮮やかな連携でのウィークポイントを狙い撃った即死攻撃にシグルズがまた呆気なく散る……かと思いきや、落ちる途中の首が逆再生のようにくっつき蘇生を果たす。


「そんな、頭を落としてもだめなの!?」

「慌てない。恐らくタング系によくある食いしばりスキルのどれかでしょ」

「だったら数打てばいいだけですね~」


瞬時に復活の原因を探り当てた『陽火団』はさっき同様、反射させた攻撃でまた首か心臓、ゲームルールで定められた即死部位を狙う。それも復活しても即時追撃出来る構えをとってだ。


が、シグルズも本戦まで生き残って来ただけあって並の使い手ではない。


狙いはすでに読んでいるとばかりにシグルズに反射体の水鏡ごと魔法を打ち払われてしまう。


彼が持つ聖剣には3つの力がある。


魔を打ち払い魔法すら切れる『破邪』と回復スキルの性能を底上げする『祝福』を活用しての一点突破しそこから被ダメージを威力に変えるカウンタースキル『天裁』で必殺を放つ、それが彼の常套戦術だった。


それからも何度か角度やタイミングを変えて撃ってみるも、1、2発は受けて見極められた後は通用しなくなり、パターンが読めてきたのか徐々に角度を変えただけでは当てることも難しくなる。


「むぅ……結構やるね、彼」

「思ったより対応力と順応力が高い。言動はともかく実力は本物と見ていいでしょう」

「ん~……普段なら回復の起点すら残さず光で蒸発させて終わりなのに、今はそのリソースが足りないわ~」

「やっぱり巨大『陽水』を奪われたのは痛かったですね……」


『陽火団』側は諦めず手を変え品を変えてシグルズを攻めたてるも決定打はなく……ついには拠点の入口付近まで到達されてしまった。


「はっ! 思い知ったか、これが俺の本当の実力……」

「―― ふははは! 誰とも知れぬ聖騎士よ、案内ご苦労である!」

「なっ、てめぇ! いつの間に!?」


今回初の戦果らしい戦果を目前に悦に入るシグルズを嘲笑うように、悪魔の如き姿のプレイヤー、ボスティがクランの魑魅魍魎たちを引き連れて忽然と現れる。


なんとボティスは自分を中心に一定範囲を風景に溶け込ませる妖術スキル、『霧隠』で少数の仲間とシグルズの背後にぴったりと張り付きここまでの楽々とついてきていたのだ。


ちなみにレーザーの流れ弾に関しては対光線兵器用に改造したスライム怪人が全員を包んで守っていたので問題なかった。


「それでは失礼する!」

「じゃーな。俺様たちのタクシーなってくれてあんがとよ!」

「待ちやがれ、ブサイクどもがァ!」

「てめぇこそいい加減うせな。『大滑』っ!」

「なっ、おおおおおうー!?! 何だこりゃ~!!」


自分を虚仮にした態度にまた短気を起こした突っ込んで行ったシグルズだったが、ボティスの護衛として来ていたスリップフロッグのスキルで攻撃を往なされ片手間に投げられて身体が宙を舞う。


「あ、チャンスよ~。みんな爆発系の魔法、溜めて~……一斉射っ!」

「のわああああ~!?!」


そこで目敏く目を付けたクラリスの指示で『陽火団』からの集中砲火がシグルズを空高く跳ね上げる。


「くっそ、覚えてろー!」


と、なんとも小悪党っぽい捨て台詞を残して……シグルズはそれはそれは見事なお空の星なったのであった。

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