第195話 本戦ー2日目・その9

「―― お前ら、遊ぶのも程々にしろ」


人前ということも偉そうな、『戯人衆ロキ』の親玉としての俺の声が響いた瞬間、戦場が静まり返った。


何だこの反応と思いながら、模倣魔術『フェイカー』で作った羽虫に埋め込んだ遠隔監視カメラ越しに対峙したヨグとアガフェルを見やる


正直超焦った。

なんでこの人たちいきなり味方でドンパチしてるの?


仲が悪いのは知っていたが、まさか今の状況で利益度外視でやり合うほどとは思わなかった。


見た感じ間が悪かったってのも多少はあるみたいだが……だからってまさか直接の殴り合いになるのは予想外もいいとこだ。


その前もヨグはいきなり『怪人の巣ヴィランズ』を傘下したいとかいうし、アガフェルは勝手に出てったと思えば他所の抗戦に紛れて暴れるしでもうめちゃくちゃだよ。


今も地下で気をもんでるこっちの身にもなってくれ。こういう時に宥めるべきの本当の親玉の方はさっきから「マジでおっぱじめてる、あははは!」って爆笑しながら転げ回ってて役に立たねぇしで……本当にさ、勘弁しろよ。


「……ボスか」

「ヨグ、“例のモノ”がもう仕上げに入っている。帰投しろ」

「へぇ……思ったより早かったな。なら俺は帰ってもいいんだが」


まあ、問題はアガフェルの方だよなぁ。


「ボス、申し訳ありませんが邪魔しないで欲しいですわ。このジャンクは一度、妾がきっつく灸をすえないといけないんですの」


案の定、言葉遣いこそ丁寧なままだが物騒なことをいかにも不機嫌そう言ってきた。


正直、彼女が素直に俺の言い分を聞くとは端っから思っていない。アガフェルのことは未だによくわかってないが、基本ヘンダーの言う事しか聞かないのは知っていたからな。


だから当然それにも対策を考えてきた。


「ほぅ……どうしてもと言うなら仕方ないが、いいのか?」

「? 何がですの?」

「お前のために素敵なプレゼント用意したのに、このままじゃ渡せないと思ってな」

「プレゼント?」


こちらの意味深な言動に気を引かれたアガフェルへ向かって自信満々に、内心の不安を決して出さないように彼女がもっとも吊られそうな言葉を選ぶ。


だ。まさか、お前ほどのものが今いる、そんなチンケなステージに満足してるわけではあるまい?」

「ふふ、言いますわね」


俺の挑発じみた言葉に不快な顔もせず、寧ろ楽しいそうにいうアガフェル。


よしっ、今までの言動からしてこう言う煽り方が効くとは思っていたがビンゴか!


ま、実際にただ煽るためだけに言っているのはなく、さっきのスキルを見て俺は確信したことがある。


俺が今やろうしてることにアガフェルが加わればはより完璧に近付く。


「もし引かないなら、お前をそこに立たせる気はない。それでも帰らないなら好きにしろ」

「いいでしょう。そこまで言うなら素直に指示に従いますわ。でも……その分期待してますわよ?」

「ああ、存分に期待してろ」


これは闇に「これでショボいかったら……分かってますわね」という脅しだな?


アガフェルは怒らせると何してくるか読めないから実際にちょっとビビってるけど、ここは自信満々に言い返す。


まあ、舞台の大きさに関しては本当に自信ありだから問題ない……はず!


「では撤収だ!」

「「了解」」


という訳で……。


どうにか無地に我がクランのじゃじゃ馬ふたりを説得出来……それぞれの手段で両方とも瞬時に消えたため、この戦場で『戯人衆ロキ』の影は完全に消えたのだった。




◇ ◆ ◇




「結局、荒らすだけ荒して帰っていきましたね~」

「ほんと、何なのあのクランは……」


『陽火団』の者たちが揃ってげんなりした顔で愚痴をこぼす中、対照的に『怪人の巣(ヴィランズ)』の方からボティスの豪快な笑い声が響く。


「ふははは! 見事に皆振り回されているな!」

「笑ってる場合か! あんのアホどものせいで指揮系統ぐっちゃぐちゃだぞ?! ヨグの野郎もマジで帰りやがったしよ!」

「まあ、そうかっかとするなフロッグスリップよ。いいではないか楽しければ!」

「はぁ……あんたも本当にブレねぇな」


もう、戦況は混戦過ぎてどっち優勢なのかも分からないレベルで崩壊している。例えば……


乱射、誤射が頻発してるのはもちろんこと。

どこかでは何故か攻めていたはず怪人が敵拠点を壁に混戦から身を隠したり。

またどこかでは『陽火団』側が戦場の外周に飛び出し、敵を拠点の方に追い立てたり。


と、戦列もなにもあったものではない。


流石にこれをほっとくのは不味いと各陣営(若干1名除く)が頭を悩ませていたその時。


「うおおおおおー!!」


やたら耳障りな雄叫びを上げて走ってくる全身鎧の男……『天下独尊の剣』のマスター、シグルズが乱舞する矢玉や魔法を物ともせずに突っ込できた。


「どいつもこいつも、どいつもこいつもォ! 俺を馬鹿にしやがって! 今度こそ目に物見せてやら!」


初手の速攻退場がよほど腹に据えかねているのか、今にも額の血管がはち切れんばかり怒っているシグルズが鬼気迫った形相でプレイヤーたち跳ね除けて『陽火団』の拠点を目指す。


「あーもう! 次から次へと切りがありませんよ~!?」

「本当に、退屈しない日ですね~」

「ふはははは! 息をつく間もないとはまさにこのことだな!」

「もうほんと勘弁してくれよ……」


こうして道化たちが呼び起こした混沌は留まるところを知らないず、その勢いを増していった。

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