第213話 本戦ー最終日・終わりに凶星は昇る その2


攻撃の余波で出た土煙やらが晴れて見えた星喰らいは一見してズタボロに見えた。


まず俺の疑似隕石、ヨグの飽和射撃で身体を構成する光の線が砕けあっちこっちが割れたガラス細工のようになっている。


次に『怪人の巣ヴィランズ』のものたちがやった謎の液体だったり、生体型の射出武器だったりが髄所に掛かっておりカオスな容態となっている。


特にひどいのがヘンダーがやったやつで、極太の消滅属性の波動砲っぽいのが通った痕が特大のトンネルと化している。


だがしかし……。


「は、これでHP1割ぐらいしか減ってないか」

「体積結構削れたのにね」

「バケモン過ぎんだろ……」


ただそれでもやっぱり現状の最強と知られたレイドボス。


もしかするとあの星獣でも瀕死なるかも思う総攻撃を食らっても、大して堪えた様子もない。


それに加えて……


「HPが回復してる。欠損部分も凄いスピードで修復されてるな」

「星喰らいの特性だね。食らったら食らった分だけ再生する、そういう能力なの」

「そしてやつは常に周りの物質、エネルギー問わず食ってると。けっ、クソボスもいいとこだぜ」


レイドボスらしい星喰らいの特大スケールの多重HPバーは今も徐々にだが回復を続けている。


ヨグの言ってる通りその回復はやつの捕食行為と連動しているようで、星喰らいがモノを吸収するごとに身体の欠損を含めて治っていっている。


「なら、とっとと仕留めーねとな!」

「ほっほ! わしらも張り切ってちゃうかのう!」

「もっと攻めるぞ、貢献度を稼ぎじゃー!」


調子づいた『怪人の巣ヴィランズ』の何人かが、気がはやったのか星喰らいへと躍りかかる。


「あ!? ちょっと迂闊に近寄ったら……」


それを見たヘンダーが怪人たちを止めるも、すでに臨戦態勢に入っていた星喰らいの反応が一歩早かった。


「ぐぇ!?」

「これ、潰れ……!」


最初は大ダメージを負わせた『戯人衆ロキ』メンバーを向いていた星喰らいが、弾かれるように急接近した怪人に向き直る。


星属性魔法を展開したのだろう、突如あまりの重力に晒され接近していた怪人たちが一瞬で崩折れて地面に貼り付く。


範囲指定で増している重力はどれほど強化がかかっているのか、境をもって地盤が丸ごと圧縮されて沈んでいるほどだ。


「あ、きょあああ!?」

「おわ……ッ!?」


そこへと不可思議な挙動で動き出した星喰らいの前足?と思われは部分が振るわれ、光を束ねた爪が通過する。


切り裂かれて……というより切り取られたという風な傷に飲まれて突っ込で行った怪人たちはひとり残らずに消失した。


「ちっ、余計なことして! ほら、後輩くんも次の弾撃って早く!」

「お、おう!」


珍しく焦ったヘンダーの声ではっとした俺は『ザ・ケージ』効力で補充され続けている疑似隕石を順次放つ。


横でヘンダーが山積みした魔石やポーションで、ヨグがマップ中でかき集めた資材でリソースを補い魔法と銃弾の砲火を浴びせていく。


攻撃されてる星喰らいも当然反撃して来てるのだが、そこは事前ヘンダーたちが立てた思われるバリケードで防げている。


土属性魔法で壁を立ててるだけで数瞬足止めする効果しないが、星喰らいは動くが鈍く遠距離攻撃手段が乏しいのかこれでも十分に戦前は保っている。


「にしてもなんで、あんな射程短いんだ」

「それはこっちの射程がおかしいだけ。普通の魔法は設置型でもなきゃそんな遠くで制御出来ないからね」

「ああ……そうか」


俺の場合大地術士由来の高い補正や『魔伝・天』などで色々と規格外のブーストが掛かっている。


ヘンダーはいくつものサブジョブで無理矢理射程を伸ばしている。


ヨグは銃器で元から長射程が得意で、怪人たちはそのヨグから技術提供を受けている。


それがアガフェルの『運技・神楽』で絶対に外れないきた。そりゃこうもなる。


さっき見た通り下手に接近したらひとたまりもないので星喰らいの魔法の射程外で足止め兼攻撃をしているとやがて怪人たちも復活して来たのだが……。


「なん、だこれ」

「デバフ、星失……?」

「なっ! ジョブ勝手に外れてる!?」

「は!? ま、マジだ……いや、それどころかステータスが一部を非活性化してるぞ!」


星失……一時的にランクを下げる、星喰らいが持つランクダウンを引き起こすデバフ。


これが星喰らいの討伐難易度を跳ね上げたもっとも有名な状態異常だ。


情報がなかったβ版時代に多くのクランがこれにやられ、実質戦闘不能にまで追い込まれた最強のデバフ。


普通そう知らないプレイヤーはないのだが『怪人の巣ヴィランズ』元がエンジョイ勢だ。

おそらくその辺はあまり興味がなく調べてはなかったのだろう。


「くそ、なんか身体が重い」

「俺、メインで使うスキルがなくなったんだけど……」

「どうすりゃいいんだ……」

「はいはい、星失になった連中は下がってて。★ランクがゼロになっても責任取らないよ」


そしてこれのもっとも恐ろしいところが完全星失という重症化があること。


通常喪星はせいぜい1時間ほどで終わるが、完全星失になると丸1日すべての能力を没収される。それこそ自分ではアイテムを使ったり装備を着けることも許されない徹底ぶりだ。


星喰らいがこんな能力をもってる理由としてはゾンビアタック対策と前から予想されている。


《イデアールタレント》は通常時のデスペナルティが非常に軽い。星喰らいはその性質上自由にマップ移動する徘徊型のボスで、HP進行は全プレイヤー共有となる。


これだと何らかの制約を課さないとゾンビアタックで容易に狩られてしまう……それ故の処置だと。


おまけに……。


「なんか突然元気になってないか!?」

「消化が終わった、ってことだろうね」


ヘンダーの言う通りなのだろう。プレイヤーが復活し、弱体化が確定して段階からステータスアップしたのか、星喰らいのパワーもスピードも格段上がった。


そのせいで今まで稼げていた距離がどんどん詰まってきている。


敵を弱くしては、その分だけ自分は超強化されるって……話には聞いていたが反則級の能力だ。


「とにかく今は足止めに集中! 接近されたら終わりだから!」

「それはいいけど、何か勝ち目はあるんだろうなヘンダー!?」

「ご心配なく、ちゃーんと用意してあるよ」



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